(左から)後藤真希、前田敦子、中森明菜、松田聖子

 前田敦子・勝地涼夫妻が離婚協議中であることが報じられた。ふたりは2018年7月、交際4か月ほどで結婚。翌年3月には長男が生まれたが、その1年後には別居状態になったという。

「時代のセンター」アイドルの呪縛

 ただ、この夫婦、結婚当初から先行きを不安視されていた。その根拠はもっぱら、勝地の性格だ。2015年には『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)で「ガリッガリの人がいいです。折れちゃう、みたいなのが好きなんです」と発言。当時交際中だった戸田恵梨香のことを指すのではと話題になった。

 好みを語るのは構わないが、いわゆる「におわせ」のようになるのはいかにも軽いイメージを持たれてしまう。昨年11月に放送された『人生最高レストラン』(TBS系)では、尊敬する古田新太から「お前は思ってる以上にバカだ」と言われた話もしていた。

 今回、別居にいたった背景として、勝地が育児を手伝わずゲーム三昧だったとか、ケンカで暴力をふるって前田にケガをさせたといった証言が周囲から飛び出している。一方、前田も自分の実家にべったりだったことなどが取り沙汰されているが、一体何が原因だったのか。

 とはいえ、前田のようなアイドルの頂点まで行けた人には、何かと不幸に陥りやすいケースが多い。彼女は草創期から全盛期までのAKB48でセンターを務めたが、それは「時代のセンター」になることでもあった。

 選抜総選挙では「私のことは嫌いでも、AKB48のことは嫌いにならないでください」という名言を残し『前田敦子はキリストを超えた──〈宗教〉としてのAKB48』(ちくま新書、著=濱野智史)という文化人による評論書まで出版されたほどだ。

 それほどの存在になってしまうと、プライベートでは反動のようなことも起きる。そのパターンは2種類あり、家族トラブルと恋愛での失敗だ。

ゴマキや広末はどうだった?

 たとえば、AKB48の前に国民的女性アイドルグループとなった『モーニング娘。』において、最盛期の顔だったのがゴマキこと後藤真希。その七光りにより、弟の後藤祐樹までデビューしてしまった。

 が、祐樹は遊びたい盛りで芸能界と合わず、素行不良により引退。その後、窃盗や強盗傷害で逮捕されてしまう。 その服役中、母親が亡くなった。「ゴマキ御殿」とも呼ばれた自宅の3階にあった弟の部屋からの転落死だ。

 しかし、ゴマキは男選びについては間違えなかったようだ。結婚相手は年下で、地元の一般人。小学校時代にサインをもらいに来て以来、彼女のライブや舞台をよく見に来ていて、その雰囲気に惹かれた彼女から交際を申し込んだという。

 著書『今の私は』(小学館)にはこんなエピソードが綴られている。

《外で会うことは避けていたので、たびたび家に来るようになり、家族ともすぐに打ち解けていた。(略)甥っ子ともすぐ仲良くなっていたのは、彼のキャラクターだろう。子どもに受け入れられたことで壁がなくなり、その後も実家にいることが多くなった》

 この普通っぽい気楽さがよかったのだろう。じつは「時代のセンター」まで行ったアイドルの場合、同業者的な相手との恋愛はうまくいかないことが多い。

 1990年代に国民的アイドルとなった広末涼子もそうだった。デビュー後、熱愛報道された伊勢谷友介といい、最初の夫の岡沢高広といい、当時はやんちゃな印象のモデルで、伊勢谷はのちにクスリで逮捕。岡沢は半グレ集団との関係が取り沙汰されたりした。

 再婚相手は、ろうそくアートなどを手がけるキャンドル・ジュン。同業ではないのがよかったのか、長続きしているようだ。

聖子や明菜にも通づる「法則」

 この「法則」は80年代の「センター」アイドルを争った松田聖子中森明菜にも当てはまりそうだ。

 聖子は郷ひろみと破局後、神田正輝と結婚したが、ジェフ・ニコルスやアラン・リードといった外国人の俳優やダンサーと浮気してそれを暴露されたりしたあげく、離婚。その後は二度続けて歯科医と結婚し、ふたりめとの結婚生活が継続している。

 明菜は近藤真彦との結婚を夢見たが、自殺未遂をするなどして、破局。その後、マネージャーなどと交際したものの現在、独身だ。こちらは実家ともうまくいかず、自ら戸籍を抜いて絶縁したとも報じられた。その背景には、彼女が稼いだ収入をめぐるいざこざがあるようだ。

「時代のセンター」となったアイドルにこうした家族トラブルが起きやすいのは、富と名声がさまざまな歪みをもたらすからだろう。また、同業者との恋も、同格なら双方の事務所なども含めて衝突しがちになる。

 かと思えば、格差がある場合、相手はちょっとクセが強かったりする。「センターアイドル」にアタックできる男はある意味、特殊な人が多いからだ。

 そんななか、例外的存在が山口百恵だろう。何がよかったかというと、愛人の子として生まれ育った彼女は、デビュー前から、父親を通して「ダメ男」というものを学習できていた。さらに、この父親は彼女が売れてからも、親権を返せと迫ったり、無断で事務所に借金したり、あげくは結婚も妨害しようとしたが、そういう悪いしがらみをきっぱりと断ち切ることで、本当の安息にたどりつけたわけだ。

 その安息をもたらした夫・三浦友和は同業者だったが、その関係性はただの共演相手というレベルを超えていた。著書『蒼い時』のなかで、恋が芽生えていった流れについて、百恵はこう書いている。

《親や妹と顔を合わせるよりも多くの時間、彼と共に仕事をしていた。(略)たくさんの時間を共有するうちに、初め『兄さんのような人』という気持ちがわずかながら違う方向へ走っていくのは感じていた》

 ゴールデンコンビと呼ばれ、数々のドラマ・映画で共演した6年間、ふたりは家族のように接しながらおたがいを生涯の伴侶にできると確信したのだ。

 さて、話を前田に戻そう。彼女は昨年、太田プロから独立してフリーになった。結婚した夏に撮影された主演映画『葬式の名人』(2019年公開)ではシングルマザーを好演。今後はプライベートの実体験も肥やしにして、演技の幅をさらに広げていきたいところだ。

 ただ、ハリウッド進出を視野に入れている、とも報じられている。かつての聖子もそうだったが、日本でのトップを経験すると、海外での成功を目指したくなるものらしい。これも「時代のセンター」が陥りやすい落とし穴だろう。

 誰よりもその時代に愛された女性アイドルたち。そのぶん、時代が嫉妬して、幸せを邪魔するのかもしれない。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。