(左から)武田鉄矢、阿部寛、仲間由紀恵、佐藤隆太

 誰もが何かしら思い出を持つ学生時代。あんな仲間がいたら。あんな先生がいたら……。そんな夢をかなえてくれるのが学園ドラマです。その内容と数々の名言が生まれた背景から、見えてくる時代背景と面白さを考察しました!

 2005年放送『ドラゴン桜』(TBS系)の16年ぶりの続編が4月からスタートしたように、いつの時代も学園ドラマは人気だ。ただ、世の中の流れとともによしとされる教師像は常に変化している。そこで、今回は学園ドラマの名作群に登場する印象深いセリフをピックアップしつつ、人気の教師像の変遷をたどっていきたい。

リアルを描き始めた学園ドラマ

 水谷豊が教師役を演じた『熱中時代』(日本テレビ系・'78年)について、数多くのドラマ評を執筆するライターの大山くまおさんは「'70年代後半に台頭した『しらけ世代』の対義語」だと分析する。

『熱中時代』の水谷豊

「主人公の北野広大は、無気力で事なかれ主義的な当時の風潮に対抗する存在でした。いわば、ベトナム戦争後のアメリカで暗い映画が多かった中、頑張れば夢はかなうということをテーマにした『ロッキー』のような感じです。『傷だらけの天使』(日本テレビ系)でアウトローを演じた水谷が小学生のために奮闘している。当時、熱血ってカッコ悪かったはずなのに、このドラマは逆にそれを肯定したんです」(大山さん、以下同)

『熱中時代』と同時期の学園ドラマに、中村雅俊主演『ゆうひが丘の総理大臣』(日本テレビ系・'78年)がある。

「今作の前に中村がヒットさせた『俺たちの旅』(日本テレビ系)は、大学を卒業しても企業に就職しないモラトリアムな若者のフーテン的生き方を肯定する内容でした。そして、『ゆうひが丘~』で中村は生徒に人生の道筋を示すでもなく、ひたすら『面白おかしく生きよう』というメッセージを説いています。学園ドラマの主流だったスポ根から脱し、'70年代の管理教育の対極ともいえるユートピア的な生徒との交流をこのドラマは描き続けたんです」

 象徴的なのは、中村が演じた大岩雄二郎という男のキャラクターだ。

「女性をすぐにナンパしたりします。かつてのスポ根もので描かれたシリアスな教師像ではなく、少年がそのまま大人になったかのような存在でした」

『熱中時代』と『ゆうひが丘~』、2作を比較すると面白い事実が浮き彫りになる。前者は当時下火になりつつあった熱血路線を上書きするように、扱う問題(登校拒否やいじめなど)はリアルだった。それに対し、後者はファンタジーの世界観を保ったままなのだ。

「学生運動はすでに過去のものとなり、新たに校内暴力や登校拒否などが社会問題化していた時代でした。でも、『ゆうひが丘~』はそれらの問題をすべてスルーしています。とはいえ、このようなファンタジーな世界観は次第に流行らなくなっていった。つまり、最後にヒットした“青春もの”が『ゆうひが丘』でした

バブル期にあえて“熱血モノ”

『ゆうひが丘〜』のような、それまでの朗らかな学園ドラマとは一線を画し、リアルな中学校の教育現場を描いたのが『3年B組金八先生』(TBS系・'79年〜)だ。

『3年B組金八先生』制作発表

「妊娠、校内暴力、いじめ、育児放棄、薬物使用など、作中で取り上げられた問題の種類とディープさは他のドラマの追随を許しません。そんな生徒の悩みを全身で受け止め、最後は大声で正論を繰り出す坂本金八という教師像は世間から圧倒的な支持を得た。

 あと、ある時期からこの作品は“リアルな学園もの”から“社会批評ドラマ”へ形を変えています。金八が問題をどう解決していくかが初期の見どころだったけど、後半は八乙女光演じる生徒のドラッグ問題や上戸彩演じる生徒の性同一性障害など、さまざまな事件ありきになっていった感があります」

『ゆうひが丘~』や『金八先生』が新たな教師像を提示した後にスタートした『スクール☆ウォーズ 〜泣き虫先生の7年戦争〜』(TBS系・'84年)が描いたのは、時代錯誤ともいえるスポ根だった。

「このドラマが制作された'84年は、そろそろバブルが訪れようかというタイミングです。時代背景からすると超絶古臭い内容でしたが、それが意外にもウケてしまった。チャラチャラした当時の世相に関心が持てなかった人たちに、時代錯誤な内容と大映ドラマ独特の大仰な演出、武骨な登場人物がストレートに響いたんです。

 山下真司演じる滝沢賢治は型破りで熱く真っ当なきれい事を言う、古くからの学園ドラマの類型的な教師像でした。そんな時代錯誤な先生が現代的な問題である校内暴力にどう立ち向かうか? というつくりになっていたのが面白いですね」

