吉村洋文大阪府知事(左)と松井一郎大阪市長(右)、はともに「日本維新の会」の盟友だが……。

 4月2日、大阪府は613人の新型コロナ新規感染を発表した。5日からは「まん延防止等重点措置」が適用された。昨年から続く大阪のコロナ禍はここにきて、新たな局面に入った。

 大阪のコロナ対策として記憶にあるのは、吉村知事の「イソジン騒動」だろう。吉村洋文知事と同じ「日本維新の会」の盟友、松井一郎市長も、感染者急増での医療用防護服(サージカルガウン)が足りない事態に対し、ひろく市民に「雨ガッパ」の供出を呼びかけていた。

 昨年4月14日に記者会見で呼びかけられると、36万着もの合成樹脂製の雨ガッパが大阪市庁舎の玄関ホールに殺到した。企業や団体などからの提供もあったが、その多くは一般の個人からのものだった。

 もちろん急場しのぎだったのだが、この松井市長の呼びかけは、実は無駄だった可能性があるという。

 情報開示請求などを通し、行政の問題点を明らかにする通称『開示請求クラスタ』の一人、沙和(ツイッターアカウント=@katakorinaoshi1)さんの府への請求で明らかになったのは、松井市長の呼びかけの前にすでに大阪府による「レインポンチョ」の調達が進んでいたことだ。まさに府と市のチグハグな動きで「府市(ふし)あわせ」な事態が発生していた。

 開示された公文書によると、大阪府の保険医療室医療対策課は4月8日には、業者に対して、レインポンチョを「災害発生時応急対策に要する物品」として調達することを検討していた。打診された随意契約先としては、ダイソーなどの100円ショップの名前も並ぶ。対応は迅速で、216,700着ものレインポンチョを19,818,150円(税込み)で購入していた。松井市長の会見時には、すでに購入の目処がたっていたのである。

 大阪には、市で36万着、府が21万着、合計57万着が昨年の4月中に集められたことになる。しかも…、である。

「大阪市役所の玄関ホールに積み上げられた段ボールは、すべて雨ガッパが入ったものだったそうですが、それを一つ一つ、市の職員が検品していました。条例では、雨ガッパのような燃えやすい合成樹脂類を1か所に3トン以上保管する場合は、消防署への届け出を義務付けています。しかし、市はそれを怠っており、昨年6月初旬、市消防局からの指導を受けていたのです」(在阪社会部記者)

 36万着「雨合羽や医療用マスク等のご寄附について」と、大阪市のHPで発表された内容によると、36万着の供出雨ガッパは、現在33万着が配布済だという。市の担当部署である大阪市健康局健康づくり課に聞いた。

「集められたポンチョはホールにあって消防局とも相談して、別の場所に移動させるなどして対応していました。現在でも残りは市の倉庫にあります。昨年から医療機関の他、介護施設などにも配布して、現在でも希望される団体に月に一回払い出し(配布)をしています」

大阪市健康局が3月下旬に公表した寄付物品の状況と保管の様子

 市役所玄関ホールを埋めつくした供出雨ガッパのうち、医療機関に渡ったのは、その一部にすぎない。多くは医療機関ではない学校など避難所となる場所にも配布された。そこでは、通常通り雨具として使われることもあるという。なお、市の担当部署は大阪府による雨ガッパ調達に関しては「知らなかった」のだとか。

 一方、市に先立って21万着の「レインポンチョ」の調達に動いていた大阪府の健康医療室医療対策課感染症グループに聞いた。

「防護服の在庫数が逼(ひっ)迫している時は、レインポンチョの調達に動いていました。開示文書の通りです。国の支援もあり、6月には防護服の在庫は改善されました。医療機関に配布したレインポンチョは1万枚ほどです。残り(20万着以上)は現在保管している状態です」

 なんと、まだ20万着以上、業者から調達したレインポンチョが倉庫に眠っているという。

 これらの供出雨ガッパ、調達レインポンチョは、昨年、医療用防護服の替わりとして役立ったのかというと、どうやら、そうでもないらしい。

「もともと雨具ですから、滅菌処理などされていません。さらに個人からの寄付ですから、規格も揃っていないし、手作りのものまである。もちろん寄付した人たちは善意での行動なのでしょうが、実際に雨ガッパを送られた医療機関では『どこで使うんだ?』と疑問の声があがっていました」(大阪市内の病院関係者)

 医療関係者によると、現場での雨ガッパの使用は、あくまで補助的な使用に限定していたという。しかもゴールデンウィーク明けには医療用防護服の在庫は安定しはじめたのだ。

 なお、大阪府の雨ガッパに関する公文書を入手した沙和さんは、吉村知事のイソジン会見に至るまでの経緯を情報公開請求で明らかにした実績もある。

 その沙和さんが、一府民として、4月5日の「まん延防止等重点措置」の適用に思うのは「市長や知事には、職員の手がかかるような、変な思いつきだけはしないでほしいですね」ということ。

 多くの善意が集まったことには意義があるだろう。しかし、ただでさえ忙しい中、降って湧いた検品作業は職員にとって大きな負担になった。しかも、府とのチグハグな動き、そして両者とも結果的にあまり役に立たなかったというのは残念すぎる事だ。