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 コロナの影響で、便秘やお尻の痛みを訴える人が増えている! その原因のひとつが“ケアのしすぎ”。清潔にしすぎることで、逆にお尻がどんどん汚くなっているという事実が。健康なお尻とお通じのための「洗わないケア」とは?

コロナ禍で増えた排便中のお尻の痛み

「外出自粛や在宅ワークなどが増え、お尻を取り巻く環境が変わっています」

 コロナ禍の意外な影響を教えてくれたのは、肛門科医の佐々木みのり先生。在宅ワークで、自由にトイレへ行けるため、便通が良好になる人がいる一方、「夫が1日中、家にいてトイレに行きづらくなり、便秘になった」という主婦も増え、“お通じ”の二極化が起きています。

 さらに、コロナ禍で“お尻の痛み”を感じるようになった人が増加。なかでも「座ったときやお尻があたったときに感じる痛み」や排便時の痛みに不安を抱える人が増えているという調査結果も。

 でも、どうしてコロナ禍でお尻の痛みや便秘などお尻の悩みが起きているの?

実は、コロナ禍に限らず、お尻の悩みの原因は“洗いすぎ”にあります。お尻を清潔にするのは、当たり前だと思って洗う人が多いですが、こんなにお尻を洗っているのは日本人だけ。洗いすぎの日本人は、海外の人のお尻に比べ悲惨な状態になっています! 」(佐々木先生、以下同)

 例えば、お風呂でお尻にシャワーの水を直接当てて洗ったり毎日、石けんで洗ったりする。また、アルコール含有のお尻ふきでふいたり、水圧をいちばん高くし、度を超えた温水洗浄便座の使用をしたり。そのすべてがお尻にとってはご法度! 

洗いすぎによって、皮膚表面を潤す天然の脂、皮脂膜がはがれてしまいます。すると皮膚内部から水分が蒸発し、砂漠状態に。皮膚は炎症を起こして硬く伸縮性がなくなり、開きにくい肛門、つまり狭い肛門になってしまうのです。その結果、排便時に痛みが生じ、便秘にもつながります。悪化すると肛門付近が切れるだけでなく、痛みで座れなくなることもあります

 もともと洗いすぎで傷んでいたお尻に、コロナ禍による長時間の座位での刺激や排便のタイミングを逃すということが重なり、お尻の不快感が強調。より清潔さを求める風潮で、お尻を洗う行動も増えたと想像できる。

洗いすぎで口臭にも影響が!?

 さらに、日本人のきれい好きはお尻だけにとどまらず、女性は外陰部の洗いすぎによるトラブルも増加。かゆみ、皮膚の炎症による痛みのほか、ここ10年は、膣炎や膀胱炎も増加しているという。

皮膚は年齢を重ねるほどに乾燥しやすくなるので、洗いすぎると、トラブルが加速。一方、幼いころからお尻を洗いすぎている子どもも多く、肛門まわりが切れるなどの症状の低年齢化も問題視されています

 では、洗いすぎると具体的にどんなトラブルに発展するの?「お尻を洗いすぎの人は、まず”出残り便秘“に注意をしなければなりません」(佐々木先生、以下同)

 出残り便秘とは、いわゆる腸に便がたまるものではなく、便が出しきれず出口(肛門)に残ってしまう便秘のこと。便が残っているとトイレットペーパーで何度ふいても紙に便がつくため、お尻を洗いたくなるが、洗っても出残り便は出ない。

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 そこで温水で刺激をしながら排便をするなど、温水洗浄便座の間違った使い方をするようになる。すると温水で刺激しないと便が出ない状態になり、かえって排泄力を低下させてしまう。

「出残り便があると、便からガスが発生してお腹が張るだけでなく、オナラや口臭や汗臭さの原因になります。排便時の出始めの便が硬くなるので、肛門が切れることも」

 温水洗浄便座で過剰に洗う→肛門まわりの肌が荒れる→痛みのため排便しづらいという悪循環に。また、お尻の皮膚は、目のまわりの皮膚と同じくらいデリケート。排便のたびに温水洗浄便座を高水圧で長時間使うのはやめ、正しい使い方を。

洗いすぎで肌のバリア機能が弱まるため、細菌やウイルスの感染や慢性的な湿疹による激しいかゆみをもたらします。VIO(ビキニライン、陰部の両側、肛門周辺を指す)ラインの脱毛も、毛がなくなって清潔だと感じる人が多いですが、脱毛時に皮膚炎を起こしたり、アポクリン汗腺を刺激してニオイのある汗の量が増える場合があるので、私はおすすめしません

 洗いすぎという自覚がなくても、かゆみ、痛み、ペタペタ感といった違和感がある人はすでに洗いすぎによるお尻のトラブル予備軍かも! 

「自撮りモードにしたスマホの上にまたがって、お尻の状態を撮影してみるのもいいと思います。白っぽくなっていたり、黒ずんでいたら、お尻の皮膚の炎症が慢性化している証拠。すぐにお尻との付き合い方を変えましょう」

■あなたは大丈夫? 洗いすぎキケン度check!

●入浴について
□肛門にシャワーを直接当てている
□肛門や外陰部を手でこすっている
□石けんやボディソープで肛門や
□外陰部を洗っている

●衛生習慣について
□お尻ふきやウエットティッシュなどで肛門をふいている
□家庭用の殺菌消毒液で肛門を消毒している

●温水洗浄便座機能について
□排便に関係なく、トイレに入るたびに使う
□自宅以外のトイレでも使う
□温水で刺激しながら排便する
□15秒以上、洗浄している

1つでもチェックがついたら洗いすぎです!

