『北の国から』(フジテレビ系)

 父と子たちが試行錯誤しながら人生を乗り越えるドラマは、これまで数々の作品がお茶の間の涙を誘ってきました。どうして感動するのか、おもしろいのか、つい見てしまうのか。話題となった作品を振り返りつつ、識者に見解をうかがいました!

 存在感のある俳優として知られ、映画やドラマで活躍した田中邦衛さんが、さる3月24日に88歳で亡くなった。

「シンパパ」ドラマの最高傑作

 田中さんといえば、『北の国から』(フジテレビ系)で演じた、父子家庭の父親「黒板五郎」役が鮮烈だ。

『秀吉』『利家とまつ』といった大河ドラマをはじめ、数々の映画やドラマを手がけてきた脚本家の竹山洋さんは、「『北の国から』は日本のドラマの最高傑作のひとつといっても過言ではない」と語る。

「それまでは、日本の最高傑作ドラマは『岸辺のアルバム』(山田太一脚本)といわれてきました。『北の国から』は、倉本聰さんの書いたストーリーもさることながら、スタート時はテレビ局の制作費が潤沢なころであり、北海道富良野での長期ロケができた。

 また、細部にまでこだわって世界観を作り上げた演出の杉田成道さんや、楽曲を手がけたさだまさしさんの手柄も大きいでしょう。

 そして、田中さんや、子役だった吉岡秀隆さん、中嶋朋子さんたちの演技力があった。長年、役柄とともに年をとり、自分の人生をさらけ出してくれたわけで、あのドラマの制作過程も“ドラマ”なのだと思います

 ドラマウオッチャーとしても知られる、テレビコメンテーターでデザイン書家の山崎秀鴎さんはこう話す。

頼りがいがあって男らしい父親だけが、子どもに対していい影響を与えるわけではない。情けない姿を見せながらも悪戦苦闘する父親の姿というのも、子どもに対していい教えになったりすると思うんです。

『北の国から』の五郎さんも、そんな父親でしたよね。あのドラマが多くの人に支持されたのは、ともすると『大自然と、父親の愛に包まれて……』という、家父長制的で陳腐な内容に収めずに、世代の違う登場人物たちそれぞれの葛藤を、常にさらけ出していたから。見る人たちが誰かしらに心を寄せられたからではないでしょうか」

『北の国から』に限らず、男性が男手ひとつで子どもたちを育てるという内容のドラマは、根強い人気があるもの。

 今回は、話題となった作品を踏まえつつ、そんな「シングルファーザーもの」のドラマが視聴者を引きつける理由について、前出のおふたりに見解をいただいた。

父が子育てに悪戦苦闘……

 父と子の絆がテーマで思い出される懐かしいドラマといえば『子連れ狼』(日本テレビ系)だろう。剣客・拝一刀が、息子の大五郎を乳母車に乗せ、渡世を続けるというもの。この作品の成り立ちと人気ぶりについて、竹山さんはこう分析する。

「『子連れ狼』が最初に放送された'70年代初頭は、『木枯し紋次郎』や『必殺仕掛人』といった、荒唐無稽な時代劇に人気が集まっていたころ。その流れとして出てきたといえます。

 乳母車に武器が隠されているというのも、昔の映画ではよくあった手法であり目新しいものではないのですが、復讐の鬼と化した男が幼いわが子と旅をするという設定を考えた作者の小池一夫さんはすごいなと、今でも思いますね」

 いっぽう、現代もののドラマについて、竹山さんはこんな見解も述べる。

「'90年代くらいまで、ゴールデン帯のドラマの主な視聴者は、女性のほうが多かったんです。

 それまではただ威張っていたり自由気ままに暮らしていた男性が、困っている、悪戦苦闘している……というシチュエーションは、視聴者にとっておもしろいエピソードとなりえた。

 また、子どもとのふれあいは感動にもつながりやすい。だから支持されやすかったのではないでしょうか」

田村正和

 そこで思い出されるのが、『池中玄太80キロ』(日本テレビ系)や、『パパはニュースキャスター』(TBS系)などだろう。両作品とも、『北の国から』同様、本放送後に何度もスペシャル版が放映された人気作だ。

「どちらも当初はコメディー要素と感動要素の配分が絶妙だったと思います。主演の西田敏行さんと、田村正和さんの役者としての技量もあるでしょう」(竹山さん)

