※写真はイメージです

 セクハラやパワハラといえば、『オヤジの悪行』という印象もあるが、加害者は男性に限らない。近畿大学教授でジャーナリストの奥田祥子さんは次のように指摘する。

「ひと言で言えばパワハラは職場での優位性を利用した嫌がらせ、セクハラは性的な嫌がらせ。女性の社会進出が進み、女性上司からの被害を訴える部下も増えています」

女性上司が同性の部下に厳しい理由

 東京五輪組織委員会の新会長に就任した橋本聖子衆院議員が過去に起こしたセクハラ問題が指摘されているのも記憶に新しい限り。

「『女王蜂症候群』と呼ばれる現象があります。これは女王蜂がライバルのメスを敵視するように、女性が能力の高い職場の同性の部下に手厳しく対応することを指します」

 奥田さんは、自身が過去に取材した独身40代管理職の女性と20代既婚女性の部下の事例を説明してくれた。

「この女性上司は大勢の前でこの部下を叱咤したり、正当な育児のための時短勤務にもかかわらず帰宅を引き止めて仕事をさせようとしたり。結局、パワハラで訴えられて懲戒処分をされてしまいました」

 男社会で必死に生き残ってきた女性ほど、年下の同性に厳しくなる傾向があるそう。

「もちろん“女性は全員そういう性質がある”というわけではありません。管理職として経験を積むことである程度、解消されることは、実証されています」

 しかし、日本では企業が“女性の管理職を増やす”ための数値目標にとらわれ、女性社員をスキル不足のまま“数合わせ”で登用するケースが問題を深刻化させていると奥田さんは指摘。

「独身か既婚か、子どもの有無などの違いも衝突につながる場合がありますね」

ケース1:冗談で「不倫してるの?」業務に支障も

 個人の資質と社会の構造が複雑に絡み合う女性上司によるハラスメント。

 週刊女性には女性上司からのハラスメント経験のある当事者の声も多数寄せられた。

「言ったほうは冗談だったかもしれませんが、今もモヤモヤは消えません……」

 IT企業に勤める片岡菜摘さん(29歳、仮名)がまだ入社2年目のこと。

「新規事業プロジェクトに40代既婚の男性と2人で抜擢されたんです。その先輩とは、打ち合わせを兼ねてランチに行ったり、行動をともにすることが増えました」

 そんな菜摘さんの様子を見た50代の女性部長がある日、こんな言葉を投げかけた。

「廊下ですれ違った際、“あなたたち仲よくて楽しそうね〜不倫してるの? ほかの部署でも噂よ!”と楽しげに言ってきたんです。さらにその男性について“あの人、まじめそうだけど風俗店の常連なのよ”とも言われました」

 もちろん不倫は事実無根だ。

「それからは“不倫なんて絶対にありえない”と周囲にアピールをするために、先輩には必要以上にツンケンして、距離を置くようになってしまったんです。風俗の話も妙に生々しくて、私も同僚に“あの人、キモいよね”と言ってしまったことも……」

 当然、その男性にとって菜摘さんの行動の変化は不可解で戸惑うばかり。

「たとえ軽口でもデリカシーはほしかったし、先輩にもいつか謝りたいですね」

 職場での無自覚な“からかい”もれっきとしたハラスメントになりうるのだ。

ケース2:厳しすぎる指導と価値観の押しつけ

 コロナ禍で一気に加速したテレワーク。

「嫌な上司とも直接、顔を合わせないため、ハラスメントとも無縁と思ったのですが」

 アパレル会社の営業職の田村雅史さん(30代、仮名)はうつむきながら語る。

 女性上司からのハラスメント被害に遭うのは同性部下だけではない。

「女部長から週末や深夜にも“進捗はどう? 期待をしているから頑張って”“こないだ紹介をした○○さん、メールしてる? 契約が取れなくても、連絡は頻繁にして”と鬼のようにメールが来て、気が休まりません」

 また、女部長は過去に雅史さんの同僚女性にはこんな言葉を投げていたという。

「部長はみんなの前で、生理痛がひどくて遅刻をした彼女に、“みんな、生理でしんどくても仕事してる!”“自己管理がなってない! 私たちが若いころはガマンして外回りもしていたのよ”って怒鳴っていました。もちろん周囲には僕も男性社員も大勢いて……」

