1976年より、なんと45年も続く、ギネスにも載った長寿番組。黒柳徹子さんしかできない切り返しぶりに、マニアも多く、その「試合」を毎日楽しみにしているとか……。そんな『徹子の部屋』の近年の名勝負と、トリビアをご紹介。読めばますます面白くなります!

黒柳徹子

 1976年2月2日にスタートした国民的番組『徹子の部屋』(テレビ朝日系)が、今年で45年目に突入! 同一の司会者による最多放送記録としてギネス世界記録に認定されたこの長寿番組。これまでいろんなゲストが登場し、さまざまな名場面を残してきた。

 ゴージャスながら緊張感ただようあの部屋で繰り広げられる黒柳徹子(87)とゲストのやりとりは、“勝負”にもたとえられ、多くのマニアたちが手に汗握って“観戦”しているという。

 そんな『徹子の部屋』の近年の名勝負を振り返り、名将・黒柳徹子の功績をたたえようではないか!!

『徹子の部屋』の魅力

「『徹子の部屋』って人間力の勝負の場なんです。徹子と対峙するとゲストの器がはっきりと出てしまう」

 こう語るのは、当日の『徹子の部屋』の内容を毎日Twitterにアップするなど“徹子ウォッチャー”として名高い、ミュージシャンでコラムニストのイライザ・ロイヤルさんだ。

 興味深いのは、過去の番組映像を見ると石原裕次郎や松田優作といった名だたるスターたちが徹子を前にどこか緊張しているのが伝わってくることだ。なぜこれほどの大物たちが、徹子を前にすると萎縮してしまうのだろうか?

「まだ男尊女卑が色濃かった昭和の時代、物おじせずに鋭い質問で切り込んでくる徹子さんは女性として特異な存在でした。彼女のような存在を前に、大スターたちも困ってしまったのかもしれません」(テレビ誌ライター)

 そもそも、『徹子の部屋』は現在のような“旬の人”を招くトーク番組ではなかった。めったにバラエティーに出ない大物が登場し、素顔を垣間見せてくれる貴重な場所だったのだ。だからこそ、最近のゲストの顔ぶれにイライザさんは不満を漏らす。

「徹子さんも今年8月で88歳になります。はっきり言って彼女に残された時間は有限。徹子の時間を無駄遣いしてほしくないからゲストの人選は大事にしてほしいのです」

 イライザさんは『徹子の部屋』が人間品評会の場として機能することを期待している。その意味合いが特に際立つのは高齢の女性がゲストの回だ。

ご老人の茶飲み話のような内容こそ面白いんです。例えば、先日お亡くなりになった橋田壽賀子先生や、瀬戸内寂聴さんがゲストの回にハズレはありませんでした。

肉もお酒も生涯現役の瀬戸内寂聴

 彼女たちは『面白い話をしてやろう』と意気込むわけでもなく、『朝食に毎日肉を食べている』という日常を披露したり、その直後に『GHQに家をとられた』といきなり時代が飛んだ話題を話しだしたり。年齢を重ねた人でないと出せない“攻撃”です。

 あと、岸恵子さんがゲストの回も毎回最高ですね。私が彼女に求めているのは“パリに住んでいることがアイデンティティーのお高くとまったマダム”としての一面です。むしろパリにずっと住んでいるから価値観がズレまくって、とんちんかんなことばかり言い続ける。

 女優としての実力も本当は疑問符がつくけど、本人はあくまで大女優として迷いなく振る舞っている。こんな女性たちならではの言動が『徹子の部屋』では如実に出ます。一方、男の人って徹子さんに合わせがちだから、なんだか普通の人になってしまうんですよね

 監督と女優の夫婦ペアが出演する際にも、名勝負になりがちだ。

「岡田茉莉子さんと吉田喜重監督、岩下志麻さんと篠田正浩監督などが出た際、家庭に収まらない女優さんのことを徹子さんは絶対に責めません。だって、女優って世間のことを知らなくていいし、しみったれた家事なんてしない人たちですから。そもそも、徹子さん本人が家事はお手伝いさんに任せっきりですしね」(イライザさん)

