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 国会で物議を呼んだ「年金カット法」の改正ルールが、来月からいよいよ始動。もらえる年金が0.1%減らされるぐらいなら……と安心してはダメ! こっそり、じわじわ下がり続ける「恐怖の仕掛け」を年金博士が徹底解説します。

高齢者の年金も引き下げて“痛み分け”

 4月から年金が減らされる。2016年の年金改正で作られた「新ルール」がスタートして、4月分(6月支給)の年金に初適用されるのだ。

新ルールとは、物価上昇率より賃金変動率が下がった場合、賃金のほうに合わせて年金も引き下げる仕組みです

 そう話すのは、「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾先生。この新ルールに基づき、今年の年金は昨年に比べ0.1%の減額に。40年働いた夫と専業主婦の妻という「モデル世帯」に当てはめた場合、夫婦合わせた厚生年金は年2736円のマイナスに。国民年金を満額支給される自営業の夫婦も、年1584円カットされてしまう。

年金制度を支える現役世代の賃金が下がっていることから、高齢者の年金も引き下げて“痛み分け”をしましょうという狙いです

 物価や賃金の変動に合わせて毎年、年金は改定されている。物価が上がれば年金も増え、逆に下がれば年金も減るのが基本だった。ところが、少子高齢化で現役世代が減り財政がひっ迫したとして、年金カットの仕掛けが次々と作られている。新ルールも、そのうちのひとつというわけ。

 新ルールをめぐっては、'16年の年金改正が国会審議された当時、野党から「年金カット法案」と批判が集まった。生活経済ジャーナリストのあんびるえつこさんは「年金をもらう側からすれば減らされていくことになるのだから、年金カット法というのは正しい」と指摘。ただ、問題は高齢者だけにとどまらない。

給付水準の抑制が続けば、現役世代が年金をもらうころには年金金額がさらに減っているかもしれません。現役世代にとっても他人事ではないのです

 加えて、こう心配する。

「企業が業績悪化すると、賃金は減りボーナスもカット、国へ入る社会保険料も減って年金財政は悪化し、さらなる年金抑制につながります。高齢者たちも出費を抑えて消費マインドが冷え込み、ますます景気は後退、賃金も下がっていく。悪循環に陥ってしまいます」(あんびるさん)

年金カットの“恐ろしい”仕掛け

 そんな中、今年1月までの実質賃金は11か月連続のマイナスを記録した。年金への影響が出始めるのは、実はこれからだと北村先生。

年金支給額は2~4年前の賃金の動きなどをもとに計算されます。つまり、'20年の数字は、'22年~'24年の年金に影響するわけです

 そこへ4月からの新ルールが適用されると、年金は一体、どれだけ減らされる? 「夫婦ともに会社員の共働き」「夫が会社員、妻が専業主婦」「夫婦で自営業」という3タイプ別に、北村先生にシミュレーションしてもらった。

 結果は次のとおり。実質賃金が年2%ずつ下がり続けたと仮定して、'24年には、「夫婦ともに会社員」は年13万3680円もの減額に。「夫が会社員、妻が専業主婦」は年10万7280円、「夫婦で自営業」は年6万3288円がカットされてしまう……。

 その後も賃金が減り続けたら、一体どうなっちゃうの!?

※イラストはイメージです 

一定の歯止めがあります。(前述の)モデル世帯が受け取る年金が現役世代の手取り月収の50%まで落ちると、そこで減らすのをストップさせる決まりなんです。

 いまの現役世代は、ボーナスも含めた平均月収が38万円ぐらい。これに対し、モデル世帯の夫婦2人の年金が仮に月22万円とします。現役世代の手取り月収38万円の50%だから、歯止めとなる年金は月19万円。つまり22万円から10%近く減ったということ。月2万円強は減っていくので、年間で25万円近い額がカットされる計算です

 おそろしいことに、年金カットの仕掛けはまだある。北村先生が続ける。

「物価や賃金が上がれば、『マクロ経済スライド』という制度が発動されます。少子高齢化による年金財政への影響分=調整率を差し引いて、年金をカットする仕組みです。簡単に言うと、物価が2%上がっても年金は1%しか上がらず、目減りしていきます」

 “100年安心”を掲げて'04年に導入された「マクロ経済スライド」。これまでに実施されたのは3回だけ。物価や賃金が上がらないデフレ下では、発動できないからだ。

そこで、前述の調整率を翌年以降に繰り越す『キャリーオーバー』という厄介な仕組みが導入されました。調整率はだいたい0.9%と言われていて、10年繰り越されると9%に。要は物価が9%上がっているのに、もらえる年金の額は据え置かれてしまうんです。同じ値段を払っても、10年前と同じものは買えなくなります」(北村先生)

個人年金の加入がおすすめ

 法改正のたびに登場する年金カット措置を北村先生は、「高齢者にとっては、振り込まれる年金の額面が去年より多いか少ないかが重要であって、100円でも増えていたら喜ぶわけですよ。それを巧妙に、わかりにくい仕組みを作って、都合よく年金を下げていくやり方は姑息です」

 と、手厳しく批判。あんびるさんも憤りを隠さない。

「年金財政を維持するには税制・財政全体を見直さなければならないのに、年金をどんどんカットする一方で、株の譲渡益や配当金などへの税率は日本の場合、他国よりずっと低いんです。所得の再分配を機能させるには、あるところからとるべき。誰のほうを向いて政治をやっているのか、よくわかります」

 あの手この手で打たれる年金カットの仕掛け。どうやって対抗すればいいの?

まずは個人年金の加入がおすすめ。8万円以上の保険料で最大4万円の控除を受けられますし、いつでも解約できて、借り入れもできる。ある程度収入がある人は、運用益が非課税の個人型確定拠出年金がベスト。元本割れしない金融商品を選んでおけば安心です。もらえるのが国民年金だけという人は、国民年金基金への加入を。終身保険なのでお得ですよ」(北村先生)

「すべての企業に社員が70歳まで働けるよう努力義務を課す『70歳就業法』をはじめ、シニアの雇用を促進する制度づくりが進められています。シルバー人材センターを利用したり、いろいろなところから、少しずつでも収入を得られる方法を見つけて。

 例えば、メルカリやミンネなどのフリマアプリで、手作りの幼稚園バッグを売ったりする。意外と主婦のキャリアは活かすことができます」(あんびるさん)