社会的弱者への偏見や差別用語などで、表舞台から消えるタレントたち。なぜ彼らは失言をしてしまうのか? 人を貶める発言は絶対に許されるものではないが、その後に復帰できる者と、消えてしまう人の違いとはーー。

(左から)岡村隆史、あびる優、石田純一、田原俊彦

 3月12日放送の『スッキリ』(日本テレビ系)で、アイヌ民族に対する不適切なネタを披露したお笑い芸人・脳みそ夫(41)のひと言が大きな波紋を広げている。

 同番組内で、アイヌ女性のドキュメンタリー作品を紹介した後、「ここで謎かけをひとつ~」とアイヌ民族に対する差別的ともとれる言葉を発してしまったのだ。この件については、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委審議入りが決まった。

 不適切な発言について、北海道アイヌ協会は猛抗議。本人が謝罪するだけでは収まらず、『スッキリ』MC陣も深謝。さらには、政府が再発防止に向けた対策を検討する方針を伝えるまでに発展し、日本テレビホールディングスの大久保好男会長も謝罪する事態となった。

失言で窮地に追い込まれた芸能人

 “口は禍のもと”とは、まさにこのこと。脳みそ夫の今後を心配する声も上がっているが、振り返ると失言で窮地に追い込まれた芸能人は少なくない。

“お嬢”発言で炎上した岡村隆史

 古くは、スポンサーを激怒させた乱一生「2分間のCMのうちにトイレに行かれる方はトイレへ行ったほうがいいですよ」発言。そして、活動自粛にまで追い込まれた倖田來未(38)の「35歳を過ぎると羊水が腐る」発言も大きな物議を醸した。

 最近では、岡村隆史(50)の「美人さんがお嬢(風俗嬢)やります」発言が記憶に新しいところだろう。なぜ失言をしてしまう芸能人は、後を絶たないのだろうか?

 炎上騒動に明るいネットニュース編集者兼ライターの中川淳一郎氏は、

昔に比べると、ネットやSNSなど芸能人の発信機会が自由、かつ増加している。失言しやすい環境になっているため、今後はもっと増えていくのではないか

 と説明する。

ネット上での失言が消えづらい理由

 過去の失言の多くは、先述した乱一生のように番組内でポロリしてしまうケースや、「不倫は文化」発言で騒動を巻き起こした石田純一(67)のように突撃取材などで失言をしてしまうケースがほとんどだった。

 しかし、ブログやツイッターが定着するようになると、ネット発の失言が目立つようになる。その最たる例が、《自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ! 無理だと泣くならそのまま殺せ!》というタイトルのブログを投稿した長谷川豊(45)だろう。大炎上後、レギュラー番組を降板する事態になり、いまなお発言による傷痕は深い。

長谷川豊 人工透析患者への罵詈雑言

「失言についてのニュースがネットで読まれると炎上し、より多くの人の目に止まり、結果、PV数が稼げます。雨後のたけのこ状態よろしく、次から次へとその失言に関する記事が各社から発信されるため、渦中の芸能人から失言のイメージが消えづらい」(中川氏、以下同)

 その嚆矢となった失言が、倖田來未の「35歳を過ぎると羊水が腐る」発言だと、中川氏は指摘する。

「この失言は、彼女がパーソナリティーを務めるラジオ内でのひと言。ラジオという比較的パーソナルな媒体においても炎上し、ネットニュース化、つまりメディアにとって価値があることが示された出来事だったと思います。以後、芸能人のラジオ内の発言もマスコミがチェックすることが当たり前になったほどです」

 岡村隆史の失言も、ラジオ内での出来事だった。彼からすれば、いつものノリで発したひと言だったのだろうが、そうは問屋が卸さない。見事にネットニュース化され、大騒動に発展した。

 実際、あるスポーツ紙の記者は、「数字が取れそうな人の発言は常にチェックしています。テレビはもちろん、ラジオやSNSでの言葉にも注視している」と明かす。一方で、「ネットの発展がファクトチェックの機会になっている」と中川氏は付け加える。

ネットがなければ致命傷にならなかった

「“僕くらいビッグになると~”という発言だけをマスコミに切り取られた田原俊彦(60)のBIG発言は、マスコミが前後の言葉を要約し、キャッチーな部分だけで作られた“失言”。