相性抜群の「ジャニーズ」

 さらに、イライザさんが言及するのは徹子とジャニーズタレントのマッチングのよさだ。

ジャニーズのタレントがよく出演しますが、彼らは粗相がないし、決して徹子さんを困らせません。徹子さんってゲストにむちゃ振りするじゃないですか。急に『ちょっと踊ってみてよ』と言われても、彼らはBGMなしに見事にダンスを披露します。場数を踏んでいるから何を振られても完璧なんです

 つまり、ジャニーズが相手だと徹子は気持ちよく仕事ができるということ。そして、ジャニーズ側にとっても『徹子の部屋』出演にはメリットがある。

「ジャニー喜多川さんの教育の賜物か、ジャニーズタレントは礼儀正しいので大物の女性に気に入られやすく、徹子さんもご多聞にもれず喜んで話を聞き出そうとする。徹子さんの覚えもめでたくなるわけですから、ジャニーズタレントにとって『徹子の部屋』は特別な番組なんです」(芸能レポーター)

 イライザさんには特に印象に残る回があるという。

「V6の長野博さんが出演したときが素敵だったんです。徹子が『人生の最後に食べたいものは何?』って質問すると彼は『おにぎりです』と答え、徹子が満足げに『ご飯て、おいしいわよねえ』と言うと、エンディングテーマが流れ出した。おにぎりほど誰も傷つけない回答ってないじゃないですか? 本当に返しがうまいなと思いました」

徹子もうなった切り返しであった、V6・長野博

 ジャニーズのタレントのそつのなさに目を見張る。このあたりはジャニーさんからの薫陶の賜物だろう。

お笑い芸人ならではの空回りも

『アメトーーク!』が特集を組んで以来、お笑い芸人の出演が話題になることが増えた。しかし、『徹子の部屋』をディープに見るマニアはこの風潮を決して歓迎していない。

芸人さんってどうでもいいエピソードをナチュラルに話すのではなく、『面白いことを言わなきゃ』と力んで空回りすることが多いじゃないですか。それって、この番組の雰囲気に合っていないんです」(イライザさん)

 思い出されるのは、2020年に放送されたフワちゃんのゲスト回だ。パワープレーを繰り返すフワちゃんと、それをいなす徹子のトークにSNSは沸いたが、あのやりとりにイライザさんは苦言を呈す。

フワちゃん、勝負にならなかった回に……

フワちゃんファンはTwitterで『徹子さんが食いついてる!』ってポジティブに捉えてたけど、そんなことはなかったですね。徹子さんを無理に力でねじ伏せようとしてるし、明らかに徹子さんは“勝負にならない”とばかりにドン引きしていました。事実、フワちゃんが『徹子ちゃん、また来ていい?』って聞いたら、徹子さんは真顔で『2度と来ないでください』って言っていましたから

 最近の芸人の出方にマンネリを感じるという声もある。

「ネタをやっても徹子が笑わずにつらい空気が流れたり、スベったところを笑いにする流れが芸人回ではお決まりになっています。でも、『徹子の部屋』のマニアは、その方向性を決して望んでいません。いいところを見せられない芸人にとってもマイナスだし、この方向性に食傷ぎみの視聴者が増えているんです。もしかしたら、お互いに得をしないコラボかもしれないですね」(テレビウォッチャー)

 では、今後望まれるゲストはどういう人になるだろう?

「思想的に偏りのある人や論客と呼ばれる人を呼んでみたら面白いかもしれません。徹子さんがすごいのは、世の中をよくしようと行動し続け、なおかつあの年齢でいながら思想的な偏りがほとんどないところです。あれは天才ですね。

 あと、徹子さんて、思い切った発言を引き出せる聞き手でもあるんですね」(イライザさん)

「『徹子の部屋』が終わったら政治記者になりたい」なんて発言を残している徹子だけに、論客との相性のよさは必然だろう。

あと、年末恒例だったタモリさんのゲスト出演も復活してほしいです。『徹子の部屋』のトークって、端的に言えばイニシアチブの取り合いなのですが、タモリさんはスタイル的に引き出すタイプの人。だから、間合いの取り方とか攻め方とか、師範同士の居合の勝負を見ているようですよ」(イライザさん)

タモリ

 別枠のコラムでは、『徹子の部屋』における近年の“名勝負”もご紹介しているので、それらを通じ、番組の底深い魅力をぜひとも再認識していただきたい。この人間力の試合結果、ぜひ後世にも伝えたいもの!

