岩崎宏美 撮影/近藤陽介

 16歳から歌手として、常に第一線で活躍してきた岩崎宏美さん。昨年45周年を迎えたものの、コロナ禍のためにさまざまな催しを諦め、さらには恩師である故・筒美京平さんとの永遠の別れもあった。日本を代表する歌手の、昭和のよさを受け継ぐ姿勢と新しい挑戦とは──。

歌手生活45周年を迎えた岩崎宏美

 2020年、デビューから45周年を迎えた歌手の岩崎宏美さん。4月に45周年記念コンサートを開く予定だったが、コロナ禍で延期になり、12月2日にようやく実現。そのステージを全曲収録したDVD&ブルーレイ『HIROMI IWASAKI 45th ANNIVERSARY CONCERT 残したい花について』(テイチク)が発売となった。

「メーキングの映像を見ると、ガウンも着ずにメイクをしていたり、いかにプレッシャーを感じていたのかがわかります。1回限りの特別なコンサートですし、忘れられない一夜となりました」

 コンサートの第一部では、作曲家の故・筒美京平さんのメドレーを熱唱し、亡き恩師を偲んだ。

「デビュー曲の『二重唱(デュエット)』をはじめ、私の歌の約80曲が筒美先生の作曲です。レコーディングにも来ていただきましたが、とてもシャイでおしゃれな方でした。デビューのときに筒美先生から『高音をほめられると思うけど、あなたのよさは中低音であることを忘れないで』と言われたことを覚えています。

 大人になるにつれて、自分の中低音の声が好きになってきて、私の強みを見抜いてくださっていたことに感謝でいっぱいです。キャッチーで、キラキラ輝いている歌ばかりで、新曲をいただくたびにワクワクしていました。筒美先生と作詞家の阿久悠先生は、歌手・岩崎宏美をつくってくれた“両親”といえます」

 ヒット曲『ロマンス』では、こんなエピソードも。

「『息がかかるほど そばにいてほしい』という歌詞が、16歳の私が歌うには色っぽすぎると筒美先生はおっしゃって、『ロマンス』をレコードのA面にすることには反対の立場でした。でも阿久先生は『岩崎宏美が歌えば、色っぽい歌詞もさわやかに聴こえる』とおっしゃって、私も含めた関係者の多数決でA面になったのです。確かに色気はなかったですよね(笑)」

 45周年記念コンサートでは、妹の岩崎良美さんやオカリナ奏者の宗次郎さんも登場し、豪華なステージとなった。メーキング映像では、親衛隊から送られたのれんがずらりと並ぶシーンもある。

良美とはふだんから仲がよくて。今朝もわが家にコーヒーを飲みに来ていました。宗次郎さんとは、もう数えきれないほどコラボをさせていただいていますね。

 15年ほど前に私の親衛隊が再結成され、コンサートのたびにのれんを送ってくださいます。同世代のみなさんが鉢巻きをして客席から応援してくださるので、『私も頑張らなければ! 』という気持ちになれるんです。昨年はコロナ禍で客席はシーンとしているという異例のコンサートでしたが、早く通常のコンサートに戻れるといいですね」

名曲のそれぞれに印象的な思い出が

 最近はシンガー・ソングライターの宮本浩次さんが『ロマンス』をカバーしたことで、若い人たちにカラオケで歌われているという。

ハリのある声は変わらないものの、年を重ねてますます麗しくなられた感が。「実は男っぽいので、動きやすい服装のほうが好きなんです」(岩崎さん)

「You Tubeで若いバンドの人が岩崎宏美について語ってくれたり、世代を超えて評価してくださるのは最高ですね。うちの息子も『シンデレラハネムーン』が大好きだと言ってくれます。昭和の歌謡曲は覚えやすくて、言葉がはっきり伝わるのが魅力ですよね。いい歌は歌い継がれていくものなので、誰が歌ってくださってもうれしいものです。もちろん、ものまねのコロッケさんでも(笑)。

 宮本さんが歌ってくださって、昔、岩崎宏美を聴いていた方があらためて私の歌に耳をかたむけてくれることも多いようです。歌うことをずっと続けていて本当によかったなあと思います」

