緊急事態宣言下で桜の開花宣言を聞いた東京都。小池知事は今年の花見宴会について「なしで」と、密を避けて静かに散策しながら花を愛(め)でるよう呼びかけたが……。

水元公園は宴会やシートを広げた花見を禁止

「はっきり言わせてもらうと“宴会禁止令”は大歓迎ですね。酒やつまみはたいていよそから持ち込まれるので地元にそれほど金を落とさず、食べ散らかした残飯や空き缶などのゴミは捨てていくんだからたまったものではない。酔っ払いはタチが悪いし、これを機にずっと禁止してほしいぐらいですよ」

 と葛飾区の都立恩賜水元公園近くに住む60代男性はまくし立てた。

 水元公園は総面積約93万平方メートルと都内最大規模の水郷公園。沿道の桜並木は有名で、園内にも随所で桜が咲き誇る。バーベキュー広場などもあり、例年は園内での花見飲食は認められてきたが、コロナ禍の昨春は、宴会はもちろんのこと花見自体を禁止に。

「それでも他県ナンバーの車を含め、明らかに花見に来た人が結構いました。お酒は飲んでいなかったようだけれども、マスクを外している人はいましたね。今年は飲食禁止しかしていないから昨年以上の人出になりそうで、密にならないかと心配しています」

 と近所に住む40代女性。

 公園内で飲食するぶんには近隣宅などにゴミを不法投棄することはなさそうだが、マナーの悪い花見客には昔もいまも頭を抱えているという。

「昔は、一夜明けると自宅前にゴミが積み上げられているなど被害は深刻だった。最近はそこまでではなくなってきたものの、鉢植えに食べ残しの串焼きが刺さっていたことも。酔って上半身裸で走り回ったり、痴漢も出るから、毎年春先は治安が悪くなる印象しかないよね」(別の60代男性住民)

 公園の入り口には「お花見期間中のお願い」とする立て看板があり、宴会やシートを広げての飲食禁止が明記されていた。歩きながら桜を楽しむことまでは禁じていないが、マスク着用で混雑を避けるよう求めている。

「公園はとにかく広いから人混みを避けることはできるかもしれない。でも公園駐車場を封鎖しているため近隣への路上駐車は増えそう。いまだってこのとおり、桜並木の沿道は路上駐車でいっぱいでしょ。ここまで来た客がすんなり花見を諦めて帰るとは思えない」(同)

水元公園の桜並木の沿道には路上駐車が

 ところ変わって、都心の花見スポットとして知られる千代田区の千鳥ヶ淵緑道。区は感染防止のため「さくらまつり」を中止し、夜桜のライトアップも行わない。緑道近くに民家は少なく、花見客による生活への影響は限定的に思えたが……。

 徒歩5分圏内に自宅のある70代女性はこう打ち明ける。

「花見期間中はどっからこれだけの人が来るのかと思うほどの人混みで歩きにくい。特に日中がひどくて、近所のコンビニの商品はすべて買いあさられてしまうし、買い置きしておかないと食べるものに困るの。そうね、昨年はいつもよりはマシだったわね」

 自営業の男性は、花見期間中は「売り上げは少しだけ伸びる」としながらもマナーの悪さを嘆く。

「狭い歩道をカップルがだらだらと手をつないで歩き、うしろが詰まっても気にしない。スマホで写真を撮るために突然立ち止まったりする。桜が咲くのはここだけじゃないんだから地元で楽しめばいいのに。そんなにもうからないから負の側面のほうが大きいかな」

千鳥ヶ淵緑道には飲食を伴う花見を控えるよう求める看板が

ウンチしちゃった若い男の子がいた

 両岸の桜並木が見事な目黒川。目黒区によると、昨春は感染拡大防止のため区主催のイベントを中止したほか花見の自粛を呼びかけた。しかし、花見期間の約2週間で最寄りの東急電鉄中目黒駅の乗降客数はおおよそ前年比半減ながら約155万人を記録。ガマンできない花見客が少なくなかったとみられる。

 川沿いで暮らす40代女性は「歌っているのか叫んでいるのかわかりませんが、夜は自宅にいても騒ぐ声が聞こえてきます。もう慣れっこですね」と諦めムード。飲み残しの缶ビールや食べ残しのつまみなどをそのまま捨てていくのも当たり前という。

 50代男性は言う。

「例年だと年末のアメ横のようにごった返し、翌朝はゴミだらけ。昨春はコロナ自粛でそこまでではなかったが、マナーは守っていただきたい」

 マナーの悪さは騒音やゴミの不法投棄にとどまらない。

 60代女性は眉をひそめて話す。

「昨年ではないが、そのへんでウンチしちゃった若い男の子がいた。ウンチのついたパンツまで捨てていって。ほかに人混みから離れた路地で立ち小便する人もいるし、ひどいのは人の家の塀にしちゃう。道端にはお好み焼きみたいになった嘔吐跡があって、避けて歩いても酸っぱい臭いが漂ってくる。掃除する人の気持ちを考えてほしい」

 川沿いでは座り込んで飲食ができないようロープが張られるなど防止策が取られていたが、酒の勢いを借りて見知らぬ若い女性にまとわりつく輩(やから)はいるという。

目黒川では「花見はお控えください」と明確なメッセージ

 80代女性は「花見でお酒を飲みたくなる気持ちはわかる」と前置きしてこう話す。

「でも飲みすぎちゃダメですよね。自分の行動に責任を取れなくなるから。違法営業する屋台もあるようだし、そうした無責任さを見逃すと花見客のマナーも悪くなるような気がするの。花見に来るなとまでは言いませんが、コロナ禍なんだからもう1年ガマンしてもいいんじゃないか」

 花見スポットの周辺では「毎年花見はしない」と話す住民が少なくなかった。乱痴気騒ぎを見たくないからだという。責任ある行動が求められる春がやってきた。

◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)

〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する