思い出の名勝負たち

 徹子とゲストのやりとりのことをマニアは「勝負」と呼ぶ。そこで、イライザさんに近年、印象深かった“対決”を挙げてもらった。

草笛光子
〜徹子が飼い主・草笛の目の前で愛犬をバカ呼ばわり〜
(2012年6月22日放送)

草笛光子

「草笛さんが愛犬を連れてきて『毎朝、私に新聞を運んでくれる』と再現しようとしたのですが、犬は新聞をバリバリに噛みちぎり徹子さんがマジギレしたんです。飼い主の前で犬を『バカ!』と怒鳴っている姿は衝撃でした」(イライザさん、以下同)

片岡愛之助
〜紀香から贈られた“LOVE柄”の着物を自慢〜
(2017年4月24日放送)

片岡愛之助

「妻の藤原紀香さんからプレゼントされた着物を着てきたんですが、『LOVE』の文字が柄として全身に入ってるんです。『LOVE LOVE LOVE』と入っている着物を、贈る側も『ありがとう』と受け取る側もすごいですよね。さすがの徹子さんも引き気味でした」

千昌夫
〜肩にインコを乗せながら名曲を熱唱!〜
(2012年11月1日・2018年4月2日ほか放送)

千昌夫

「定期的に出演する千さんは、ペットの鳥をよく連れてきます。徹子さんが烏骨鶏をひざに乗せるだけの不毛な時間が流れたり、千さんが肩にインコを乗せて『北国の春』を歌ったり。徹子さんが烏骨鶏に寄せた衣装を着てきたことも」

いしだあゆみ&和田アキ子
〜先輩2人に囲まれたアッコがいじらしい!〜
(2020年4月3日放送)

いしだあゆみと和田アキ子

「アッコさんが出演すると徹子さんに気を使って借りてきた猫になるのが常ですが、いしだあゆみさんと出た回はすごかった。あゆみさんはとんちんかんな発言ばかりだし、徹子さんもズレたことばかり言う。会話をまとめようとする健気なアッコさんが見られるというレアな場面でした」

平野レミ
〜亡き夫の思い出を泣き崩れずに語ったレミをいたわる徹子〜
(2020年8月12日放送)

平野レミ

「夫の和田誠さんが亡くなってから初めてのゲスト出演でした。いまだ和田さんへの思いが断ちきれないと語るレミさんに、徹子さんは『愛し、愛されたことを胸に抱いていけば大丈夫』と。こういう感動できる回もあるんです」

■故・弘田三枝子さん
 超熟女の2人が呼吸するだけの無音世界
(2016年3月25日放送)

故・弘田三枝子さん

「ヨガにハマっているというミコちゃん(弘田さん)が呼吸法を披露したのですが、『フゥー』と息を吸ってから1分近く沈黙のままなんですよ。徹子さんもそれをまねするだけ。2人の超熟女が呼吸しているだけの1分弱は、テレビ的に異常事態でした」

■故・浅香光代さん
 江戸っ子ならではの数の数え方に噴き出す徹子
(2018年8月1日放送)

故・浅香光代さん

「毎日ストレッチをしているという浅香さんが徹子さんに実践講習を行ったんですが、江戸っ子だから数の数え方が『しち、はち、きゅう、とお』なんです。何度目かの『とお』の瞬間に、さすがにこらえきれなくなった徹子さんが噴き出してしまいました」

■天童よしみ
 普段のメイクをフェイスシールドに描いて登場
(2020年9月9日放送)

天童よしみ

「コロナ対策でフェイスシールドを使用しているという話から、天童さんが装着したのは、つけまつげなどの化粧が最初から施された、すっぴんでもOKの自作シールドでした。徹子さんたら『あら、私も作ろうかな』ですって」

