3月5日、東京都の都立駒込病院で医療従事者を対象にワクチン接種が行われた

 4月12日から高齢者向けの新型コロナワクチンの接種が開始される。しかし、課題は山積みだ。

「供給体制が整っておらず、今後の接種のスケジュールは不透明な状況です」

 そう語るのは、医療問題に詳しいジャーナリストの村上和巳さんだ。

 ワクチンの接種は高齢者や基礎疾患のある人が優先で、一般の人はその後となる予定だが……。

「承認されている米ファイザー社のワクチンは、増産体制を整えているところです。欧米の感染状況が悪化しているため、日本に回す分がいつ、どのくらい届くか、直前まで確定しないこともあります」(村上さん、以下同)

 いつ届くのかわかるのは1週間前で、場合によっては2、3日前になるという情報もあり、非常にドタバタした状況。今後、ワクチンが届かずにスケジュールが後ろ倒しになる地域も出てくるだろう。

「今の状況だと、一般の人にワクチン接種が開始されるのは7月までズレ込むのではないかと思います。最悪、8月か9月までかかるおそれも」

 届けられたワクチンは冷凍庫のある各自治体の医療機関などに送られ、保管される。

輸送時の揺れでワクチンが損壊!

 だが無事にワクチンが届いたとしても、接種を行うまでの過程にも不安要素が……。

「ワクチンは1度解凍したら、再冷凍ができません。ファイザー社のワクチンの場合は、解凍してから冷蔵庫で5日間しか持たない。

 さらに接種のための準備で生理食塩水を足して希釈すると、6時間以内に接種しなければなりません。会場に予定した人数が集まらないと、余ったワクチンは廃棄されてしまいます」

 またワクチンはデリケートな物質のため振動に弱く、輸送中の地理的条件も課題だ。

「例えば岩手県の内陸部から沿岸部に運ぶときは山間部を通るので、振動が心配です。鹿児島や沖縄、東京の離島へは船で運ぶので、海がしければワクチンが損壊することもあります」

 また夏は別の危険も伴う。暑い日は冷蔵・冷凍設備のコンプレッサーの負荷が上がるため故障しやすく、損傷リスクはさらに高まる。

村上和巳さん

ほかにも問題が山積み

 医師不足も指摘される。

「人口の密集している県庁所在地などでは問題ありませんが、山間部などは医師が足りていない地域もあります。ほかにも、遠方の接種会場に行けない高齢者のための送迎バスの手配や、その運転手の確保など、課題が多いです」

 離島には別の問題も……。

「接種後にはアナフィラキシーショックが起きる可能性があるため最低30分間、医師が経過観察をします」

 30分以降に症状が出る可能性もゼロではなく、

「島がいくつもある地域の場合、医師は迅速な接種を行うため、次の島へすぐに向かわなければなりません。万一、医師が離れた後に症状が出たら、ヘリコプターで救急搬送するので、費用も手間もかかってしまう」

 ワクチン接種は始まるが、供給体制が不透明で、無事に接種するまでのハードルも高いというのが現状だ。

 そんな中、3月28日に接種会場を変えることでワクチンを選択できると報道されたが、直後に撤回された。

 日本が現在ワクチンの供給契約を交わしているのは、米ファイザー社、米モデルナ社、英アストラゼネカ社の3つ。違いはあるのだろうか。

「3つのワクチンは有効性や副反応に大きな差はほとんど確認されていません」

 接種後の副反応は、発熱、倦怠感、頭痛、注射腫れなどがあるが、恐れるほどのものではない、と村上さん。

「発熱したら、解熱剤を飲んでも大丈夫なんです。どのメーカーのものかにこだわらず、できるものを最速で接種してほしいですね」