田原俊彦

 ところが、彼のイメージは凋落した。もし、あの時代にネットがあれば、“トシちゃんはそんな意味で言っていない”とファクトチェックが働き、致命傷にはいたらなかったと思います」

 同じく、石田純一の「不倫は文化」発言も要約されたニセ失言だ。言説のソースや事実を確認できるという意味では、ネットならではの利点もあるというわけだ。

 一般人による揚げ足取り的な行為から失言にいたるケースもある。例えば、「注文していないのに水代として800円取られた」とレビュー投稿されたことに対し、貧乏人のレビューはあてにするなといったニュアンスの反論が失言と解釈された川越達也(48)は、「被害者ではないか」と中川氏は分析する。

「生意気な反論をしたということで袋叩きのような目に遭った。そもそもレビューがなければこのような事態にはなっていない。メディアは、司法、行政、立法に次ぐ“第四の権力”と呼ばれるが、今や一般人が“第五の権力”になっている」

 ツイッターなどで有名人に絡んでいく一般人もこの部類に入り、芸能人に向かって突撃する“当たり屋”のような一般人に巻き込まれることで、失言まがいの態度を取ってしまう芸能人もいると説明する。

致命傷になる失言とならない失言の違い

芸能活動を再開しているが、いまだ“開店休業”状態のあびる優

 過去、深夜番組内で「集団万引きを繰り返し、店を閉店に追い込んだ」と告白したあびる優(34)は問題外だが、仮に「赤信号だったけど車が走っていなかったので、横断歩道を渡った」と、このご時世に発しようものなら、“第五の権力”から火をつられてもおかしくないという。

 前出のスポーツ紙記者が、「言葉や表現が制約されるようなものですから、芸能人、特にお笑い芸人はストレスがたまっているようです。“人を傷つけない笑い”などと称される第7世代は、時代に敏感なのでしょう」と語るように、芸能界も過渡期を迎えているといえそうだ。

 そのうえで、失言をしたことで致命傷にいたる芸能人とそうではない芸能人がいる点も見逃せない。前述した長谷川豊、倖田來未、岡村隆史らは深手を負ったが、「どうして生まれてから大人になったときに照明さんになろうと思ったんだろう?」など独特の職業観を語った広瀬すずは、非難こそされたが、イメージの急落にはつながっていない。

 この点について中川氏は、「変えられない現実に対して揶揄したり、バカにしたりする発言は、取り返しのつかない失言になっている傾向がある」と語る。

「倖田來未の発言は35歳以上の女性を傷つけ、長谷川豊も人工透析をしている病人を傷つけた。年齢や性差、障害、持病など変えることができない問題に直面している人や対象に対する失言は、暴言になる」

 東日本大震災が起こった際、自身のツイッターで《くだらね、世の中チャリティ産業かょ!?》などとつぶやいたマリエは、同年ファッションの勉強という名目で、表舞台からしばらく姿を消した。被災地を傷つける配慮なき発言と受け取られても仕方ない。

 一方、川越にレビュー投稿者は傷つけられたかもしれないが、貧乏な人がお金持ちになる余地はある。広瀬すずの件も、転職という余地がある。変えることが可能な問題の場合、延焼範囲が広がりづらく、他者に与える失言のイメージも根深くなりにくい。

「今回の脳みそ夫のアイヌ民族に対する失言も同様ですが、変えられない問題は人権団体などの抗議に発展する。失言をした芸能人への風当たりは強くなり、アレルギー反応を示す人も増えるため、芸能活動に大きな支障をきたしてしまう」

 ただし、“老害”という言葉は、「権力者のイメージがあるので、判官びいきを好む日本人的にはグレーでしょう。ですが、変えられない問題ですから、いずれは失言案件になるのではないか」と苦笑する。

 昨今は、ユーチューブに進出する芸能人も増えている。今後は、ユーチューブ発の失言も増えることが予想されるだけに、芸能人のみなさま、いま一度「舌は禍の根」であることをお忘れなく。

なかがわ・じゅんいちろう……博報堂を退社後『TV Bros.』編集者を経て、2006年からネットニュース編集者に。炎上問題やウェブに関する著書多数。近著に『恥ずかしい人たち』(新潮新書)

(取材・文/我妻アヅ子)