『スクール☆ウォーズ』から4年後、まさにバブル絶頂期に制作されたのが『教師びんびん物語』(フジテレビ系・'88年)である。

「このドラマの前身『ラジオびんびん物語』(フジテレビ系)はコメディー要素の強いチャラついた内容でした。そんな流れの中、あえて子どもたちと熱血教師の触れ合いを描いたのが今作です。『熱中時代』で水谷が演じた北野と今作で田原俊彦が演じた徳川龍之介は、教師のタイプとしてはそんなに変わらない。つまり、揺れ戻しが起こっているのですが、トシちゃんの語る青臭い正論がこの時代には新鮮に響きました」

 当時あふれていた軽いノリのトレンディードラマとは明らかに一線を画す作品だった。

バブル後は「大人がいない世界」

 反町隆史演じる鬼塚英吉が主人公の『GTO』(フジテレビ系)が放送されたのは'98年。『教師びんびん』のころとは大きく時代背景が変わっていた。

「大人たちの世界だったバブルが崩壊し、その後にコギャルブームが生まれた。大人の権威が失墜した時代に制作された学園ドラマなんです。鬼塚は不良だった男が教師になり『俺はお前たちの気持ちがわかるよ』と生徒に寄り添う、古きよき型破り教師の系譜ともいえるキャラクターです

不良が教師になった異色作『GTO』

 ただ、鬼塚は子どもたちの目線に下り、友人のように生徒に寄り添うだけではない。子どもたちの目線のまま大人たちに本音と正論をぶつける姿は新しかった。

「学校側には『こんなのが教育だっつうんなら、教師なんてこっちから願い下げだ』と、生徒には『俺が学校辞めたって、お前ら一生友達だ』とちゃんと言うことができる。そんな先生だから子どもたちから信用されたし、学校という権威を屁とも思わない教師像が共感を集めたのです」

 共感とは正反対の“逆張り”を貫いたのは、ダメ人間で褒められるところ皆無の教師像が新鮮だった『伝説の教師』(日本テレビ系・'00年)。松本人志演じる・南波次郎は決して正論を言わない先生だった。

「末期がんで余命半年の女子生徒に、南波は『俺がお前を笑わせたる。眉間に皺寄せて死んでいくか、笑いながら死ぬか、お前が決めたらええ』と堂々と言ってしまいます。

 別に何ができるという話ではないのですが、熱血だったり元不良だったり体育会系だったりという教師像に対し『お笑いで強い者が偉いんだ』という考えのもと、価値観の転倒を狙った松本人志の活動のひとつともいえるドラマでした

社会とともに変化していった学園もの

 2000年に放送がスタートした『ごくせん』(日本テレビ系)も、時代背景を抜きにしては語れない。

意外に内容が古臭かった『ごくせん』

「仲間由紀恵演じる主人公“ヤンクミ”の言葉を掘り下げると、『親を大切に』というメッセージをしきりに生徒へ伝えようとしていることがわかります。そして、これがなぜか妙にウケました。その理由として、当時人気絶頂だったDragon AshやガガガSPなど青春パンク勢の歌詞との符合が挙げられます。どちらも親への愛を高らかに歌い上げる曲を数多く発表していた。当時はこんな古臭いことを言われても、素直に『なるほど』と感銘を受ける若者が多かったのかもしれませんね」

女王の教室』(日本テレビ系)が放送されたのは2005年。当時は、まさにホリエモンブームが世を席巻する時代だった。

「天海祐希演じる教師・阿久津真矢は、初回でいきなり『愚か者や怠け者は差別と不公平に苦しみ、賢い者や努力した者はいろいろな特権を得て、豊かな人生を送ることができる』と子どもたちにカマしています。自己責任論を強く押し出す物言いは、完全にホリエモンっぽいですよね」

『女王の教室』と同時期に放送された『ドラゴン桜』(TBS系)が意識していたのは、効率よくテクニックを学ぶライフハックブームだ。

「阿部寛が演じた教師・桜木建二の語録に『受験に知能はさほど必要ありません。必要なのは根気とテクニックです』があります。つまり、要領のよさと『間違った方向で努力してはいけない』というメッセージですね」

ROOKIES』(TBS系・'08年)で佐藤隆太が演じた川藤幸一は、型破りでまっすぐできれい事をちゃんと言う教師像。自己責任論を押し出した『女王の教室』『ドラゴン桜』と比べると明らかに時代に逆行しているが、一方で世相を反映した部分もある。

「川藤は国語教師で、生徒を諭す際に偉人の名言を引用するのが好きでした。これは、当時起こっていた名言ブームとうまくシンクロしています。あと、彼は『夢』『希望』『努力』という言葉を多用します。名言ブームと同時期に起こっていた自己啓発ブームともリンクしていました」

若手イケメン俳優が多数出演していた『ROOKIES』

 時とともによしとされる教師像は変わっていき、それらは時代時代の社会状況と密接な関係にある。その一方で愚直に正論をぶつける教師像がいつの時代も共感を呼ぶという事実もある。結局われわれは、いつの時代も熱い先生を欲しているのだろうか?