トイレ習慣を見直して“赤ちゃんお尻”を目指そう! 

■洗いすぎるとこんなヒサンなお尻に!

◆肛門が真っ黒
皮膚の炎症の慢性化・長期化で黒ずむ。湿疹が治った後に色素沈着して黒く残る場合も。
◆肛門が真っ白
湿疹が悪化・慢性化して、色素脱失を起こし、白くなる。かゆみを伴い、かくと広がる。
◆ぶつぶつ毛穴
ゴシゴシ洗ったり乾燥が原因で、「稗粒腫」と呼ばれるニキビのようなできものができる。
◆肛門あかぎれ
強い水圧で洗い続けると肛門の入り口に切れ痔ができる。少しの刺激でも激痛が発生。

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■赤ちゃん尻を目指す「尻活5か条」

 何気なくやっていた悪習慣をストップ。毎日のケアで、理想の赤ちゃん尻になろう!

【1】トイレでふくのは3回まで

「皮膚に負担なくふける回数は3回まで。しかも、ゴシゴシこするふき方は絶対にやめましょう」ふくときは、トイレットペーパーをテニスボールほどにふわっと丸め、肛門をポンポンと押さえぶきが正解。

「3回ふいた後の紙に便がついたら、出残り便がある可能性があり、スッキリと出せていない証拠です。排便のバロメーターとして、毎回チェックしてください」

【2】トイレでスマホや読書は厳禁

「便座は肛門が座面より下になるので、ただ座っているだけでお尻がうっ血し、負担になります。トイレの時間は、用を足して手を洗って、出るまでを5分以内ですませるのが理想です」

 出残り便秘は、便意を我慢することから始まるので、“ちょっとしたいな”と思ったときにすぐ出す習慣づけも大切。また、排便時は息を止めていきまないこと。深呼吸をして、ゆっくりと息を吐きながらいきみましょう。

【3】お風呂でもお尻は洗わない

 お尻の不調を感じたら、まず洗わないこと。

「温水洗浄便座の使用もやめ、お風呂ではスポンジなどでこすらないのはもちろん、石けんなどを肛門につけるのもやめておきましょう。お尻の皮膚が再生するために、2週間は休ませてあげることが大切です」

 それでもお尻の汚れが気になったら、座浴を。大きなたらいにぬるま湯を入れ、お尻をつけるだけで、汚れは落とせる。

【4】温水洗浄便座は「低温・弱・3秒まで」

 “高温、高水圧、長時間”といった温水洗浄便座の使いすぎは肌荒れのもと。

「どうしても洗いたい方は水温・水圧はいちばん低く、洗浄時間は3秒以内。特に、洗浄時間は重要で、洗いすぎると、皮脂膜や皮膚の善玉・美肌菌である表皮ブドウ球菌が洗い流されて、何らかの皮膚トラブルが発生してしまいます。洗浄も1日1回程度にしておきましょう」

【5】保湿は白ワセリンで

 痛み、かさつき、ごわごわ感といった何かしらの違和感がある場合は、白色ワセリンで皮膚を保護。

「薄めに塗って、皮脂膜のかわりを補いましょう。かぶれを起こしづらい白色ワセリンやベビーオイルがおすすめです。デリケートゾーン用の市販薬は、ステロイド入りのものもあるので注意が必要です」

こんなに怖い! お尻トラブル

 ちょっとしたお尻の違和感が思いがけない大病に発展!? 長期の不調は病院へ! 

・自律神経失調症もお尻から

 腹痛やお腹の張り、1日に何度も排便する頻便、軟便などの悩みを抱え、内科や胃腸科で「自律神経失調症」と診断された女性。心の安定に効く薬の内服を続けていたがまったく効果がなく……。

 しかし、佐々木先生のクリニックで出残り便の存在を確認し、きれいに出し切ったところ、一気に表情がスッキリ。翌日から排便の回数が減り、腹痛やお腹の張り、下痢便などの不調も改善されたとか! 

精神面からきていると思っていた不調の原因が、実は出残り便秘だったというわけです。便秘は身体のさまざまな症状を引き起こすだけでなく、精神面の健康を脅かす原因になることは、少なくありません

・便秘で死に至ることもある! 

 '98年に21歳の女性が便秘によって死亡したという衝撃的なニュースが医学誌に掲載。女性は1年前から便秘で、市販の便秘薬を飲んで過ごし、死亡する2日前まで普通に出勤。

 ところが、死亡前日から家族に風邪の症状と腹痛を訴え、そのまま亡くなったという。死因は、腸内に約7Kgの便がたまったことによる腸閉塞。肛門内には真っ黒な便が充満し、直腸付近にはコンクリートのような便の塊が数十センチもたまっていた。

便秘薬はお腹に効きますが、出口が詰まっていたら、効果がないどころか、肛門で便の渋滞が起きることも。年をとるとさらに腸がもろく破れやすくなるので、便のたまりすぎは本当に危険です

佐々木みのり先生
教えてくれたのは……佐々木みのり先生
大阪肛門科診療所副院長。'98年に日本初の女医による肛門科女性外来を開設。“出残り便秘”の改善による”切らない痔治療“を実践。近著に『痛み・かゆみ・便秘に悩んだらオシリを洗うのはやめなさい』(あさ出版)がある。

(取材・文/河端直子)