「ローリングストック」とは、普段の食事で食べているレトルト食品や缶詰などを多めにストックし、使った分だけ買い足していくこと。常に一定量の食品が家庭に備蓄されている状態を保つ方法だ。非常食を買いそろえるより、労力的にも経済的にも負担が少ないため、無理なく続けやすい防災備蓄の賢い方法として近年、推奨されている。

 でも、食品を多めにストックすると賞味期限内に食べ切ることができず無駄にしてしまいそうな気も……。ローリングストックを成功させるにはどんなことに注意したらよいのだろうか。防災のプロフェッショナルである、防災システム研究所所長の山村武彦さんに伺った。

非常食デーを設けてストック品を見直す

「食品のローリングストックは、非常用に特別なものを選ぶより家族が好きな味や食べ慣れたブランドを選ぶのがポイント。普段の生活で無理なく循環させることができます」(山村武彦さん、以下同)

 ただし被災直後はライフラインが止まることを想定し、調理せずに食べられるものを意識して備えておく必要が。

「最近は、封を開けてそのまま食べられるおいしいレトルト食品がたくさんあります。いざというときのために、家族で好みの味を探してみては」

 また非常時の食事はパンやおむすびなどの炭水化物が中心で、栄養が偏りがち。

「朝食用、昼食用、夕食用とストック品のバリエーションを選ぶと、食事のバランスがとりやすくなります。不足する栄養を補える栄養補助食品や野菜ジュースなどを備えておくのもいいですね」

 どうしても栄養面が心配な場合、総合ビタミン剤などをストックするのも手。

 ローリングストックは日常生活の延長で災害に備えられる点がメリットだけれど、それでもさまざまな事情で過不足が出てしまう場合もある。

「月に1〜2回、家族で備蓄品を食べる日をあらかじめ設けておくと、ストック品を活用できるし不足分のチェックもできて、おすすめです」

 うっかり賞味期限が過ぎたなんてことのないように、ストック品を購入したら賞味期限を大きく書き込んでおくのも忘れずに。

ローリングストック5つのポイント

【1】食べ慣れているもの・おいしいもの
 災害時はストレスや不安で食欲が湧かないことも。変わったものより普段から食べ慣れているもののほうが、極限状態でも口にしやすい。

【2】時間の経過に合わせてバリエーションを用意
 例えば家の中も混乱している災害直後は封から出してそのまま食べられるものが役に立つが、少し時間がたつと温かいものを口にしたくなってくるもの。被災後の状況を想定し、いくつかのバリエーションをそろえておこう。

【3】道具が必要ないもの
 容器を開けたり調理のために道具が必要な食品は、状況によっては役に立たない場合がある。特に缶詰は、缶切りがなくても開けられるプルタブつきを選ぶのが正解。

【4】賞味期限まで期間がある
 購入から賞味期限まである程度期間があるものを選んだほうが、無駄になりにくい。

【5】食べきりサイズのもの
 電気が止まると冷蔵庫が使えなくなり、余った食材を保存しておくことができない。特に夏は封を開けるとすぐに傷んでしまうので、大容量のものは控え、食べきりサイズのもの複数用意しておこう。

おすすめの備蓄用食品

 以下は、ローリングストックにおすすめの食品を選ぶときの参考に。

●生活に欠かせない水はペットボトルが便利
さまざまな用途が想定される水は、扱いやすいペットボトルでの備蓄が便利。1人1日3リットルを目安に、1週間分を備蓄しておこう。

●甘いお菓子も貴重なエネルギー源
お菓子やコーヒーなどの嗜好品を用意しておくのもおすすめ。ホッとひと息つけることで、疲れた心も前向きに。

●手軽でおいしいカップ麺で身体も心もポカポカに
災害時に口にする食べ物は、温かいだけでもごちそうに。食べ慣れた味を備えておきたい。

●常温でもおいしいレトルト食品は超便利!
レトルト食品は温めずに食べられるものを用意しておくと、電気やガスが止まった場合も役に立つ。

●不足しがちな野菜を補える食品も必要
被災時は繊維質が不足しがちで便秘になりやすい。手軽に野菜がとれるジュースやスープがあると安心。

■災害時にあると便利! カセットコンロ
災害後のライフライン復旧には時間がかかる。ガスが止まってもカセットコンロ、カセットボンベと鍋を備えておけば、お湯を沸かして温かい飲み物や食べ物を口にすることができる。

見落としがちな紙製品

 被災時にあると安心な紙製品をリストアップ。食品と同様に、ローリングストックで備えておこう。

●水が不足しているときの手指のふき取りに
水が出ないと入浴やシャワーはもちろん、手も洗えない。手指をふくシートを用意しておこう。

●災害時のトイレ問題を高性能紙おむつで解決
頻繁にトイレに行けない状況では、大人用紙おむつの活用もひとつの手段。

●マスクは災害時の必須アイテム
災害後は衛生状態が悪化するためマスクが必須。感染予防にも効果的。

●トイレットペーパーはコンパクトタイプがいい
災害時に品薄になりがちなトイレットペーパーは、約1か月分の備蓄を心がけて。

●生理用品は多めに備えて損なし
意外と見逃しがちな生理用品。普段から多めにストックしておく習慣を。

(構成/中村明子)

《PROFILE》
山村武彦 ◎防災システム研究所所長。世界中の災害の現地調査を実施。メディア出演や執筆による防災意識啓蒙活動のほか、企業や自治体の防災にも多く携わる。著書多数