原田龍二、バービー 

 自らが犯した過ちを振り返り、「傷も含めて自分自身」と鼓舞して前進する全裸俳優・原田龍二。今回彼が迎えたのはフォーリンラブのバービーだ。彼女は女芸人として人気を博す傍ら、独自のジェンダー観を発信し、下着メーカーと理想のブラジャーを開発するなど、幅広く活躍している。性別を超えて言葉を交わすなかで見えてきた、ふたりの共通点とは──。

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原田 バラエティー番組で一緒になったことはあるけど、ひざを突き合わせてお話しするのは初めてですね。よろしくお願いします!

バービー よろしくお願いします!

原田 この対談は不祥事を起こした僕が、ドラマチックな人生を歩んでいる人にエネルギーの源を聞いてパワーをいただく、という企画なんです。ちなみにバービーさんのこれまでの人生は、平坦な道のりでしたか?

バービー ドラマチックなほうだと思います。自ら炎に飛び込むタイプです。

原田 あえて険しい道を行くんですね。

バービー そうですね。相方のハジメさんとフォーリンラブを結成するときも“あえて”の選択でした。お互い好きなタイプの人間ではなかったんですけど「相いれないからこそ見えるものがあるかも」と考えてコンビを組んだんです。

原田 息ぴったりに見えました! 組んで何年になりますか?

バービー 13年です。今は人間愛のような感情を抱いていますね(笑)。

原田 13年あれば関係も変化しますよね。

 バービーさんは学生時代にインド哲学やチベット仏教を学んでいたとか。実は僕も、昔チベット密教の本を読んでいたのですごく興味がある分野なんですよ。

バービー そうなんですか! うれしいです!

原田 僕もシンパシーを感じました! インド哲学を学んだ経験がバービーさんの生きざまの栄養になっているのか、ぜひお聞きしたかったんです。

バービー そう思います。仏教や哲学に触れて「自分の価値を外側に求めなくてもいい」「常識がすべてではない」と思えるようになりました。“自分の価値観を大事にする”という考えのベースになっています。

原田 僕も「自分は自分だ」と思って生きているので、外野の声はあまり気にならないんです。すごくよくわかります。

「根暗な私は“バービー”になって救われたんです」と語るバービー

バービー 実は先日、心理学協会の方とお話しする機会があったんです。その方に「本当の私は根暗で人見知りで内向的だけどバービーというめちゃくちゃ明るくて奔放、自信満々なキャラを得て救われている」と言われました。それを聞いて、若いころにインド哲学やチベット仏教哲学を学んで自分自身を深く掘り下げる経験をしたからこそ、ふたりの自分をバランスよく統合して自己実現につなげられたのか、と腑に落ちましたね。

原田 どちらも本当の自分として大切にしてるんですね。

バービー そうですね。30代に入ってからお笑い以外の仕事もするようになったんですけど、活動の幅を広げるほど“バービー”も本名の“笹森花菜”も、両方なくてはならない存在になりました。

 昔は社会的な顔としてバービーが表に出ることが多かったけど、この1〜2年でふたりがうまく溶け合うようになりましたね。

原田 もうひとつの顔があるおかげで、自尊心が保てる部分はありますよね。

 僕自身は他人と自分を比べて一喜一憂することはないんですけど、一方で他人と比べて成立している芸能界に身を置いている。そういう意味では、僕にも別の自分がいるのかもしれない。

ノーブラで街を歩こうとした

原田 最近は執筆活動をしたり、下着のプロデュースをしたり幅広く活動されてますが、何かきっかけはあるんですか?

バービー 明確なきっかけはないんです。ただ、自分が抱いていた世間に対する“違和感”を発信するようになってから仕事も変わってきた印象です。もちろん、時代の変化も影響していると思います。

原田 世間が変わった?

バービー はい。個人的に“外側の価値観にとらわれる必要はない”と思っていても、昔は白い目で見られたんですよね。例えば、学生時代に「女だけブラジャーをしなきゃいけないのはおかしい」と感じてノーブラで街を歩こうと試みたこともありました。

原田 チャレンジャーですね!