『いきなり父親になる』系のドラマについて、山崎さんもこう語る。

「そういうシチュエーションは、みんな大好きですよね。あたふたぶりが確かにおもしろい。

 また、まったく家庭を顧みなかった男性が、いきなり自分の子どもと真正面から向き合うことになる……というドラマも多いものです。

 私は『パパと呼ばないで』(日本テレビ系)とか、『マルモのおきて』(フジテレビ系)といった、本当の父子ではないけれど、男性がいきなり子どもを育てなくてはならないという話も大好きですね。

『マルモのおきて』(フジテレビ系)

 男性が価値観を変えていく、成長していく、という内容は、人間はいくつになっても成長できるんだ、という希望も持てますから」(山崎さん)

大人が成長する過程を描く

草なぎ剛

 山崎さんは、そういった、父親が成長する物語で忘れられない作品が2つあるという。『僕と彼女と彼女の生きる道』(フジテレビ系)と、『弟の夫』(NHK)だ。

「『僕と〜』は、草なぎ剛さん演じる主人公が家庭を顧みない銀行員だったのですが、妻が出て行ったため、娘の面倒をひとりで見るようになる。

 当初はまったく自分本位で冷徹な男だったのですが、娘の家庭教師の助言を聞き入れるようになり、本当に大切なものは何かに気づくんです」

『弟の夫』は、両親が残したマンションの管理を生業としながら小学生の娘をひとりで育てている男性(演:佐藤隆太)のもとに、カナダで亡くなった双子の弟の同性婚相手が訪ねてやってくるところから始まる。

佐藤寛太

「その“弟の夫”との交流と、まだ大人のような固定概念を持たない自身の娘の言動を通じて、主人公はさまざまな偏見を持っていた自分に気づきます。

 気づいて初めて、長年わだかまりとなっていた亡くなった弟への複雑な思いも変わります。

 2つとも、とても素晴らしい作品でしたね」(山崎さん)

 子どもの成長だけでなく、大人の成長も見ることができるのも、シングルファーザーものの大きな魅力のひとつなのだろう。

娘がまるで恋人のように!?

 ほかにも、シングルファーザーものでよくあるパターンといえば、「娘が父親の妻のように支える」というものがある。

 実際に、父を支える娘というのが主軸にある作品『タクシードライバーの推理日誌』(テレビ朝日系)も手がけた竹山さんによると、

「テレ朝系のドラマは、シチュエーションが決まっていて、さまざまな脚本家たちがそれをベースにして物語を書く、というパターンが多い。そういう場合、特徴的なシチュエーションは主人公を際立たせるためには有効な方法」だという。

『タクシードライバー〜』しかり、『はぐれ刑事純情派』しかり、主人公の周りの女性たちは、理解者だらけだったもの。

「女性にも人気のシリーズでしたが、男性にも人気があったのは、そのあたりが要因ではないでしょうか。ドラマって、ファンタジーであればあるほど根強いファンもつきますから」(山崎さん)

 ファンタジーといえば、こんな作品も。

「中山美穂と後藤久美子という、当時の大人気アイドルを起用した『ママはアイドル!』(TBS系)もシングルファーザーものでしたが、父親を恋人のように見ていた娘が、いきなりやってきた後妻にライバル心を抱くという、コメディーでした。

 同じくTBS系で、田村正和さんが父親で小泉今日子さんが娘役という『パパとなっちゃん』という作品は、美男美女の恋人同士にも見えなくないふたりの、父と娘にしてはありえないほどの仲のよさが展開される話でした。

 どちらも、登場人物がみんな美男美女だったから成立し、受け入れられたのであって、現実だったら、周囲の人間は対応に困ってしまいますよねえ(笑)」(竹山さん)

 確かに、現実だったらちょっとありえないかもしれない……。

父親は期待されていない!?

 ドラマは現代社会の映し鏡ともいわれるが、シングルファーザーものも、「昔ではありえなかったシチュエーションが多くなった」と竹山さんは感想を述べる。

上野樹里

「『監察医 朝顔』(フジテレビ系)には、“これが現代のドラマか”と、ハッとしましたね。

 上野樹里さん演じる法医学の監察医の娘が中心で、時任三郎さん演じる刑事である父親は、完全に娘のサポート役に徹しています。

 これは数十年前だったら、ありえない話、コメディーとしてだったらあったでしょう。でも『朝顔』は、どちらかというとシリアス寄りのドラマ。時代は変わったな、と思います」

