豊郷町はアニメの聖地

「町議会議員はそんなに偉いのか、いつも人を見下すような態度でふんぞりかえっていましたね。悪い評判しか聞いたことがありませんが、そんな気持ち悪いことをするタイプとは思っていませんでした」

 と町民の女性は話す。

 愛知県あま市の喫茶店で、自分の下半身を触る様子を女性客に見せたとする県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)の疑いで、同県警は2月25日、滋賀県犬上郡豊郷町の町議・北川和利容疑者(65)を逮捕した。

「雑誌で女性の裸を見ていたら興奮してやってしまった」

 などと容疑を認めているという。

 顧問を務める会社の仕事が近くであったため同店に入ったよう。犯行はモーニングの時間帯で、朝っぱらから何を考えているのか。嫌なものを見せられた被害女性は69歳でトラウマになってもおかしくない。

 地元記者が犯行の詳細を明かす。

「客席に座った状態で左手をズボンのポケットに突っ込み、陰茎を手淫(しゅいん)するところを隣席の女性に見せた。ポケット内の布ごしに陰茎をつかんで手を動かすのは容易ではなかったようで、様子がおかしいことに気づいた女性が店員に知らせた」

 店員は警察に通報し、変態行為が明るみに出た。

議員辞職を勧告されていた

北川和利容疑者=2019年12月20日発行の「議会だより とよさと」より

 北川容疑者は2007年に初当選。議長や副議長を歴任し、4期目に入った無所属のベテラン町議だ。地元の古参男性が経緯を説明する。

「電力関連企業のサラリーマンから独立して電信柱を建設する会社をおこし、政治家に転身した当初は自民党だった。ところが支援を受けて町議12人中2位で当選しながら、町長選挙で2度も自民党系の対立候補を応援するなど裏切った。はっきり言うとトラブルメーカーなんだよ」

 副議長職にあった12年には、申し合わせの任期1年を過ぎても居座り、副議長職の辞職勧告決議を受けている。16年には元同僚議員の名誉を毀損(きそん)したとして裁判所から損害賠償の支払いを命じられ、議会からも道義的責任を問われて議員辞職を勧告された。

「しかし、勧告には法的拘束力がないため北川容疑者は従おうとせず、堂々と議員活動を続けて総スカンだった。2年前にも自宅近くの町有地を長年、無断使用していた事実が発覚し、議会で追及されたばかり。“譲り受けた土地だと父親から聞いていた”などと開き直っていた」

 と町議会関係者。

 町有地には建設機械や資材などを置いていたという。

 北川容疑者は地元出身。中学を卒業してすぐ働き始めたようだが、少年時代から存在感があった。

「授業中に教室を飛び出して廊下を徘徊(はいかい)する問題児。勉強もスポーツも苦手で、やんちゃな点だけで目立っていた。昔から身体が大きく、声も大きいので威圧感があったことはたしか。言動が乱暴でいわば“ジャイアン”のような存在だった」(男性町民)

 議員になると、ますます態度は大きくなった。議会で不規則発言をしたり、大声でヤジったり。「いつも偉そうな感じでした」と多くの町民が口をそろえる。

「年をとってから念願の大型バイクを乗り回すようになり、排気音が大きすぎて近づくとすぐわかるんです。頭にバンダナを巻いたりしてカッコつけていましたね」

 と別の男性町民。

同町は人気アニメの聖地

 北川容疑者には妻子がおり、孫もいる。逮捕翌日には立ち上げた会社の役員を辞任し、3月1日付で「一身上の都合」を理由に議員辞職した。

「辞職願は家族が代わりに議長に届け、受理されました。もともと退職金のようなものはなく、逆に議席があるままだと議員報酬を支払い続けることになりますので」(町議会事務局)

 “盗っ人に追い銭”となるような辞職許可ではないという。

 豊郷町では2月上旬、“事務方トップ”の幹部職員が女性の胸などを触ったとする強制わいせつ容疑で逮捕されたばかり。同町は人気アニメの聖地として知られ、「観光客に対して恥ずかしい」との声も聞かれる。

ハレンチ事件が相次いだ豊郷町役場

 別の町議会関係者は北川容疑者について、こんな感想を漏らした。

「議会ではヤジる声こそ大きいものの中身がなかったし、自分の質問が終わったら議場を途中退席するなど、まじめとは言いがたかった」

 さらに別の関係者は、

「何をしたくて議員バッジをつけたのかよくわからなかった。筋の通った主義主張がなく、勢いのあるほうや勝ち馬に乗るタイプ。選挙応援したり一票を投じた有権者はがっかりしていると思う」

 と町民の胸中を慮(おもんぱか)った。

 そもそも議員の資質はなかったようだ。


◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する