「日本では医療費などの社会保障費が、財政を圧迫し続けています。その状況をより深刻化させているのが2020年の新型コロナウイルス感染症によるパンデミックです。コロナ対策で膨大な予算がつぎ込まれ、このままでは財政が逼迫するのは確実。現役世代の自己負担3割が5割負担になる日がやってきてもおかしくありません」

 そう語るのは、世界最大級の外資系ヘルスケアカンパニーで、外科・産婦人科を中心に新しい手術やトレーニングなどに携わった経験を持つ御喜千代さん。

 もしそうなったら、医療費の半分は自己負担に。平均額から試算すると乳がんは38万6000円、大腸がんは48万7000円などと費用負担が大幅に増えることになる。

(※病気の値段については、前編『大腸がん97万円、脳卒中159万円など気になる病気の値段と「自己負担5割の可能性」』参照)

 医療クライシスを乗り越えるために知っておきたい、病気のお金の減らし方とは──。

※写真はイメージです

 病気の値段を抑える第1の方法は、公的医療保険(健康保険、国民健康保険など)の活用。中でも高額療養費制度の申請はマストと御喜さんはすすめる。

「高額療養費制度とは、その人の収入や年齢などに応じてひと月に支払う医療費の限度額が決められ、超えた分についてそれぞれ加入する公的医療保険から給付される制度です。医療費が家計を圧迫しないよう配慮したもので、自己負担の限度額以上のお金がかからないようになっています」

高額な立て替えを避ける裏ワザ

 例えば、年齢50歳・年収500万円のAさんがひと月に100万円の治療を受けたケースで考えてみよう。

 まず医療機関窓口での負担は100万円の3割、30万円

 この医療費に対して高額療養費申請による自己負担限度額は8万7430円(8万100円+[医療費-26万7000円]×1%)。

 30万円から8万7430円を差し引いた21万2570円が高額療養費として払い戻される。

「ただ注意点として、高額療養費は申請から支給までに、少なくとも3か月程度かかります。そのため先のAさんの例でいえば、最初に窓口で30万円の立て替えを余儀なくされるのです」

 この立て替えを回避できるのが『限度額適用認定証』と呼ばれる制度。

「事前に自身が加入する公的医療保険の担当窓口で申請し、医療機関での会計時に認定証を提示すれば、その場で自己負担限度額の適用になります。Aさんの場合だと請求される医療費が8万7430円ですむわけです」

働けない期間の収入もカバーできる

 次は収入面の助成。健康保険に加入する会社員や公務員の場合、病気になって働けない休業期間の収入が補填される制度がある。

『傷病手当金』です。医師が仕事を続けられない労務不能と認めたら支給開始日から再長1年6か月、1日につき標準報酬日額の3分の2が支給されます

 手続きは、まず傷病手当金専用の申込書を受け取るために人事・総務などへ。申込書を医療機関に提出して医師の証明をもらい、それを会社に提出するという流れ。

「支給期間中に勤め先を退職することになっても、前述した最長1年6か月の間であれば、引き続き受給できることになります」

 最後は、医療費控除。1年間の医療費がある一定額を超えた場合は、国に申告すると、税金が安くなる制度を指す。

「簡単にいえば、年間10万円以上の医療費を使っていたら申告すべきです。医療機関に支払った入院費や治療費はもちろん、入院中の食事代、交通費、市販薬の薬代なども対象となります」

民間医療保険・がん保険は見直しを

 公的医療保険で病気の値段は下がるもののゼロにはならない。その負担をさらに抑えられるのが民間の医療保険。

 医療保険の中にはがんに特化したがん保険も並ぶ。すでに加入している人が多い両保険をうまく活用することが大前提だが、負担減とならないものなら見直しが必須となる。

「まずチェックすべきは入院給付金の開始時期です。近年、入院の短期化にますます拍車がかかっています。私の知る例では、乳がん全摘手術で入院から退院まで3日のケースも。最近の医療保険、がん保険は入院当日から給付金が受け取れるタイプが主流になっています。自身の保険の給付開始が5日目などだったら短期入院をカバーできないので、対応する特約をつけるなど対策しておきましょう

 入院給付金は日額5000円または1万円を選ぶ人が多数を占める。日額金額を上げれば保険料も上がるため、個室を希望するかどうかや家計の状況などを踏まえて慎重に判断する必要があるそう。

 高度な医療技術を必要とする治療で、健康保険が適用されない先進医療。原則、全額自己負担となるだけに、民間の保険で補いたいところ。

「重粒子線治療や陽子線治療などの先進医療を望むのなら、医療保険、がん保険に『先進医療特約』をつけるのがひとつの方法です。月々100円程度で300万円の治療にも備えられます」

 加えて、がん保険には確認すべきポイントがいくつかある。まず、がんと診断されたときに支給される一時金(診断給付金)について。用途を限っておらず、生活を支える費用にも使えるのはうれしい点といえる。

「がん保険の種類や契約内容によって診断給付金に幅がありますが、最低でも50万円、できれば100万円を受け取れると安心です」

 がんの再発や転移が見つかった際に、診断給付金が受け取れるかどうかも要チェック。

がん保険の診断金は複数回受けられるのが理想。保険会社によって初回のみ、1~2年経過後、新たながんの診断を受けた場合に診断金を受け取れるなど条件が異なります

 一方、通院給付金がついているかどうかもカギになる。

手術以外のがん治療の柱は化学療法や放射線療法。ともに通院治療が一般的になりつつあるので、入院給付金を下げてでも、通院給付金を設定することをおすすめします

健康診断・がん検診を甘く見ない!

 究極、病気にならなければお金はかからない。しかし、いくら健康に気を配っていても完全に予防するのは難しい。となると病気の早期発見が最善策に挙げられる。

「早期の段階で治療を始めれば医療費は減らせますし、がんなど手術が必要な病気は身体の負担が少なくてすみます。そのために欠かせないのが健康診断、がん検診です

 健康診断は高血圧や糖尿病といった生活習慣病の発症予防を目的に行われ、がん検診は文字どおり、がんの早期発見のために行われる。自治体や企業が実施し費用は無料から数千円レベルとさまざま。

【推奨されているがん検診】
●大腸がん 40歳以上 年1回
●胃がん 50歳以上 2年に1回(エックス線は40歳以上、年1回)
●肺がん 40歳以上 年1回
●乳がん 40歳以上 2年に1回
●子宮頸がん 20歳以上 2年に1回

「健康診断、がん検診を甘く見ないで、ぜひ受けてください。日本のがん検診の受診率は諸外国に比べて低い。これはとてももったいない話です。例えば、大腸がんは年に1回健診を受ければ、死亡リスクが60~80%低下することがわかっています。また、進行がんになるリスクも約半分に減らせます。検診がいかに有用かわかりますよね」

 病気の値段を上げるか下げるかは自分次第の面も。まずは健康診断へ踏み出そう。

(取材・文/百瀬康司)

御喜千代著『病気の値段がわかる本』(アスコム)※記事中の画像をクリックするとアマゾンの商品紹介ページにジャンプします

《PROFILE》
御喜千代 ◎ジョンソン・エンド・ジョンソンで外科、産婦人科を中心に新しい手術の開発やトレーニングを担う。コミュニケーション業界に転じてからも医療面の活動に尽力。初の著書『病気の値段がわかる本』(アスコム)がある。