冨士眞奈美さんが語る『徹子の部屋』の魅力

「なんといっても照明が素晴らしいの!(笑)」

冨士真奈美

 黒柳徹子とはもう60年以上の付き合いだという、女優の冨士眞奈美さん。常連出演者として、番組の魅力をこう語る。

あの番組がスタートしてから、20回近く呼ばれているんじゃないかしら。正確な回数を覚えてないわ(笑)。

 担当しているプロデューサーさんがとてもいい方で、楽しくて気が合うんです。徹子さんとは長い付き合いだから、全然、緊張なんかしない。近況報告と昔話をしていると、いつもウキウキして『あら、もう終わり?』って感じ。

『徹子の部屋』のいいところは……、なんといっても照明が素晴らしいのよ。ものすごく美人にしてくれるの。シワなんか全部飛ばしてくれる(笑)。あと、飾られているお花が、ゲストに合わせて生けてくださるそうで、とても素敵よね。褒めると帰り際にくださるの。

 徹子さんはほんとにまじめで努力家。いつも机に、びっしり書き込んだメモを置いているんです。ゲストの方のことをよく下調べなさるんですってね。機転が利くし、物覚えがよくていつも感心しています。

 100歳くらいまで続けていただきたいわ。徹子さんだったらできるでしょう」

ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。

『徹子の部屋』トリビア

 ギネスに載るほどの長寿番組だけに今までいろんなことがあった『徹子の部屋』は、トリビアも盛りだくさん!

●昔の『徹子の部屋』はタバコOKだった

 過去の番組映像を見ると、石原裕次郎や西田敏行、松田優作など喫煙しながらトークしているゲストが少なくない。徹子を前に緊張する自分をカムフラージュする目的でタバコをくゆらせていた可能性もある。

●ビスケットに生クリームの“徹子ケーキ”は不動の人気

 いまやInstagramでもおなじみの通称“黒柳徹子ケーキ”。牛乳に浸したマリービスケットに生クリームを挟んで冷やすだけ。『徹子の部屋』でもゲストに振る舞ったことがある。家事はすべてお手伝いさん任せの徹子が唯一作ることができるスイーツだ。

●ジャニーズは髪色をトーンダウンしてゲスト出演する

 ジャニーズの所属タレントは髪の毛の色をトーンダウンさせてから『徹子の部屋』に出演する。そして、毛先は決して遊ばせない。普段はやんちゃキャラのアイドルも徹子の前では好青年キャラになるのだ。

●マッチョは質問攻め&やたらボイパをやりたがる

 若いゲストがボイスパーカッションを披露すると、必ず徹子は「私もやる」と参加したがる。マッチョ男性の肉体改造に質問を浴びせまくるのも恒例だが、今はボイパにも興味津々。ただ、口で「ズンチャ」と言ったりリズムはズレまくりだ。

●徹子が使うティッシュケースは五月みどり作

 徹子のソファの横にあるティッシュケースを作ったのは五月みどりで、ゲストに来るたび新しいケースを作ってきてくれた。五月は熱海でセレクトショップを営んでおり、彼女がデザインした美しいティッシュケースが人気。

●故・ジャイアント馬場さん直伝スクワットの話をしがち

 ゲスト出演した故・馬場さん直伝のヒンズースクワットを日課にしている徹子。「スクワットが長生きの秘訣」と教わって以来、やたらと徹子は“馬場直伝”をアピールするようになるが、当の馬場さんは出演回放映の翌月に他界した。

●攻略法「動物を連れてくる」が広まりつつある

 最近は“徹子対策法”がバレ始めており、ペットを連れてくるゲストが増えた。そうすると徹子のターゲットが動物にずれ、本人が会話でロックオンされずにすむのだ。ペット同伴のゲストは逃げの姿勢でいることが多い。

●学者が好き、外見はなんと〇〇好き!?

 徹子はうんちくのある人やエキスパートに話を聞くのが好きで、特に山中伸弥教授のゲスト回は前のめりだった。ただ、この食いつきにはもうひとつ理由がある。過去に徹子は「髪の薄い男性がタイプ。山中伸弥先生なんて素敵ですね」と明かしているのだ。さすが徹子。好みもなかなか一筋縄ではいかない……。

イライザ・ロイヤル●コラムニスト、パンクバンド「イライザ・ロイヤル&ザ・総括リンチ」ボーカル&代表。感想を毎日Twitterに上げるなど、『徹子の部屋』ウォッチャーとしても知られている。

(取材・文/寺西ジャジューカ)