 山崎さんは、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)にこう見解を示す。

「父親が何もできず、難しい年ごろの子どもばかりの父子家庭に、完璧な家政婦がやってくる。

 つまり、登場人物たちも視聴者も、最初から父親に期待をしていないし、むしろそのままでいいとさえ思っている(笑)。父親はこの程度でいいんだ、という設定は斬新でした」

 また、幼い娘とふたり暮らしの父親が若年性アルツハイマーを発症するという『ビューティフルレイン』(フジテレビ系)についても同じことがいえる、とも。

成長することはない父親を、ただ見守るしかできない幼い娘……って、“父親の威厳はこうあるべきもの”と考えていた時代には思いつかない話だったでしょうね。

 とはいえ、芦田愛菜ちゃんみたいに、演技が上手な子役が出てくるだけで号泣は鉄板なのは、今も昔も変わらないんですけど(笑)」

 かといって、「父子の絆」ものに人気がなくなったわけではない。長瀬智也の事実上の引退作となった『俺の家の話』(TBS系)も、母がいなくなってからが長い、父と子どもたちの話だった。

「ひとえに、脚本自体がおもしろかったから、支持されたのでしょう。また、大人になってからの親子ならではの感情のぶつかりあいというのは、普遍的なものがありますからね。そういった、普遍的な感情を持つことも、親子の絆なのかもしれません」(竹山さん)

 いつの時代でも、親子の複雑な感情は、ドラマになりうるということなのだろう。

おもなシングルファーザードラマ

 ●疑似父子家庭もの

『パパと呼ばないで』(日本テレビ系列 1972年~1973年)
 出演:石立鉄男、杉田かおるほか

『マルモのおきて』(フジテレビ系列 2011年 スペシャル版は2011年、2014年)
 出演:阿部サダヲ、芦田愛菜、鈴木福ほか 

 ●ファンタジーもの

『ママはアイドル』(TBS系/1987年)
 出演:中山美穂、後藤久美子、三田村邦彦ほか

『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系/1988年~2009年)
 出演:藤田まこと、小川範子、松岡由美ほか

『パパとなっちゃん』(TBS系/1991年)
 出演:田村正和、小泉今日子、浜田雅功ほか

『タクシードライバーの推理日誌』(テレビ朝日系/1992年~2016年)
 出演:渡瀬恒彦、風見しんごほか

 ●父子の絆もの

『子連れ狼』(日本テレビ系/1973年~1976年)
 出演:萬屋錦之介、西川和孝ほか

『俺の家の話』(TBS系/2021年)
 出演:長瀬智也、西田敏行、桐谷健太ほか

 ●父親が成長もの

『僕と彼女と彼女の生きる道』(フジテレビ系/2004年)
 出演:草なぎ剛、小雪、りょうほか

『Oh,My Dad!!』(フジテレビ系/2013年)
 出演:織田裕二、長谷川京子、八嶋智人ほか

『弟の夫』(NHK/2018年)
 出演:佐藤隆太、把瑠都ほか

 ●悪戦苦闘もの

『池中玄太80キロ』(日本テレビ系/連続ドラマ:1980年、1981年、1989年、スペシャル版は1982年・1986年・1992年)
 出演:西田敏行、長門裕之、杉田かおるほか

『北の国から』(フジテレビ系/1981年~1982年 スペシャル版は1983年~2002年)
 出演:田中邦衛、吉岡秀隆、中嶋朋子ほか

『パパはニュースキャスター』(TBS系/1987年)
 出演:田村正和、浅野温子ほか

『とんび』(TBS系/2013年)
 出演:内野聖陽、常盤貴子、佐藤健ほか

 ●世情の映し鏡もの

『家政婦のミタ』(日本テレビ系/2011年)
 出演:松嶋菜々子、長谷川博己、相武紗季ほか

『ビューティフルレイン』(フジテレビ系/2012年)
 出演:豊川悦司、芦田愛菜ほか

『監察医 朝顔』(フジテレビ系/2019年、2021年) 
 出演:上野樹里、時任三郎ほか

お話をうかがったのは……竹山洋さん ●1946年、埼玉県生まれ。テレビ局演出部を経て、脚本家となる。主な作品に、連続テレビ小説『京、ふたり』、大河ドラマ『秀吉』『利家とまつ』、映画『四十七人の刺客』ほか多数。1994年に第2回橋田壽賀子賞、2001年に『菜の花の沖』で第51回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2007年に紫綬褒章、2017年に旭日小綬章受章。

山崎秀鴎さん ●1960年、埼玉県生まれ。教師を経て、書道家に。デザイン書家とも名のり、映画『ラスト サムライ』『あの夏、いちばん静かな海。』をはじめ、さまざまな媒体の題字を手がける。テレビやラジオのコメンテーターも務める。

(取材・文/木原みぎわ)