問題山積みで、国会でもお疲れぎみの菅首相

「菅首相は、もともとコミュニケーションをとるということを得意としていないと思うんですね」

 そう話すのは、臨床心理士で明星大学准教授の藤井靖先生。昨年9月の政権発足時は62・3%あった菅内閣の支持率。だが、2月中旬に行われた朝日新聞社の世論調査では34%と3割台にまで低迷している。

首相になって言い間違いが増えたワケ

 政府の後手後手に回る新型コロナウイルス対策など、低迷する理由はさまざま。

 その中でも目立つのが、菅首相の重要な場面で多発する“言い間違い”だ。

 例えば、1月18日から始まった通常国会で臨んだ施政方針演説。菅首相は衆院本会議ではほぼ原稿をそのまま読み上げたのだが、

「参院本会議では、新型コロナウイルス感染症対策の緊急事態宣言について“徹底的な対策”を“限定的な対策”と言い間違えてしまった。過去にも政権への期待について“そこにある”を“そこそこある”と言ったことも」(政治部記者)

 前出の藤井先生はこう話す。

「官房長官時代は淡々と発信したいことを発信することに集中できていました。ですが、首相になってからはそうはいかない」

 下を向いて原稿を読み上げる姿に、当時はデキる官房長官という印象を持った人も多かっただろう。

「首相になってからは“発信の仕方”というものがより注目されるようになりました。下を向いてボソボソ話すのでは“強いメッセージが伝わらない”と世間から指摘されるように」(藤井先生、以下同)

 内容を正確に伝えることに加えて、工夫して効果的なコミュニケーションをとる必要が出てきたのだ。

「話すときに、気にしなければならないことが増えた。そうすると、言い間違いや口癖は出やすくなります。本人の素であったり、普段考えていることであったり。自分がよく使う言葉も出やすくなってしまいます」

菅首相の“本音”が飛び出た言い間違い

 菅首相は官房長官時代にも、重大な言い間違いをしている。'19年3月11日に開かれた東日本大震災8周年追悼式の開式の辞で“追悼式”と言うべきところを“記念式典”と言ってしまったのだ。同日に行われた記者会見で、言い間違いを謝罪した。この騒動に対して藤井先生は、

「菅首相は“記念式典”にいっぱい参加されているんだろうなと思いました(笑)。だからポロッと出てしまったんだと思います」

 1月13日、緊急事態宣言の対象地域拡大を伝える際、“福岡”“静岡”と言ってしまったことには、

「特別な感情があるわけではないと思います。自分の中でよく行く場所だったり、言いなれた言葉をつい選んでしまっただけでしょう」

 この2つにはあまり意味は感じない、と藤井先生。だが、菅首相の本心が表れた言い間違いがあるという。

「1月22日、緊急事態宣言の延長について“翌月まで延長”を“翌日まで延長”と言ってしまったことがありましたよね。あれに関しては、菅首相の深層心理が表れています。さすがに翌日までとは思っていなかったでしょうが“緊急事態宣言をなるべく早く終わらせたい”という思いでしょう。GO TOトラベルを推し進めていましたから」

 見られ方や話し方を気にしすぎてしまうことで、話す内容の注意力のキャパシティーがいっぱいになって、ついつい本音が出てしまう。

「このときは菅首相の“自分はこの方向性で進めていきたい”という思いが完全に透けてみえましたよね」

言い間違いをそのまま訂正しないことも…

一方的なお願いばかりする答弁も

 言い間違いだけでなく、菅首相の一方的なお願いばかりする答弁も気になる、と藤井先生。

「国民全員でコロナに立ち向かっているわけですから、見返りを求めるものではないのですが、通常の人間関係に置きかえると、お願いばかりされていると受け入れられなくなるもの」

 昔の政治家は今よりも権威があったのでトップダウン的な考え方も受け入れられたが、

「SNSを通じてほかの人がどんな意見を持っているのかをみんながわかる時代。いい意味でも悪い意味でも物事を客観的に考えられるようになっています」

 そんな現代においては、

「“一緒にやりましょう”“僕はこれをやりますから、みなさんはこれをしましょう”という“取引”のようなコミュニケーションが受け入れられやすいです」

 そんな菅首相にも、コミュニケーションにおいて評価できる部分もあるという。

「あの朴訥さは、国民に好意的にとらえられているでしょう。菅首相は話すと独特のイントネーションがあって、そこにポジティブなイメージを持つ人もいます」

 日本人は郷土意識が強く、その地方に住んでいなくても、方言を話すだけで好印象を持たれる傾向は高いという。

「関西弁の芸人さんが全国的に人気が出るのはそういった理由があります」

身近な人に話すようにすれば印象が変わる

 最近は菅首相も話し方にも気をつけているようだが、

「一応、カメラ目線になったり、ボソボソ話すのではなく口を開けて歯を見せるようにして話すようにしたり。頑張ってはいると思います。ただちょっと勘違いしているのは、声を大きくしたり語気を強めたりすれば、強いメッセージが伝わるわけではないと言いたいですね(笑)」

 声は小さくていいという。「菅首相が側近の議員に話すときと、支持者と話すとき。この社会的な場面とプライベートの中間くらいの声のトーンで話すのがいい。菅首相はそういった人たちの心をつかんできたはずです」

 そうでなければ政治家なんて続けていられないはずだ、と藤井先生。

「身近な人に話すように、記者に語りかけたら、印象はガラッと変わると思います」

 支持率回復のカギは、菅首相本人の話し方が握っている──。

■菅首相の主な「言い間違い」リスト

<官房長官>
'19年3月11日、大震災追悼式
○追悼式×記念式典

<首相>
'20年10月19日、ベトナムでの演説
○ASEAN(東南アジア諸国連合)×アルゼンチン

'20年10月29日、政権への期待について
○そこにある×そこそこある

'21年1月13日、緊急事態宣言の対象地域拡大で
○福岡×静岡

'21年1月22日、緊急事態宣言の延長で
○翌月まで×翌日まで