役者としても活躍する芸人たち

 芸人が俳優をするケースは、もはや珍しくない。「もはや珍しくない」と言われるようになってからも、結構な時間が経っている。

春ドラマの出演者にも芸人の名前がズラリ

 今年の春にスタートした地上波テレビのドラマを見ても、多くの芸人の名前をそこに見ることができる。ずんの飯尾和樹(『着飾る恋には理由があって』TBS系)、東京03の角田晃広(『大豆田とわ子と三人の元夫』フジテレビ系)、山口智充(『泣くな研修医』テレビ朝日系)、オリエンタルラジオの藤森慎吾(『恋はDeepに』日本テレビ系)、NON STYLEの石田明(『警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~SEASON5』テレビ東京系、30日スタート)。

 まだ続く。ハライチの岩井勇気(『今ここにある危機とぼくの好感度について』NHK総合)、かもめんたるの岩崎う大(『生きるとか死ぬとか父親とか』テレビ東京系)、今野浩喜(『最高のオバハン 中島ハルコ』フジテレビ系)などなど。ローカルだが、ダンディ坂野もいる(『結婚できないにはワケがある。』朝日放送)。

 また、おいでやす小田(『カラフルブル~ジェンダーレス男子に愛されています。~』フジテレビ系)といったブレイク中の芸人や、ヒコロヒー(『生きるとか死ぬとか父親とか』)、トンツカタンの森本晋太郎(同前)といった若手芸人の名前も確認できる。

 もちろん、芸人の積極的な俳優業は今に始まったことではない。ただ、以前よりもドラマや映画で存在感を放つ芸人の数は増え、その裾野も広がっているようにも感じる。物語の筋を支える重要な役回りを担うことも少なくない。なぜだろうか。ここでは芸人がドラマなどで活躍する3つの理由を考えたい。

 第1に、やはり話題性という面はあるだろう。芸人のドラマ出演はもはや珍しいことではないとはいえ、こうやってクールごとに「芸人の俳優業」に関する記事が何本か出るぐらいには話題になる。

霜降り明星(左が『テセウスの船』に出演したせいや)

 たとえば、2020年のドラマ『テセウスの船』(TBS系)で真犯人役を演じた霜降り明星・せいや原作と異なる意外な展開を意外なキャストが担うことで、その話題性は増幅した。いわゆる“お笑い第7世代”の話題性もそこには乗っていただろう。

 また、出演者の中にお笑い芸人がいることで、バラエティー番組での番宣の盛り上がりが期待できる面もあるのかもしれない。番宣以外でも、通常のテレビ、ラジオの出演、あるいはYouTube配信などで、ドラマの裏側を語る機会もある。

 『半沢直樹』(TBS系)に出演したアンジャッシュの児嶋一哉が “半沢俳優”であることをイジられたり、『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)にレギュラー出演しているナイツの塙宣之が“棒演技”をネタにしたり、番宣を離れても話題は継続的に波及する。

 ドラマに出ることそれ自体の話題性に加え、話題の広がりや継続性といった面でも、芸人には強みがあるのかもしれない。

 第2に、演技力だ。芸人の中には演技がまったくできない人もいるけれど、高い演技力を備えた人が少なくない。我が家の坪倉由幸、ハナコの岡部大といった名前が挙げられるだろうか。

 ネタを始めとした活動の中で、芸人にはしばしば演技力が求められる。言うまでもなく、コントには一定の演技力が必要となる。また、一見演技とは関係なさそうな漫才も、2人のやり取りだけで舞台上に別空間を作り上げる点、同じネタを初見の感じで繰り返し披露する点などで、演技力を要求される芸だ。歌手として芸能活動をスタートし俳優も務める夏木マリは、次のように語る。

「(漫才は)究極だもんね。2人でやるってすごく難しいし、演劇の基本だなって思うんですよね」(『やすとものいたって真剣です』朝日放送、2021年4月15日)

 ネタだけでない。バラエティーでのトークにも、言葉ひとつで自分の世界に引き込む力が求められる。いや、表情や身振り手振りなども必要なトークは、総合的な身体表現とも言えるだろう。他の番組でも話したエピソードトークを初めて披露する感じで話し、聞く側の芸人も初めて聞いた感じで話を転がす、というのも一種の演技力の賜物かもしれない。

 バカリズムは脚本家としても活躍する立場から、芸人と俳優の演技の違いを次のように語る。

「ドラマとかでよく長ゼリフあるじゃないですか。僕、あれはやらないようにしてるんです。(セリフを)割るようにしてるんですね。途中に相槌を入れたり。役者さんって、相槌に関してもちゃんと文字に起こして入れないと、読んでくれない。

 そうなると、長ゼリフの間はずっと他の役の方を待ってるんですよ。芸人だったら、コントの間、自分のタイミングで相槌入れたりするから、そこにリアリティが生まれるんですけど」(『ごぶごぶ』毎日放送、2021年1月19日)

 芸人が身体化した間合いのリアリティ。人によっては、それがドラマなどの映像作品にうまくハマるということなのだろう。

ドラマに必要な「普通の人」

 第3に、“普通”であることを挙げておきたい。ドラマに出演する芸人には、特異な存在感を放つ者も少なくない。板尾創路や飯尾和樹が代表例だろうか。芸人としての普段のキャラクターが、ドラマの中でアクセントとなることも多い。

3時のヒロイン(左から)ゆめっち、福田麻貴、かなで

 他方で、“普通”が武器になっている芸人もいるように思う。たとえば、3時のヒロインの福田麻貴。2020年のドラマ『危険なビーナス』(TBS系)に看護師役として出演していた彼女は、そのドラマ内において実に“普通”の人だった。『半沢直樹』のアンジャッシュ・児嶋もまた、アクの強い俳優陣の中で“普通”の雰囲気を醸し出していた。

 メインの登場人物に美男美女が立ち並ぶことが多い地上波ドラマ。その中に紛れ込む、主要キャストでありながらも“普通”の人は、平板化しかねない画面に凹凸を作り、リアリティを宿らせる。芸人の相対的な親しみやすさが、見る者の共感を呼び起こす面もあるかもしれない。

 今後も、芸人によるドラマなどでの活躍は続くだろう。ピン芸人の中でも屈指の演技力で『THE W』(日本テレビ系)王者に輝いた吉住、コント師として日常のディテールから可笑しみをすくい上げる演技力に定評のあるかが屋、ヒゲにメガネの風貌がCMでも存在感を放ち、妹の伊藤沙莉と同じく声質にも特徴のあるオズワルドの伊藤俊介、その哀愁を帯びた可笑しみが注目され始めている錦鯉を始めとした“おじさん芸人”たち――。人材は豊富だ。

<文・飲用てれび(@inyou_te)>