美輪明宏

 女優・冨士眞奈美が古今東西の気になる存在について語る当企画。第2回は、女優として数々のハンサム、色男、イケメンを見てきた冨士さんが語る「印象的な男性」について。

第2回 風流とハンサム

 春が待ち遠しい季節になりましたね。今年は例年より三寒四温を感じるのが早く、3月だというのに暖かい日が多い。私は、俳句を始めてもう半世紀近くがたつのだけれど、俳句の素晴らしさのひとつに、季節に対して敏感に、愛着を持って接することができるということが挙げられると思う。

 俳句がご縁のひとりに、徳島にお住まいの船越淑子先生という方がいる。「青海波」という同人誌の主宰をされている俳人なのですが、しいたけやサツマイモ、すだち……季節の旬のものをいろいろと送ってきてくださる。これがとても心地よくてうれしくて。すだちはまだ出始めのころに、すだちの花と一緒に送られてきて、熟れるころにはまた別のすだちが届く。

 届いたものを見て季節の到来を感じることができるのは、俳句をしているからこそわかる喜び。俳句仲間は、情が深くてうれしい。そして、とても風流なの。

男性にも美人薄命的なものがある

 春の長雨というくらい、春は雨の日が多い季節。「春雨じゃ濡れて行こう」なんてセリフがありますが、色男に雨は似合う。編集担当のYさんから、「今までどんなハンサムに会いましたか?」と聞かれて、そんなことをふと思ってしまった。

 まだ私がNHK専属で新人の女優として駆け出しのころ「ああ、この人はハンサムだな」って見惚れてしまったのが、森美樹さんという俳優だった。松竹京都にいた方で、背がしゅっとしていてね。どことなく品が漂う素敵な方だった。こんなにハンサムな人がいるんだなって驚いたくらい。

 エランドール賞新人賞を仲代達矢さん、江原真二郎さんとともに受賞する将来を嘱望された役者さんだっただけど、森さんは26歳のとき、ガス中毒で事故死されてしまった赤木圭一郎さんにもお会いしたことがあるけど、男性にも美人薄命的なものがあるのかもしれない

宝石のようなきれいな青い目

 海外の俳優で印象的だったのは、丸の内の東京商工会議所ホールで開催された第3回フランス映画祭でお会いしたアラン・ドロンさん。1960年に『太陽がいっぱい』が公開され、彼の人気が日本でも高まったことを受け、'63年に初来日した。

 映画評論家の岡田真吉先生の計らいでお会いすることができたのだけれど、ちょっとした裏話があるの。岡田先生は有馬稲子さんを贔屓にしていたのだけど、有馬さんが中村錦之助さんと結婚('61年)してしまったことで方向転換して、私に目をかけてくださるようになった(笑)。

 棚からぼたもちではないけれど、その結果、私は飛ぶ鳥を落とす勢いのアラン・ドロンさんに会うことができた挨拶を交わすと、宝石のようなきれいな青い目を上目遣いにして、下からじっとのぞき込まれたそして、そっと手にキスをしてくれた

冨士眞奈美

 美輪明宏さんも印象的な人だった。神話でいう両性具有という感じで、妖しい美しさに包まれている。その一方で、声は男性的でハリがある。『ヨイトマケの唄』を聴くとよくわかるけど、とても力強い声をしているのよね。

 TBSの新伍のお待ちどおさま('85年~'90年)という番組で、たびたび美輪さんがゲストでいらしていて、収録が終わると2人で買い物を楽しんだりしていたのは、いい思い出。

 美輪さんが運転する車の助手席に乗せてもらって、いろいろな場所を回るんだけど、運転マナーの悪い車に遭遇すると、美輪さんは突然“男性”になって、窓を開けてこの野郎! どこ見て走ってんだ!なんて言ったりする

 ハンドルを握っている指はすらっとしていて、いかにも優雅なマダム的なのに美輪明宏という人物は、本当に魅力的で面白い“元美少年”よ

《構成/我妻アヅ子》


ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。