石井亮次アナウンサー(左、ゴゴスマ公式ツイッターより)と宮根誠司アナウンサー(右)

 新番組『めざまし8』(フジテレビ系、平日午前8時)『ラヴィット!』(TBS系、同)がスタート、『スッキリ』(日本テレビ系、同)もMCが変わるなど、朝の情報番組が大きく変化した。そんな中、『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』(TBS系、平日午後1時55分)と『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系、同)による午後のワイドショー戦争が新たな局面に入った。

『ゴゴスマ』関東圏進出時は“惨敗”

 CBC(名古屋)が制作する『ゴゴスマ』の放送が3月15日から関西圏でもスタートしたのは知られているとおり。これにより、読売テレビ(大阪)が作る『ミヤネ屋』との戦いは全国レベルに拡大したのである。

 これまでの視聴率争いは関東圏では『ミヤネ屋』が優勢。東海圏では『ゴゴスマ』がリード。3大都市圏で空白区だった関西圏を制した側が、午後のワイドショー戦争の主導権を握ることになる。敗れた側は苦しい立場に置かれる。どちらにも負けられぬ事情がある。

 その事情を説明する前に、まず両番組の系譜を辿りたい。『ミヤネ屋』は2006年、関西圏のローカル番組として誕生した。関東圏での放送も始まり、全国ネットの番組になったのは翌2007年。「関西で人気番組だったから全国ネットになった」と思われているが、理由はそれだけではない。

 日テレと読売テレビは協議の上で、それぞれが全国ネットの番組をどれくらいの割合で制作するかを決めている。両局はあくまで別会社であり、全国ネットの番組の制作量で収益が大きく違ってくるからだ。

 当時、読売テレビ側は全国ネットのドラマなどの制作枠が減っていた。このため、その代償という意味もあって、『ミヤネ屋』を日テレでも放送することになったのだ。両局の“政治”も背後にはあった。この決定により、それまで日テレが主体となって制作していた午後のワイドショー『ザ・ワイド』は幕を閉じた。

 『ミヤネ屋』がたちまち人気番組となったのはご存じのとおり。「ナニワのみのもんた」と呼ばれていたMC・宮根誠司氏(57)の明るいキャラクターと歯切れのいいトークがウケた。

 一方、『ゴゴスマ』が東海圏向けの情報番組として産声を上げたのは2013年。それ以前はドラマの再放送を流していた。こちらはMC・石井亮次氏(44)の実直そうな人柄や生活者目線の番組づくりが視聴者を引き付け、2015年からはTBSも放送するようになった。

 これにより、『ミヤネ屋』と『ゴゴスマ』の関東圏での対決が始まったわけだが、当初は『ゴゴスマ』の惨敗が続いた。同年10月には世帯視聴率0・9%という信じられない世帯視聴率を記録する(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。まるでEテレの語学番組である。関東圏からの撤退は必至と見られた。

 ところが、『ゴゴスマ』は粘り強かった。生活者目線に徹した姿勢が徐々に関東圏でも受け入れられていく。『ミヤネ屋』はコメンテーターが毎回2、3人なのに対し、5、6人登場させ、スタジオ内の雰囲気を賑やかにしたのも功を奏した。視聴率は少しずつ上がっていった。

 関東圏対決が始まってから約2年が過ぎた2017年10月4日には初めて『ミヤネ屋』を抜いた。『ゴゴスマ』5・4%に対し、『ミヤネ屋』4・7%。その後も好水準を維持している。今は逆転する日も珍しくない。

ゴゴスマにあって、ミヤネ屋にないもの

 では、『ゴゴスマ』の生活者目線とは具体的に何か。日テレ幹部に聞いた。

「典型的なのは天気予報。詳しくて分かりやすい。ボリュームもワイドショー全体の中で一、二を争う」

 天気予報は同局アナで気象予報士の沢朋宏氏(47)が担当している。確かに情報量が多い。かなり先の具体的な予報まで伝えるなど実用的でもある。

 日テレ幹部が『ゴゴスマ』を誉めることに違和感をおぼえる人もいるかもしれないが、『ミヤネ屋』はあくまで別会社の番組なのだ。クールに捉えている。

 日テレ関係者の同番組への見方がクールな理由はほかにもある。2012年に発覚した宮根氏個人の問題である。夫人とは別の女性との間に子どもがいることが報じられ、本人も認めた。

「ほかの芸能人らの私生活上の問題を報じる立場なので、ガクッときた」(同・日テレ幹部)

 当時は視聴率がダントツだった上、やはり別会社の問題なので、日テレは沈黙したそうだ。だが、失望感は残っているという。それは宮根氏も分かっているはずだから、関西圏での新たな戦いにも勝ちたいだろう。読売テレビのお膝元ということもある。

 関西圏で勝ちたいのは『ゴゴスマ』も同じ。新たにネット局に加わったのは毎日放送(大阪)で、これによってCMがネットセールス(ネット番組を放送する各局のCM枠をまとめてセールスする方式)に変わる見通しだからだ。CBCには大きなビジネスチャンスである。

 どういうことかというと、これまではCBCが『ゴゴスマ』という番組をネット局に販売し、CMはネット局がそれぞれ自分たちで探した。CBCにとっては大きな利益につなげにくかった。

 これがネットセールスになると、CM契約の大半はCBCが一括して行い、その契約料の総額から制作費などを引き、差額をネット局に分配する。CBCの利益率は高まる。ただし責任も重くなるので、勝たなくてはならないのだ。

 現在まで関西圏対決はどうなっているのかというと、初日の3月15日の関西地区の世帯視聴率は『ミヤネ屋』が6・8%で『ゴゴスマ』が同4・9%。その後も『ミヤネ屋』が勝ち続けている。だが、この序盤の結果を喜んでいるのは、むしろ『ゴゴスマ』ではないか。

 関東圏に乗り込んだ際のような大惨敗ではないからだ。まして関西圏は『ミヤネ屋』のホーム。この程度の差なら、将来に向けて希望が持てるはずだ。

 かたや『ミヤネ屋』はより大きく引き離したいところだろう。関東圏では圧勝と言えなくなり、東海圏は劣勢で、関西圏で敗れたり、肉薄されたりすると、日テレが再び午後のワイドショー制作に乗りだし兼ねない。その能力は十分あるのだ。

 さて、勝ち上がるのはどちらか。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立