「やっぱりみんな、でかい声で正論を言う金八には負けてしまうところがあると思います(笑)。正論をどう言ってくれるのか、そんなところをわれわれは学園ドラマに期待しているのかもしれません」

話題を呼んだ学園ドラマの名言集

 学園ドラマの名作から、教師役の名ゼリフをピックアップ。名言をたどると“ウケる教師像”の変遷が浮き彫りに!?

物事に熱中することです!(1話)
『熱中時代』('78年 日本テレビ系)

 校長(船越英二)から「あなたに特技はありますか?」と聞かれ、水谷豊演じる北野広大は「物事に熱中することです!」と即答した。

人生は一度きりしかない。一度しかないんだったら、面白く生きようってな。だから、お前たちにも毎日楽しく生きてほしいんだ。楽しくないんだったら、楽しくなるように、どうして努力しないんだ?(1話)
『ゆうひが丘の総理大臣』('78年 日本テレビ系)

 中村雅俊演じる大岩雄二郎は生徒に偉そうなことを言わず、それより「楽しく、面白く生きよう」というメッセージを送り続けた。

我々はみかんや機械を作ってるんじゃないんです! 我々は毎日人間をつくっているんです! 人間のふれあいの中で我々は生きてるんです! たとえ世の中がどうであれ、教師が生徒を信じなかったら、教師はいったい何のために存在しているんですか(24話)
『3年B組金八先生』第2シリーズ('80年 TBS系)

 武田鉄矢の声のでかさと滑舌のよさに驚く。説教の内容より、大声量でたたみかけられるパワープレーに持っていかれてしまう。

お前らゼロか? ゼロの人間なのか? 何をやるのもいい加減にして、一生ゼロのまま終わるのか? それでいいのか? お前らそれでも男か? 悔しくないのか!(8話)
『スクール☆ウォーズ ~泣き虫先生の7年戦争~』('84年 TBS系)

 相模一高に“109対0”という大敗を喫した川浜高校。試合後、山下真司演じる滝沢賢治は部員らを烈火のごとく怒った。熱すぎ!

俺たち教師が子どもたちに教えてやれるとしたら、それはたった一つのことだけだ。愛だよ、他に何がある?(1話)
『教師びんびん物語』('88年 フジテレビ系)

「教育とは愛だ」と愚直に言い続ける田原俊彦演じる徳川龍之介。見ているうちにギャグじゃなくなっていく過程に引き込まれる。

こんなのが教育だっつうんならな、教師なんてこっちから願い下げだ馬鹿野郎(1話)
『GTO』('98年 フジテレビ系)

 反町隆史演じる鬼塚英吉が、武蔵野聖林学苑へ行った際、生徒をクズ呼ばわりする教頭(中尾彬)にキレた直後に吐いたセリフ。

お前、記念祭には絶対に顔出せよ。どんなことがあってもな、俺がお前のこと笑わせたる。そうやって眉間に皺寄せて苦しみながら死んでいきたかったら勝手にせい。笑いながら死ぬか、笑わんと死ぬか、お前が決めたらええ(8話)
『伝説の教師』('00年 日本テレビ系)

 末期がんで余命半年の女子生徒に松本人志演じる南波次郎がかけた言葉。その後、女子生徒は笑い、ほどなく息を引き取った。

お前ら、自分で稼いで高校通っているのか? 親が汗水たらして稼いだ金で通ったんじゃねーのかよ! それを無駄にするっていうのか? お前たちの高校生活を、親御さんたちがどんな思いで毎日支えていたと思ってるんだよ!(10話)
『ごくせん』第2シリーズ('05年 日本テレビ系)

 子どもがお金を投げると「親が稼いだ金を投げるんじゃねぇよ!」(1話)と激高。仲間由紀恵演じるヤンクミの特徴的な道徳観だ。

愚か者や怠け者は差別と不公平に苦しみ、賢い者や努力した者はいろいろな特権を得て、豊かな人生を送ることができる。それが社会というものです(1話)
『女王の教室』('05年 日本テレビ系)

 天海祐希演じる阿久津真矢のセリフは、「社会の本当の仕組み」と「自己責任論」を押し出しており、今でもこのような物言いをする人も。

受験に知能はさほど必要ありません。必要なのは、根気とテクニックです(1話)

負けるってのはな、騙されるって意味だ。お前らこのままだと、一生騙され続けるぞ(1話)
『ドラゴン桜』('05年 TBS系)

「ライフハック」ブームと同時期のドラマ。阿部寛演じる桜木建二のセリフも「社会の本当の仕組み」を主眼にしている。

夢にときめけ! 明日にきらめけ!(2話)
『ROOKIES』('08年 TBS系)

 佐藤隆太演じる川藤幸一が率いる、ヤンキーが更生していく昔ながらのドラマだが、「自己啓発ブーム」ともうまくシンクロしていた。

『ドラゴン桜』第1弾の出演者たち

取材・文/寺西ジャジューカ


●大山くまお●数多くのメディアでドラマ評を執筆し、「名言ハンター」としても活躍中。古今東西の名言を集めた著書『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(ソフトバンク新書)は11刷6万部を超えるロングセラーに。