バービー でもそのときは、友人に「そこまですることない」と止められて断念したんです(笑)。当時はそういうマイノリティーな意見は爪弾きにされたんですけど、今は逆に称賛されるようになって、正直戸惑っています(笑)。

原田 バービーさんの根っこは変わってないですからね。

バービー そうなんです。無人島で孤独に過ごしていたつもりが、いつの間にか島にたくさん人が集まってきた感じ。ちなみに原田さんは、自分の考えが確立されたタイミングってあるんですか?

原田 確立……してないんでしょうね、今も。生きている限り考えはどんどん変わっていくものなので。

バービー そっか、完成しないのか。すごくいいですね!  昨年私が出版した本には『本音の置き場所』とつけたんですけど「私の本音は変わるかもしれないから、いったんここに置くよ」という意味を込めました。原田さんもおっしゃるように、本音も考えも変化していきますよね。

対談する原田龍二とバービー

後輩への指導に悩むことも……

原田 すごくわかります。バービーさんはとても柔軟な方なんですね。

バービー 柔軟でいたいです。ときどき、雑誌などで私が自信たっぷりに「若い子は◯◯すべし!」という言い切り表現になっているときがあるんですけど、私は誰かに価値観を押しつけたくないんです。最近は、そういう面で自分と世間のイメージとのギャップを感じます。

原田 それは少し怖いですね。

バービー こんな私ですが、後輩への接し方に悩んでいるんですよ。先日、同じ事務所の芸人が集まって、ある地上波の番組に出演したんです。そのとき、若手の子がMCの中居正広さんよりも5分遅れてスタジオ入りしてきたり、全然前に出ようとしなかったり、収録中にすごくヒヤヒヤしちゃったんです……。

原田 前もって何か教えてあげるべきだったと?

バービー はい。事前に小ネタ仕込んどけとか、ちゃんと挨拶しようねとか言えばよかった。収録後に仲がいい後輩には箇条書きで反省ポイントを送ったんですけど、もっとできることがあったよなあ、なんて後悔しました。

原田 でもそれは、バービーさんが教える以前の問題だよね。特に遅刻をしない、挨拶するなんてどんな場面でも大切じゃないですか。

バービー (驚き)!

原田 彼らは笑いが取れなかったことを悔しがってるんですか?

バービー それも気になります……。

原田 それもバービーさんが気に病むことじゃないと思いますよ。芸能界は自分でアンテナを張ってキャッチしないと生き残れない世界なので。バービーさんは先輩から仕事の姿勢を教えてもらったんですか?

バービー 同じ事務所に女芸人の先輩がいなかったので、言葉で教えてもらった記憶はないです。ただ、収録中に先輩たちの連携プレーを見たり、先輩からのパスを「バービーちゃん」としてどう返せばいいか、というレールを敷いてもらったりして、現場で学んでいきました。

原田 それはバービーさんが先輩からの信号をキャッチしようと努力した結果、成長につながったんじゃないかなあ。後輩の学ぶ姿勢まで抱え込むことはないと思いますよ。

バービー なんだかスッとしました……! まさかカウンセリングまでしていただけるとは。ありがとうございます!

原田 いやいや、感想を伝えただけなのでご参考まで(笑)。僕もいろいろな気づきがあってすごく楽しかったです。ありがとうございました!

【本日の、反省】とっても素敵な方でしたね。学生時代に哲学を学んでいた過去が関係しているかどうかはわかりませんが、冷静に自分を分析して奥行きがある女性。これからもどんどん変化や進化を遂げて、自分の道を突き進んでいってほしいです。今回の対談では聞けなかったけど、バービーさんがこれまで積んできた人生経験もぜひ教えてもらいたい。これからも応援しています!

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取材・文/大貫未来(清談社)

原田龍二(はらだ・りゅうじ)●1970年、東京都生まれ。第3回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリを受賞後、トレンディードラマから時代劇などさまざまな作品に出演。芸能界きっての温泉通、座敷わらしなどのUMA探索好きとしても知られている。現在、YouTubeチャンネル「原田龍二のニンゲンTV」を配信中!