 岩崎宏美さんといえば、火曜サスペンス劇場の主題歌『聖母たちのララバイ』を思い浮かべる人も多い。

「実は、火曜サスペンス劇場の時間帯に大阪のラジオ番組の生放送があって、私は見ることができなかったんです。でも、火サスのおかげで、ふだん歌番組を見ない人たちにも認識され、当時は空港でサラリーマンに声をかけられることが増え、びっくりしました」

 昨年からはYouTubeもスタートし、秘蔵映像の公開やネットサイン会なども行っている。

「ネットサイン会とは、直接会ってサイン会をすることができないので、ネットを通じて参加してくれた方の目の前でサインをして後日、郵送するスタイルです。実はスマホやパソコンまわりのことは嫌いではなくて、YouTubeの動画は自分で撮影することも多いです。ホームページのコンサートレポートやファンクラブ会報も自分で書いていますよ」

 今年もコンサートツアーを予定しており、多忙な日々の中、体調管理は欠かせない。

「生ものは食べないことと、よく眠ることは鉄則です。以前は、夜中に目が覚めてしまったり、くたびれていても眠れないときがありましたが、昨日は久しぶりに6時間続けて眠れました。食事は、遅い朝食と夕食の1日2食がちょうどいいですね。実は小麦粉アレルギーであることがわかり、クッキーやアイスクリームが食べられなくなって、米粉のパンや和食が中心の食生活です。でも、そのおかげで体重が7キロ落ちて、体調もよくなりました」

ワンオク・Takaの歌声に感動して

 ふだんからほかのシンガーのコンサートにもよく足を運ぶという岩崎さんだが、意外なバンドのファンだという。

「ONE OK ROCK(通称・ワンオク)です。最初は高校の同級生である森昌子ちゃんに誘われ、武道館ライブに行きました。ご存じのようにワンオクのボーカル・Takaは昌子ちゃんの息子さんですが、大感動して、ライブ後にTakaに『あなたは日本のフレディ・マーキュリーね! 』と伝えてしまったほど。あいみょんもいいですよね、野性味があって。宇多田ヒカルさんも好きですよ」

大阪フェスティバルホールでのライブにて

 コロナ禍で長く歌えなかったことから、あらためて「歌うことが大好き」と気づいたという。

「ツアー中は忙しくて、体調管理もしっかり行わないといけないので、自分の心を見つめる余裕がありません。でも、自粛期間中に『もっと歌いたい! 』という思いが自分の中からあふれ出ているのに気づきました。だから自粛期間はとても意味があるものでしたし、そういう気持ちになれたのがとてもうれしかったです。

 これからの1本1本のコンサートをすごく楽しみにしていますし、大事にしていきたいと思います」

大阪フェスティバルホールでのライブを収録した『HIROMI IWASAKI 45th ANNIVERSARY CONCERT 残したい花について』DVD(税込み5000円)、ブルーレイ(税込み5500円)。テイチクオンラインショップ限定45周年記念ボックスは、豪華LPサイズのケース入り。ドキュメンタリー映像も収録。DVD BOX(税込み16500円)、ブルーレイBOX(17050円)。

『岩崎宏美コンサートツアー ~太陽が笑ってる~』
4/17(土) 東京・ルネこだいら(大ホール) 税込み6300円
4/29(祝・木) 福井・ハートピア春江(ハートピアホール) 税込み6000円(会員5500円)
5/5(祝・水) 東京・東京国際フォーラム(ホールC) 税込み6800円(当日券\500UP)
7/3(土) 神奈川・神奈川県民ホール 税込み6500円

PROFILE●岩崎宏美(いわさき・ひろみ)●1958年、東京生まれ。テレビのオーディション番組『スター誕生』に合格し、1975年に「二重唱(デュエット)」でデビュー。2作目の「ロマンス」で第17回日本レコード大賞新人賞をはじめ、数々の新人賞を受賞し、以降、数々のヒット曲を生み出す。

(取材・文/紀和静)