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息切れは肺の病気のサインかもしれない

 階段を上ったり、早歩きをするとゼイゼイと息切れがする……。「オバサンだからしかたないのかな」と年齢のせいにしがちなその症状、本当に大丈夫?

「ちょっとした動きで息切れを起こすのには、病気が隠れている可能性があります」とは、呼吸器内科が専門の宮崎雅樹医師。

 肺のもっとも重要な働きのひとつは、酸素と二酸化炭素を入れ替える“ガス交換”。しかし、「何らかの病気で肺の機能が低下すると血液中に十分な酸素を送ることができなくなってしまい、酸素不足になって息切れを引き起こしてしまうんです」(宮崎先生、以下同)

 息切れが起こる病気でいちばん可能性が高いのは、気管支に主にアレルギー性の炎症が起きて咳や痰を伴い呼吸困難になる“ぜんそく”だ。

「気管支の炎症は軽度な状態からはじまり、さまざまな刺激によって気管支が敏感になると気管支が急に狭くなって息が吐けなくなり、一時的にぜんそく発作を引き起こします。

 日本では子どもの8~14%、成人では9~10%がぜんそくといわれていますが、私の経験では、自分がぜんそくだと自覚している人はまだまだ少ないように感じています。というのも、呼吸器内科以外の病院で診察を受けると、ぜんそくの症状があっても気管支炎と診断されることが実は多いからです」

 ぜんそくの症状は自然におさまることがあるものの、気管支の炎症は実は依然として続いているため再び発作が起きる危険性がある。

「気管支の炎症が長期にわたって続くと気道が硬く狭くなり、元に戻らなくなることもあります。息切れのほかに、子どもころに気管支炎と診断されたことがある方や、風邪をひくと咳が長引く方、やけに痰がからむ方はぜんそくの疑いがあります」

 ぜんそくの次に可能性が高いのは、呼吸機能が悪化する“COPD(慢性閉塞性肺疾患)”だ。

自身の喫煙はもちろん、受動喫煙も肺へのダメージは深刻

「日本には40歳以上の8.6%、約530万人の患者さんがいると推計されています。しかし、治療を受けているのはそのうちの約10%で、大半は診断すらされていない未治療の状態にあると考えられます。COPDは日本人の死因のトップ10に入る重要な疾患なのですが、すぐに症状が出ないため発見するのが難しい病気でもあるのが実情です。患者さんの9割は喫煙者のため、タバコを吸っている方はもちろん、受動喫煙が気になる方も注意が必要です」

 ほかにも、肺がんや結核、誤嚥性肺炎なども息切れから疑われる病気として挙げられる。また、心臓の病気が隠れている可能性もあるという。

「“心肺機能”という言葉があるように、心臓と肺はワンセットで生命を司っています。そのため、低酸素によって息切れの症状が出るのは心不全も同じです。息切れが気になる場合は年齢のせいにせずに、呼吸器内科か循環器内科を受診してください」

 息切れしない身体をつくるためには、肺の健康を維持することが大切だ。

筋トレで肺が若返り呼吸がラクになる

「タバコはCOPDや肺がんの原因になりますし、ぜんそくを悪化させる要因にもなります。ですから、喫煙している方はまずは禁煙をすることが重要です。また、極端にやせている人は肺の機能が落ちやすくなる傾向があります。あばら骨が浮いて見えるほどやせている方は、タンパク質や脂肪分をしっかりとって筋肉が落ちないように心がけてもらいたいものです」

 健康的な肺を保つには、ある程度の筋力も必要となる。

「肺は心臓のように自ら動くことができません。肺は肋骨の間にある肋間筋と肺の下にある横隔膜によって動かされており、この2つは呼吸筋と呼ばれます。全身の筋力が衰えると呼吸筋も衰えてしまい、呼吸がしにくくなってしまいます」

 肺機能を高めて呼吸をらくにするためには筋トレが不可欠で、中でも大切なのは太ももの筋肉を鍛えることだそう。

「人体の筋肉の中で最大なのが太ももの筋肉である大腿四頭筋です。下半身の筋肉は呼吸とはそれほど関係ないと思われがちですが、実は呼吸筋とつながっている筋肉はたくさんあり、その中で最も影響があるのが大腿四頭筋です。

