船越英一郎

『ごごナマ』が終わった。NHK総合で2017年4月から平日昼に放送されてきた生バラエティーだ。

 司会は船越英一郎(60)。スタート時は3時間番組だったが、昨年の9月末からは75分番組に縮小。その変化が示すように、ヒットした番組とは言いにくい。

沈黙貫いた船越英一郎

 だが、大いに注目された時期もあった。スタートから3か月後、船越の離婚騒動が勃発。'01年に結婚した妻・松居一代との対立が明るみになった。松居はユーチューブをフル活用して船越の不倫などを告発。船越サイドは不倫を完全否定したうえで、妻によるDVなどを挙げて反論した。

 ただ、この番組ではノーコメント。裏のワイドショーでは嵐のような騒ぎなのに、船越本人は何事もなかったように笑顔で番組を進行。ここだけが台風の目に入ったかのようなギャップが生じていた。

 また、9月にドラマの記者会見で妻との騒動について聞かれたときも、

悪くても感謝ですね。それに尽きます

 と回答。この「悪くても感謝」というのは座右の銘で、こんな理由からだという。

世の中にはいろんなことが起きます。素敵なこともあればとんでもない悪いことも起きます。(略)いろんなことが起きて、それをひとつ乗り越えると、乗り越える前よりも素敵な自分や強くなった自分がいて

 それゆえ、たとえお金を落としたときでも感謝するとして、

「今日1万円落としたら、絶対に落とすまいと思って、100万円のお財布を落とさないですむかもしれませんからね」

 と、説明した。

 しかし、松居は逆に最後まで好戦的だった。12月に離婚が成立すると、

人生の大掃除ができた。(船越は)無関係な人。大っ嫌いです

 と、一刀両断。便利グッズの『マツイ棒』で一発当てた人らしく、得意の掃除ネタを絡ませたわけだ。

松居一代

 そんな松居を船越がどう思っていたか、本当のところはわからない。離婚成立の翌月には『ごごナマ』に小柳ルミ子がゲスト出演。番組が用意した「どうしても許せない人がいる?」という質問に、

船越くんもいませんか。私、いますよ

 と切り返したため、船越はちょっと困惑していたものだ。

 おそらく、こういうとき、ネットニュースになるような面白いことが言えれば、番組ももっと盛り上がっていたのではないか。「悪くても感謝」でやりすごすのは処世術としては賢くても、テレビの数字にはつながらないのだ。

船越にぴったりな主戦場は……

『ごごナマ』の最終回では、ここでの出会いがこれからの財産になるとして、

「大切なみなさんの午後のひとときにお付き合いいただき、ただただ感謝」

 と、あいさつ。例によって「悪くても感謝」を貫いたが、ここまでくるとお気楽すぎる感じもしなくはない。あるいは、M(マゾ)的な気質なのだろうか。

 ちなみに、船越が『ごごナマ』を引き受けたのは、長年、主戦場としてきた2時間ドラマが衰退してきたからだともされる。

 実際、3月には主演連ドラ『山村美紗サスペンス 小説家探偵 鍋島仙太』が放送されたが、4話、BS日テレで1話30分という、地味な扱いだった。それでも、山村紅葉との昭和のコントみたいな掛け合いには、ここが本来の居場所というか、水を得た魚のような印象も受けた。 

 そう、この人には、昼下がりの生トークより、崖で犯人を追いつめる芝居のほうが似合う。芸能界も、大事なのは適材適所なのだ。

宝泉薫(ほうせん・かおる) アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)