下手でも苦手でも恥ずかしがらない イラスト/上田惣子

 コロナ禍もあり世相全体が過敏になっている昨今。特に繊細な心の持ち主にとっては、息苦しい日々が続いています。そこで、「気にしすぎだよ」と言われても気にしてしまう人のための、「心を軽く、生きやすくするための力」をつける、心のエクササイズを紹介します。

考えすぎずラクに生きる

 最近は世の中全体が、周囲に対して神経質になっています。長引くコロナ禍では、さらに、人と人との関係に過敏にならざるをえない状況です。

 そんな世相では、人はどうしても「考えすぎて不安」になります。特に繊細な心の持ち主なら「今後どうなるんだろう」と心配の度が過ぎて気を病む人も。

 大学で長く教鞭をとっている齋藤孝さんは、

「近年、繊細すぎていわゆる『メンタルやられやすい』学生が増えています」

 と語っています。繊細で敏感なこと自体は悪いことではありません。問題は、度が過ぎて頭や心が疲弊して、次の一歩が踏み出せなくなること。特にhsp(ハイリー・センシティブ・パーソン)と呼ばれる特別に繊細で疲れやすい人なら、今の世の中では不安に押しつぶされてしまうかもしれません。

「そういう時代に求められるのが、『鈍感力』。『気にしない』、『考えすぎない』で生きる術です。気にしすぎや、考えすぎることをコントロールすると、ぐっと生きるのがラクになります」(齊藤先生、以下同)

 鈍感になる、といっても、具体的にどうすればいいのかわからない人も多いでしょう。また、鈍感という言葉にはネガティブなイメージがあります。

「『鈍感力』とは、いわゆる『鈍い』のではなく、敏感すぎて困る感覚を、あえて鈍感にしていくことです。敏感で繊細なことは悪くないのですが、感じすぎたり考えすぎたりして、実際の行動に踏み出せなくなるのは問題です。

 なるほど。あなたにも、覚えがありませんか。考えすぎたあげく、時間ばかりが無駄に過ぎてタイミングを逃したり、人に気を遣いすぎて、楽しめるはずの会が楽しめなかったり……。

 まずは、下の【敏感度テスト】で、あなたがどのぐらい「気にしすぎ」「考えすぎ」か、チェックしてみましょう。

【あなたは「気にしすぎ」?「考えすぎ」? 敏感度テスト】

□リモコンは整然と並んでいないと気がすまない
□ついエゴサーチをしてしまう
□周囲の人の髪型や服装の変化にすぐ気づく
□他人の気分に左右されやすい
□失敗を引きずりがちだ
□テストで最後の問題に行きつかないことがあった
□映画や音楽、美術に感動しやすいタイプだ
□遅刻は絶対にしたくないし、しない
□自分の性格は、ポジティブよりネガティブかも
□いつも良心的でありたいと思っている
□1度思い込むと修正がなかなかきかない
□空想や妄想するのが好きだ
□騒音にイライラする
□アドバイスされるのはあまり好きではない
□些細なことでも驚きやすい
□いろいろなことを頼まれるとパニックになる
□カラオケは好きではない、どちらかというと苦手
□友人からの相談をよく受ける
□愚痴を言う人の気が知れない、愚痴を聞くのもイヤ
□身の回りで変化があると、気持ちが高ぶる
□雑談が多い人とはあまり話したくない
□サプライズのある人生より、平凡な人生がいい
□人前では緊張してうまく話せない
□幼いころ「シャイ」「恥ずかしがり屋」と言われた

→→→「yes」が半数の12個を超えた人は「気にしすぎ」「考えすぎ」ることが多く、敏感度が高いといえる。

【鈍感力 トレーニング項目】

(1)「いい人」をやめて、「あまり気の回らない人」に
(2)不安や心配ごとは、現実には起こらない
(3)ムリに反応しない、比べない、引きずられない
(4)自分がやらなくても、他力本願でうまくいく
(5)成功か失敗か、損か得かでクヨクヨしない
(6)完璧・理想を捨てて、自分にがっかりしない

頭の整理が心の整理になる

心配してもしかたないこと イラスト/上田惣子

 いろいろなことが気になってしかたがない繊細な人に向かって、「考えすぎだ!」とか「クヨクヨするな」と言ってみたところで、どうにもなりません。本人も頭ではわかっていても、やめられないのが「考えすぎてしまう人」。

 そこで必要なのが、「理性」の力。心=感受性を理性でうまくコントロールする技を身につける練習です。

「『理性』の力を育てれば、混乱した頭の中の整理ができて、本当に考える必要があることとそうでないことの区別が可能になります。すると、自然と気にしてもしかたのないことは考えないようになる。これが『頭の整理が心の整理になる』という考え方です」

 先に心を整理するのではなく、まずは理性で物事の区別をつけることで、スムーズに心の整理へと移行できます。そのために、齋藤さんが上の6つのトレーニングを教えてくれました。やり方の一部を簡単に紹介します。

「いい人」をやめる

 人から悪く思われたくない人は多いものです。

福沢諭吉は、自分には莫逆の友(親友)はいないと話しています。友人とはいい加減に距離を保って付き合い、無理していい人に思われようとしませんでした」

 だからといって偏屈者ではなく、人と程よい距離を保つ達人でした。万人にいい人である必要はないのです。

不安や心配ごとは“魔法の口癖”で

マイナスをプラスに変えてみる イラスト/上田惣子

「心配ごとの無限ループ」から抜け出す方法は?

「まず、思考や解釈を切り替える必要があります。例えば、お笑いコンビ、ぺこぱのツッコミに、『~とは言い切れない』という言葉があります。

 どんなネガティブな考えも、末尾に『〜とは言い切れない』とつけるだけで、プラスに変えることができます

 例えば「太った! ショック」と思っても、「〜とは言い切れない」とつけ足して続けると、気がラクになります。

人に引きずられない

 人の話に耳を傾けることは大切ですが、注意も。

みんな、そう言ってるよ、というみんなはみんなじゃないということ。実はそう言っているのはその人個人だけの場合も。そこを見分け、常識的な意見がどこにあるのかを見極めることが、実は鈍感になるためには必要です」

上手に人任せにする

『ひとりでやっていけると思う人ほど、迷惑をかけやすい』。かなり前の雑誌の投稿ですが、記憶に残っています」

 責任感でガチガチの人は迷惑をかけまいと、ひとりで抱え込み、かえって大きな迷惑をかけてしまいます。上手に助けてもらう習慣で、自分も周囲もラクになります。

結果よりプロセス

 自分が「負け組」だと落ち込む繊細な人には次の言葉を。「渋沢栄一は『お金は仕事の滓(かす)だ』と言いました。お金は仕事で出た滓にすぎず、どんな仕事をするかが大事。勝ち負けや貧富で、重かった心が軽くなりませんか」

完璧を目指さない

「私自身の経験から言うのですが、完璧主義の学生に限って、何かをやれと言うと、自分はできないと尻込みする。やらせてみると、かなりいいものを提出してくるのに、です。最初から満点を目指さず、60点を目指せばいい。そしてそこから、修正を重ねて満点に近づけていけばいいのです」

 鈍感になる練習でラクになれば、きっと前へ進めます。

『鈍感になる練習』齋藤孝著(内外出版社)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
お話を聞いたのは……齋藤孝さん。明治大学文学部教授。東大法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。著書多数。コメンテーターとしてもテレビ出演多数。

《構成/ガンガーラ田津美》