 大腿四頭筋は全身を支える筋肉でもあるため、衰えると動けなくなり、呼吸筋を含む全身の筋肉が衰えてしまうという悪循環に陥ってしまいます。肺機能を維持するためには、太ももを鍛える筋トレが重要です」

肺の健康維持はコロナ対策にも有効

 筋トレといっても、過酷なトレーニングをする必要はナシ。

「筋肉は刺激を与えないと衰えてしまうので、今ある筋肉を落とさないように筋トレや運動を行います。私は肺機能を高める“肺トレ”として、いくつかの運動を考案し患者さんなどに提案していますが、いずれも高齢者の方でもできるやさしいものばかりです」

 宮崎先生がすすめる“肺トレ”のひとつがスクワット。

「スクワットは大腿四頭筋を効率よく鍛える運動です。短時間でできるうえ正しいやり方で行えば毎日行う必要はなく、週3日程度でも効果があるといわれています。今回はひざの痛みが気になる方でも無理なくできるイスを使ったスクワットをご紹介します」

 腹式呼吸も宮崎先生によると“肺トレ”の重要メソッド。

「腹式呼吸は横隔膜を大きく動かして呼吸をするため、肺に空気がたくさん入り呼吸がラクになります。また、腹式呼吸をすると免疫力が高まるともいわれています」

 私たちの身体の働きをコントロールしている自律神経には交感神経と副交感神経があり、日中の活動時には交感神経が、夜間などに休息しているときには副交感神経が優位になる。

「副交感神経が優位になったときウイルスや細菌の侵入を防ぐ免疫力が高まるといわれます。自律神経の働きは基本的にコントロールすることができないのですが、腹式呼吸によって副交感神経の働きを高めることができるんです」

 実は、ここまで聞いたすべての情報は新型コロナ対策に直結するという。

「新型コロナウイルスのメインターゲットとなる臓器は肺ですから。肺の機能を守ることは、新型コロナ対策にもなります。肺の健康を維持する生活を送りつつ、感染症対策もしっかり行い、コロナ禍を乗り切っていきましょう」

【肺トレのやり方】
簡単に肺の機能が高まる! 腹式呼吸

 あおむけに寝て、お腹の中で風船をふくらませるようなイメージで鼻からゆっくりと息を吸う。おへその少し上に片手を置いてお腹のふくらみを確認しながら行うとやりやすい。1日5回から始め、慣れたら10回〜20回を行う。

あおむけに寝て、お腹の中で風船をふくらませるようなイメージで鼻からゆっくりと息を吸う。おへその少し上に片手を置いてお腹のふくらみを確認しながら行うとやりやすい。1日5回から始め、慣れたら10回〜20回を行う。(イラスト/わたなべふみ)

<ポイント>息を吐くときは、口をすぼめる。背中や腰を床にくっつけるようなイメージでゆっくりと吐き出す。

<ポイント>息を吐くときは、口をすぼめる。背中や腰を床にくっつけるようなイメージでゆっくりと吐き出す。(イラスト/わたなべふみ)

<ポイント>お腹の上に辞書などのおもりを置き、それを浮かすように息を吸ってもよい。

<ポイント>お腹の上に辞書などのおもりを置き、それを浮かすように息を吸ってもよい。(イラスト/わたなべふみ)

筋力が弱い方でもOK イスを使ったスクワット

(1)イスに浅く座り、手はひざの上に置く。足は肩幅に開き、つま先は前に向ける。

(1) イスに浅く座り、手はひざの上に置く。足は肩幅に開き、つま先は前に向ける。(イラスト/わたなべふみ)

(2)(1)の姿勢から反動をつけずにゆっくりと立ち上がる。

(2) (1)の姿勢から反動をつけずにゆっくりと立ち上がる。(イラスト/わたなべふみ)

(3)完全に立ち上がったらゆっくりと(1)の姿勢に戻る。10回を1セットとし、1日3セットを目安に行う。

(3) 完全に立ち上がったらゆっくりと(1)の姿勢に戻る。10回を1セットとし、1日3セットを目安に行う。(イラスト/わたなべふみ)
教えてくれたのは……
みやざきRCクリニック宮崎雅樹先生
2006年、群馬大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院呼吸器内科助教などを経て2016年に現クリニックを開院。『林修の今でしょ!講座』などテレビ出演も多数。著書に『長生きしたけりゃ肺を鍛えなさい』(エクスナレッジ)など。
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(取材・文/熊谷あづさ)