SNSにアップされた高永容疑者の自撮り写真(本人フェイスブックより)

「いつも高永さんからきちんと挨拶してくれてました。性格もおとなしい人なので、何であんな荒っぽいことをしてしまったのか……」

 と、近所の住民は怪訝(けげん)そうな表情を浮かべる。

マスクを拒否して「オレはコロナに感染している」

 4月3日、愛知県警中村署は威力業務妨害の疑いで、滋賀県草津市の無職・高永浩一容疑者(50)の逮捕を発表した。

 容疑者は前日2日午後4時24分ごろから、同4時58分までの間、京都~名古屋間を走行中の新幹線『のぞみ 34号』の車内で、車掌にマスク着用を求められたが、拒否。トイレや喫煙ルームにおよそ35分も居座った。その際に、

「お客さんを人質にとって、暴れてもいいんだぞ!」

 と怒鳴り散らした。

 さらに、名古屋駅で助役に降車指示をされても応じなかったため、JR東海は110番通報。そのときも、

「オレはコロナに感染しているんだぞ!」

 と抵抗。そのため、駆けつけた警察官4人はコロナ感染対策の防護服をまとった厳戒態勢で現れ、名古屋駅は騒然となったという。

高永容疑者がマスク着用を拒み、23分も遅延させた新幹線『のぞみ』(名古屋駅にて)

 地元のメディア記者は次のように説明する。

「結局、こうしたドタバタ騒ぎで新幹線は約23分遅延して出発することになり、乗客約800人に影響が出ました。高永容疑者は新幹線の安全な運行を妨害したという疑いで逮捕されたのです。本人も容疑を認めています」

 昨年は飛行機内でマスク着用を拒否して運航を妨害した男が話題になったが、今回は新幹線内に現れたのだ。

 新“マスク拒否男”、高永容疑者はいったいどんな人物なのか。彼は、滋賀県草津市にある一戸建てに両親と同居している。

仲のよい両親に溺愛されたひとりっ子

 容疑者の両親について、別の近所の住民はこう話す。

「80歳前後の父親は元公務員で、ちょっと高圧的なものの言い方をする人です。70代後半の母親も回覧板の置き方にクレームをつけてくるような人で……。ゴミ当番が回ってくると“うちはできない”と断ったり。ちょっと厄介なご夫婦だから、近所付き合いもほとんどないと思います」

 我の強そうなふたりだが、夫婦関係は良好のようで──。

「今でもお互いに下の名前で呼び合うほど仲睦まじい夫婦。父親は毎日、リュックを背負って食料品の買い出しに行くほど家事にも協力的なようです」(別の近所の住民)

 そんな夫婦の一粒種として、可愛がられて育った容疑者。

「ひとりっ子のわが子には優しくてね。特にお父さんは教育熱心だったみたいです。こういう育て方をしたい、この学校に行かせたいなど、確たる教育方針があると聞いたことがあります」(近所の主婦)

 両親の溺愛が災いしたのか、彼は甘えん坊な性格に。小学校の同級生は証言する。

「性格はおとなしい子なんだけど、目がギョロッとしていて、どこを見ているのかわからないような感じがしました。感情の起伏が激しくて、明るいときは彼からどんどん話しかけてくるけど、気分が落ち込むとすごく暗いオーラを出すんです。そのギャップが面倒くさい感じでした。悪いヤツではないけど、友達はほとんどいなかった」

 中学校の同級生も、

「頭はよくも悪くもない、ごくごく普通。活発なイメージはなくて、部活も入っていなかったと思います。印象の薄い生徒で、彼との思い出はまったくないですね。ただ、周囲との協調性に欠けていて、典型的な“空気が読めない”タイプだったことは記憶しています

実家の2階が高永容疑者の部屋。照明が朝方までともっているという

 高校は地元で新設されたばかりの県立高校に進学。高校卒業後は京都の大学に入学するも、中退している。その後は現在の50歳まで、定職に就いたことがないという。

「一度もちゃんと働いてないと思うよ。8年ほど前に数か月、警備員のアルバイトをした程度で、あとはずっと家にいた。ちょっと変わりもんだから、職場でなじめなかったのかもね。だから、両親も息子の就職は諦めて、自分らの年金で暮らすニート生活を容認しているんじゃないのかな」(別の近所の住民)

 自宅の2階が容疑者の部屋のようだが、一晩じゅう明かりがついているという。

「ヘッドホンで音楽を聴いてるんだろうね。最近も“ボク、DJをやっているんですよ”と得意そうに話されたことがあります。仕事もしてないから、昼夜逆転の生活をしていたのでは」(同・住民)

 サーフィンにハマっているという話もあったが、

「“三重の海まで友達の車に乗せてもらっていって楽しんでる”と言ってましたね。砂浜でDJもやってるとか言ってたけど、そんな派手なことをするタイプには思えない」(同・住民)

損害賠償は1500万円になる可能性も

 彼のフェイスブックに登録されている友達の数は121人。友達が多いように思えるが、ほとんどがキャバクラ嬢やモデルなどで友人関係ではないようだ。やりとりがありそうな人に連絡してみたが“勝手に友達申請されて承認しただけ。まったく知らない人”とのことだった。

 人と会う予定がなかったためだろうか──、新型コロナが流行した昨年からずっと“ノーマスク”生活を送っていたという容疑者。新幹線の車内で着用していなかったとしても、不思議ではない。

高永容疑者のフェイスブックには、友達が多そうな趣味が並んでいるが……

 容疑者と暮らしていた両親に事件の詳細を聞こうと、自宅を訪ねてみた。父親がインターホン越しに、

「体調がよくないので、お話しすることはできません」

 と、口を固く閉ざした。だが、父親も黙っていられないお金の問題も出てきそうだ。新幹線の遅延による損害賠償金が発生するのだ。『弁護士法人 天音総合法律事務所』の正木絢生代表弁護士が解説する。

「鉄道事業者は遅延の要因となった当事者に対して損害賠償の請求を行えます。今回もその可能性はあります」

 電車を1時間遅延させると、2000万~3000万円の損害賠償金が発生するといわれているが、

「今回は振替輸送や乗車料金の返却はされていませんが、それでも1000万円から1500万円程度の額になる可能性はあります」(正木弁護士、以下同)

 対象となるのは、あくまで容疑者本人。

「無職で支払い能力がない場合でも、責任能力が認められれば請求されるでしょう。ただし、これは請求をする鉄道事業者側の方針によっても変わりますが」

 JR東海に問い合わせると、

「個人に関わることになりますので、損害賠償請求をするかどうかの回答は控えさせていただきます」

 とのこと。当然の報いとも思えるが、前出の中学校の同級生からはこんな声も。

「車掌さんとうまくコミュニケーションが取れなかったから、こんな大ごとになってしまったのかも……」

 親しい友人がいない人生が招いた悲劇。その代償は高くついてしまった──。