池脇千鶴

《40代独身女性を等身大でリアルに演じている感じ》

 深夜帯ながら、女性を中心に話題を集めているオトナの土ドラ『その女、ジルバ』(フジテレビ系)。初回視聴率は6・3%(関東地区)と、同枠の最高視聴率をマーク。中でも9年ぶりに連ドラ主演を務めている池脇千鶴(39)の役づくり、演技力がすごいと絶賛の声が相次いでいる。類いまれなる演技力はどのようにして培われたのか? その原点を探るべく、彼女をよく知る人たちに話を聞いた。

芸能界入りのきっかけは『ASAYAN』

 両親の地元・鹿児島で誕生し、大阪の東部で育った池脇。

 地元に住む母親に話を聞きに行くと、快く取材に応じてくれた。可愛らしいルックスとは裏腹に、幼少期から気の強いところがあったようだ。

「まだハイハイしているぐらいのときに、ソファの下から出てこなくなったことがあって。心配して声をかけたら“アタチね、泣きたいの!”と言ってから泣きだしたんです。人前で泣くというのが悔しかったんでしょうね。自分で感情をせき止めるような部分が昔からあって、手のかからない子でしたよ」

 過去のインタビューでは、「幼稚園のころから女優になりたいと思っていた」と語っていたが、母親がその思いを知ったのはオーディションを受ける少し前だったとか。

「小学校や中学校では“女優になりたい”と周囲に夢を話していて、先生や同級生たちが応援してくれていたそうです。でも私が知ったのは、中学3年の進路相談面談のとき。先生が“東京に通うなら、新幹線の駅にアクセスしやすい学校のほうがいいんじゃないですか?”と、アドバイスしてくれました」(池脇の母)

 芸能界入りのきっかけは、14歳のとき、『ASAYAN』(テレビ東京系)で募集された『三井のリハウス』の“リハウスガール”オーディションに友人が応募したこと。

「同級生が応募したところ書類審査を通過して。その後、ビデオ審査があったんですが、ビデオを持っている知人などを探している間に年末になり、郵便が止まってしまい、締め切りに間に合わなくなっちゃって……。ちぃちゃん(千鶴)がショックで泣いていると、当時、運送会社でアルバイトをしていた兄が頼み込んで、金融機関用の特別な配達車に応募書類を積んでもらえることに。何とか間に合ったんです」(池脇の母)

 周囲の協力もあり、8000人の応募者の中から市川準監督に見いだされ、'97年にCMでデビュー。ドラマ評論家の北川昌弘さんは、当時からスター性を感じたと語る。

「CM畑出身の市川監督が選んだだけあり、15秒の中でも存在感を出せるアイドル性の高い女の子が現れたなと強く印象に残っています」

風吹ジュンも絶賛する“プロ意識”

 市川監督がメガホンをとった『大阪物語』で映画デビューを飾ると、映画コンクールの新人賞を総ナメ。デビューから4年目の'01年にはNHKの朝ドラ『ほんまもん』のヒロインに抜擢されるなど、国民的女優の仲間入りを果たす。同作でヒロインの母親役を演じた風吹ジュンも、彼女の人間性を絶賛する。

池脇千鶴、NHK連続テレビ小説『ほんまもん』ヒロイン発表にて(2001年)

「最初から大物でした。ハードな撮影が続いていましたが、いっさい首を垂れることもないタフな心で終始、笑顔で接していましたね。庶民的でありながら時代に媚びるでもなく自分のペースであり続ける。女性の強さ、根っからのプロ意識の高さを感じました」

 透明感のあるルックスゆえ、アイドル的な扱いを受けることも多かった池脇。朝ドラが終了した翌年、映画『ジョゼと虎と魚たち』で濡れ場に挑戦したことで、実力派女優への一歩を踏み出す。

「俳優が多くいる事務所であればCMのオファーなども考えて、朝ドラのヒロインを務めた直後にヌードになる仕事は断るケースが多いと思います。しかし池脇さんは、デビュー当時から吉本興業(の系列)に所属。事務所が長期的な戦略を立てて、急いで売り出さなかったことが彼女のスタンスとマッチし、早い段階で脱・清純派に成功しましたね」(北川さん)

 過去のウェブインタビューで転機になった作品を聞かれ、

《強いて言えば『ジョゼと虎と魚たち』ですね。アイドルっぽい目線で見られていたのが、初めて女性からファンレターをいただいたんです》

 と語るなど、彼女自身も思い入れが強いようだ。別のウェブメディアのインタビューで出演作品を選ぶポイントを聞かれたときは、

《自分が面白いか、面白くないか。観たいか、観たくないかの台本ありきですね》

 そう答えていたとおり、次第にじっくり作品を作り上げる映画中心の活動にシフト。'14年公開の映画『そこのみにて光輝く』では、貧しい家庭を支えるために身体を売るヒロインを熱演。『日本アカデミー賞』優秀主演女優賞のほか、多くの賞を受賞した。

「金欠で食事は炭水化物ばかりという太りがちな貧困女性を演じるためか、ぽっちゃりボディでラブシーンに挑んでいて、本気度が伝わりましたね。呉美保監督も“知名度があるのに、ここまで身体を張れる女優さんは彼女くらいです”とトークショーで称えていました」(映画ライター)

映画『そこのみにて光輝く』で池脇は主人公の綾野剛、不倫相手役の高橋和也との濡れ場を体当たりで演じ、映画賞を総ナメ

周囲も驚く徹底した役づくり

 放送中のドラマ『その女、ジルバ』では生きる喜びを見いだしたことで輝きを増していくヒロインを演じているが、

《回を追うごとに綺麗になっていっているのがすごい》

 とSNS上が称賛の声であふれるほど、徹底した役づくりとその確かな演技力でドラマに説得力を与えている。

「衣装合わせの際に池脇さんが演じるアララのドレスを着た瞬間、あまりに役柄にハマりすぎていて思わず感動で涙を流したスタッフがいたほどクランクイン前から役が板についていたそう。1話目の老け具合が話題になりましたが、撮影に入る前に見かけたときの素顔は20代後半に見えるほど若々しかったので、余計に驚きました。どうやったら短期間であそこまで役づくりができるのか不思議なくらいですよ」(テレビ誌編集者)

 大先輩の風吹もこう期待を寄せる。

「年齢に左右されることなく、不動の存在を保てる女優さんだと思います」

 年齢を重ねるたびに存在感を増していく彼女が、日本のドラマや映画を面白くし続けていく──。