 その上司の口癖は「私が厳しく接するのは、愛のムチ」だとか。

「そんな“愛のムチ”はいらないし、まさに“うっせぇわ”ですよ。最近はヤル気も落ち、いかにテレワーク中にサボるかばかり考えてますね(苦笑)」

ケース3:お茶くみで叱責、逆効果な世話焼き

「“お茶くみは女子社員の仕事”って、いつの時代の話って感じですよね」

 ため息まじりに語るのは、税理士事務所の事務員、後藤綾乃さん(30代・仮名)

 これは1年ほど前、綾乃さんの勤務する事務所に急な来客があったときの出来事だ。

「私は電話に対応中だったので、ほかの男性スタッフが客人を応接室に案内してお茶を出してくれていました」

 それを見た50代の女性課長は大激怒、綾乃さんは給湯室に呼び出しをくらった。

「“なんで男性社員にお茶を出させるの! あんたの仕事でしょ!”と叱られました。声はフロアに筒抜け、男性スタッフもバツの悪そうな顔をしていましたね」

 さらに別日の昼どき。

「私が自宅から持参してきたお弁当を食べていたら、その課長が“栄養バランスが悪いわね、そんなに料理がヘタだと結婚できないわよ!”と言ってきたんです」

 後日、綾乃さんのデスクにはレシピサイトの切り抜きが束になって置かれていた。

「どうも彼女には世話焼きな一面があるようで、よかれと思ってやっていたのかも。とはいえ、あまりに古い価値観を押しつけられるのはまっぴらですね」

「あなたのため」は実はパワハラ!

 前出の奥田さんは、

「前後の文脈にもよりますが、上司の“あなたのためを思って”という言葉の背後にある思い込みが『無自覚パワハラ』につながるケースも多い」

 過去に奥田さんが取材した中でも、この無自覚パワハラは散見されたという。

「40代の課長職の女性が30代の女性部下に、“あなたは管理職候補で期待しているから、いま出産は控えたほうがいい”と言い、セクハラ混合のパワハラで訴えられてしまいました。上司として、よかれと思って言った言葉ですが、言われた側はひどく苦悩したようです」

 労働問題に詳しい明石順平弁護士は次のように語る。

「同性間でも、その行為に不快感を持っていれば、セクハラやパワハラにあたります。意図せずハラスメントの加害者にならないためにも、誰しもが“加害者になるかもしれない”という加害者性を常に意識することが大切ですね」

 さらに奥田さんは、

「女性管理職には、ジェンダー問題や感情コントロールの学び直しや価値観のアップデートが求められますね。女性管理職のスキル不足を責めるのでなく、企業側が人材育成の制度を充実させることも喫緊の課題。社会全体の問題として取り組むべきです」

 各国の男女差を測るジェンダーギャップ指数が先進7か国最下位の日本でますます望まれる女性の指導者たち。男女平等を推し進めるためにも、自らの加害者性には自覚的でありたいものだ。

■ついつい言いがち! 文脈によってはハラスメントに

◆「あなたのためを思って言っているのよ……」
文脈例・「(出世に影響するから)2人目の出産を控えて」「(過剰ノルマを与えたうえで)もっと成果を上げなさい」
──パワハラ・セクハラ(マタハラ)にあたる。

◆「期待しているんだから……」
文脈例・「もっと頑張って、営業成績をあげないとダメよ」「あなたならもっとできる」「あなたにしかできない仕事なのよ」(いずれも過重労働を強いたうえで)
──パワハラにあたる。

■文脈に関係なくセクハラに!

◆「(男性上司からのセクハラについて)少しぐらい我慢しなさい。私も含め先輩女性たちはみんな、そういうのに耐えてきたの。しかたがないのよ……」
→間接的に女性上司から女性部下へのセクハラになる。

(奥田さんへの取材をもとに編集部で作成。上記の2つは励ましているように聞こえるが……)


お話を聞いたのは
奥田祥子さん 近畿大学教授・ジャーナリスト。パワハラ・セクハラや女性登用、男性の生きづらさなどのテーマに取り組む。『社会的うつ』(晃洋書房)『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社)『男性漂流』(講談社)ほか著書多数

明石順平弁護士 鳳法律事務所所属。主に労働事件や消費者被害事件を担当している。ブラック企業被害対策弁護団の事務局長も務める。著書に『アベノミクスによろしく』(集英社)『キリギリスの年金』(朝日新聞出版)など多数

《取材・文/アケミン》