コロナで失われたエンタメ文化は元に戻るのだろうか(写真はイメージです)

 3度目の緊急事態宣言により、エンタメ界の苦境はなお続く。

 宣言下にある都内では現在、小規模なライブハウスをのぞいてはライブやコンサートは中止や延期となり、配信へ。映画館も一部をのぞき休館、当初は興行の決行を表明していた都内の4寄席も、5月1日からの休業を決めた。

 緊急事態宣言が解かれている時期には、昨年より「ウィズコロナ」「新しい生活様式」の名のもとに、ソーシャルディスタンス確保やマスク着用の義務づけ、手指消毒、検温、換気の徹底などの感染対策をとりながら、段階的にエンタメも楽しめる環境は整いつつあった。しかし、三度目の緊急事態宣言が発令され、いよいよ楽しみ方にも無理が出てきている。

ライブ会場で絶滅状態になっている文化

 まずは音楽関連。飛沫対策のため、基本的に「声出し禁止」が、多くのジャンルでルール化されている(一部ではマスク着用のうえ声出しOKなケースも)。

「『キャー!』と絶叫したり、アーティストの名前を呼んだり、いわゆる“黄色い声援”は全面的にダメですよね。曲に合わせて合いの手を入れたり、演者と観客の掛け合いによって一体となって盛り上がる、“コール&レスポンス”もダメです。一緒に歌ったり、ファンにサビを歌ってもらうような演出もずっと行われていません」

 と、あるエンタメ系評論家は嘆く。

 基本的に黙って鑑賞するクラシックやオペラ、バレエなどには影響はなさそうだが、曲終わりなどに「ブラボー!」などとの掛け声、歌舞伎での「○○屋!」も今は禁止されている。また、大相撲観戦は“拍手のみOK”という状態だ。

 影響は「声出し」系ばかりではない。前出の評論家は言う。

「ロックバンドや一部アイドル系のライブでは、“モッシュ”というファン同士が激しくぶつかりあって盛り上がる行為が定番ですが、身体全体での“接触”行為になるので、全面的に禁止状態です。ファンやメンバーが客席に飛び込む“ダイビング”、ファン同士が肩を組むこと、スタンディングのライブでは、公演中の場所移動も原則ダメですね。一部地下アイドルのライブでお約束だった、“MIX”という独特の掛け声やコール、口上などもほぼ絶滅状態になってしまっています」

盛り上がりを見せていた「応援上映」

 アイドル界隈では、握手やハイタッチができていない状態が続き、今はオンラインサイン会やお話会として、直接、接触しない方法でファンとのコミュニケーションを行っているという。

「地下アイドルたちは、マスクを着用して透明シートで仕切りを設け、ツーショットチェキを再開しているところもあります。でも、やはり握手など、直接触れることはまだしていません」(同前)

 アイドルの“定番の文化”も封じ込められたままだ。さらに、ある芸能記者は、映画鑑賞の世界にも「失われた文化」があると言う。

映画を見ながら、『がんばれー』とか『最高!』とか叫んだりする“応援上映”が、ずっと行われていないままです。映画の新しい盛り上がり方として定着してきただけに、残念ですね。また館内の飲食も一部解禁されているところもあるようですが、まだまだ全面的に解禁にはなっていません。ポップコーンを頬張りながら映画を観るのは、映画鑑賞の醍醐味のひとつですから、早く元どおりになるといいですね」

 周りに迷惑をかけない程度に、公開映画にちなんだコスプレをして楽しむファン同士の交流を深める、貴重な機会も奪われてしまっている。また、小劇場などでは劇場に足を運んでくれた観客との交流の場がなくなり、こちらも文化が失われた状態が続いているという。

「終演後の出演者との面会や送り出しなどはガイドラインで禁止されています。アンケート記入だけでなく、直接感想のやりとりができる貴重な機会でもあるので、演者、観客どちらにとっても早く再開できるといいと思います」(同前)

 ワクチン接種が開始されたとはいえ、まだまだ先の見えないコロナ禍でのエンタメの楽しみ方。たとえコロナが収束しても、これらの“文化の復活”はあるのだろうか。せっかく定着しつつある文化がなくなるのだけは避けたいところだ。

〈取材・文/渋谷恭太郎〉