左から時計回りに谷原章介、川島明、立川志らく、小倉智昭

 今日(29日)から朝の新番組が2つスタートする。前番組からMCの雰囲気もガラリと変わるが、テレビ局の“狙い”とは? 今後の朝番組について、テレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

番組のカラーが激変

 今春は例年に比べて番組改編の動きが大きく、長寿番組の終了や新番組のスタートなどが連日にわたって報じられている。なかでも、過去を振り返っても記憶にないほどの変化が見られるのは、朝8時台スタートの情報番組。

『とくダネ!』(フジテレビ系)と『グッとラック!』(TBS系)が終了して、『めざまし8』(フジテレビ系)と『ラヴィット!』(TBS系)がスタートするほか、『スッキリ』(日本テレビ系)は水卜麻美アナとハリセンボン・近藤春菜が抜けて岩田絵里奈アナが加入し、『あさイチ』(NHK)のメインキャスターも近江友里恵アナから鈴木奈穂子アナに代わる。

 まさに、はじまってみなければわからないほどの未知数な状況だが、やはり最大の注目は2つの新番組であり、MCを務める谷原章介と麒麟・川島明だろう。前番組の小倉智昭と立川志らくとのギャップが大きく、番組のカラーが激変することは間違いないからだ。

 なぜ同じ朝8時台の情報番組であるにもかかわらず、それほどギャップが大きく、カラーが激変するような人材がピックアップされたのだろうか。

率直な物言いよりスマートや柔和

 まず前番組のMCを務めた小倉智昭と立川志らくの持ち味と言えば、しばしば物議を醸すほど率直でハードな物言いだった。一方、谷原章介と川島明のキャラクターは、「スマートでクレバー」「柔和で温厚」などのソフトなイメージが強く、やはりギャップがある。

立川志らく

 このギャップは、制作サイドが率直な物言いよりも、スマートや柔和を求めていることの表れであり、そこに視聴者ニーズがあるとみているからだ。とりわけこの1年間はコロナ関連の重苦しいニュースが続いているだけに、視聴者に訴えかける強さや鋭さより、視聴者に寄り添うような姿勢が求められはじめている。

 また、「率直な物言いの小倉智昭や立川志らくでも、番組に出るからには、それなりの忖度があるだろう。しゃべりにくいことはスルーしているのではないか」と感じる視聴者が増えたことも見逃せない。つまり、「率直な物言いのキャラクターでも、テレビ局に雇われた出演者である限り、すべてが本音で話しているとは思えない」とみなされているのだ。

 たとえば、毒舌が売りの芸能人が「本当はいい人なのだろう」とみなされることは好感度アップにつながりやすい反面、率直な物言いの芸能人が「忖度があるだろう」とみなされることがタレント価値の減少につながっている。

あわただしい朝に最適な“いい声”

 もう1つ谷原と川島の共通点として見逃せないのが、低く聞き取りやすい声。2人は、何かとあわただしい朝に落ち着きや安らぎをもたらす“いい声”という武器を持っていて、それは番組を見る動機につながるほどの価値がある。

 さらに、落ち着きや安らぎをもたらしながらも、小倉・73歳から谷原・48歳、志らく・57歳から川島・42歳と、年齢的にかなり若返ったことも特徴の1つ。これは広告収入の観点から、スポンサーニーズの高い20~40代を狙ってのことだろう。

 『めざまし8』は、女性総合司会の永島優美アナ・29歳、レギュラー出演者の尾上右近・29歳、3時のヒロイン(福田麻貴・32歳、ゆめっち・26歳、かなで・28歳)、メイプル超合金のカズレーザー・36歳。

 『ラヴィット!』も、女性総合司会の田村真子アナ・25歳、レギュラー出演者のぼる塾(きりやはるか・26歳、あんり・26歳、田辺智加・37歳)、宮下草薙(草薙航基・29歳、宮下兼史鷹・30歳)、EXIT(りんたろー。・35歳、兼近大樹・29歳)、東京ホテイソン(ショーゴ・27歳、たける・26歳)。これらの起用を見ても若返りを図っていることが分かる。

 2つの新番組は、ソフトなイメージ、落ち着きや安らぎ、美声、若さを求めて、総合司会を谷原章介と川島明に託したのだろう。ここが前任者との決定的な違いとなる。

『モーニングショー』にも不安アリ

羽鳥慎一アナウンサー

 一方、コロナ禍をプラスに変えて視聴率争いで一歩抜け出した感のある『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)は、基本的に現状維持のスタンス。中高年層の視聴習慣がつき、他番組が若返りを図っていることから、視聴率争いでトップの座を守ることは間違いないものの、広告収入と長期的視野の点で不安を残している。

 もう1つカギを握りそうなのがコロナ禍の状況と、それにともなう視聴者心理。まだまだ現在のような厳しい状況が続くと見られているが、『羽鳥慎一モーニングショー』は注目を集め続けるのか。それとも、明るさや癒しを求めて『スッキリ』『めざまし8』『ラヴィット!』の需要が高まるのか。

 いずれにしても2つの新番組には視聴習慣がなく、総合司会の代わる2つの番組は視聴者が離れてしまうリスクがあるだけに、どのような工夫を用意しているのか興味深い。生放送ならではの臨場感をどう生かし、ネット上でつぶやかれるような話題性をどう生み出していくのか、出演者と同等以上にスタッフの力が試されている。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。