『マルモのおきて』制作発表('11年)

 2011年に放送され、社会現象を巻き起こしたドラマ『マルモのおきて』。愛くるしい姿で視聴者を沸かせたのは、芦田愛菜と鈴木福。あれから10年ーー。2人は仕事と学業を両立させつつ、立派な高校生へと成長した。そして現在、まさに“令和版・マルモ”とも言えるドラマが放送されているという。テレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

世帯視聴率23.9%超えの大ヒットに

 2011年4月、まだ東日本大震災のショックが日本中を覆う中、『マルモのおきて』(フジテレビ系)がスタートした。当時6歳の芦田愛菜は連ドラ初主演であり、ゴールデン・プライム帯の史上最年少記録を更新する快挙だったが、当初はさほど話題にはのぼらず……それも無理はない。

 まったく同じ時間帯に、人気作の続編『JIN-仁- 完結編』(TBS系)が放送されていたからだ。しかし、『マルモのおきて』は、芦田と鈴木福のけなげな演技、笑って泣けるハートフルな物語、主題歌「マル・マル・モリ・モリ!」のブームで、最終話が世帯視聴率23.9%を記録する大ヒット作となった。

『天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典』で約2分半、祝辞を読み上げた芦田愛菜(11月9日)

 当時からちょうど10年がすぎた現在、芦田は16歳。学業との両立を優先させて女優業のペースこそ落としているが、『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日系)でMCを努めているほか、次々に新たなCMに出演している。

 何より驚かされるのは、ブレイクした10年前から好感度がまったく下がっていないことだ

 一方の鈴木福も現在16歳だが、コンスタントに俳優業とバラエティー出演をこなしているほか、YouTubeチャンネルを開設したり、プロ野球の広島ファンなのに“鈴木”投手と“福”投手のいる中日の始球式に出て盛り上げたりなど精力的に活動中。妹弟たちの良き兄としての顔をたびたび見せていることもあり、こちらも高い好感度をキープしている。

 今振り返っても、2人の才能を伸ばし、好感度を上げるきっかけとなった『マルモのおきて』という作品の影響力は大きなものがあった。もしこの作品がなかったら、2人の人生はもう少し違ったものになっていたのかもしれない。

 実は10年後の現在、『マルモのおきて』を彷彿させるドラマが放送され、ひそかに視聴者の感動を誘っている。さらに、そのドラマには、令和の芦田愛菜や鈴木福になれるレベルの子役が出演していた。

「5歳児の1人暮らし」で泣き笑い

 そのドラマは、毎週土曜23時30分から放送されている『コタローは1人暮らし』(テレビ朝日系)。同作は1人暮らしをはじめた5歳児と、同じアパートの住人たちとのやり取りを描いたハートフル・コメディで、『マルモのおきて』と似ている点が多い。

 物語は、あるアパートで自堕落な日々を送る売れない漫画家・狩野進(横山裕)の隣室に、5歳児のさとうコタロー(川原瑛都)が引っ越して1人暮らしをはじめるところからスタート。

 コタローは住人たちにティッシュ1箱を配って回るなど、5歳児とは思えないしっかり者だが、ときに子どもらしい健気さや寂しさがにじみ出てしまうところが『マルモのおきて』の薫(芦田愛菜)と友樹(鈴木福)に似ている。また、親がいなくて、周囲の大人たちに見守られているところも同じだ。

共演する山本舞香と穏やかな雰囲気でドラマ撮影に臨んでいた横山裕

 そんなコタローを心配で放っておけず、世話を焼こうとする大人たちの優しさもポイントの1つ。

 狩野を筆頭に、キャバクラ嬢の秋友美月(山本舞香)、コワモテふうの男・田丸勇(生瀬勝久)、保育士の花輪景介(西畑大吾)、弁護士の小林綾乃(百田夏菜子)がコタローとの交流で、彼を助けるだけでなく、気づきを得て成長していく様子が描かれている。

 この点も、『マルモのおきて』の高木護(阿部サダヲ)、居酒屋クジラの畑中陽介(世良公則)、畑中彩(比嘉愛未)らと似ていると言っていいだろう。

 コタローを演じる川原瑛都が芦田愛菜や鈴木福、狩野を演じる横山裕が阿部サダヲ、さらに、生瀬勝久と山本舞香が世良公則と比嘉愛未に重なるのだ。そして『コタローは1人暮らし』と『マルモのおきて』、どちらの登場人物も、血のつながりを超えて家族のような温かい関係性を徐々に築き上げていく様子が静かな感動を誘う。

業界内で要注目の子役・川原瑛都

 ここまでの放送では、毎回視聴者の涙を誘うようなシーンがあり、まだ見たことがない人のためにいくつか挙げておこう。

 狩野から「親はいないのか」と聞かれたコタローが「いたが……おらぬ」と正直に答える。すると狩野は自分も子どものときに両親を事故で亡くしたことを打ち明けるなど、不器用ながらも寄り添おうとして2人の距離が少しだけ縮まった。

 コタローは自分が転んでも「わらわは泣くのは嫌ぞ」と泣かない(泣いても助けてくれる人がいないから)のに、大人の美月が泣いていたことに気づいて目を冷やしてあげようとする。狩野が「なぜ気づいたのか」と聞くと、コタローは「わらわは大人が泣いている姿をよく目の当たりにしてきた」と今はいない母親の存在をにおわせた。

 15日に放送された第4話でも、ほかの園児と楽しげに話していた狩野を見たコタローが、「わらわの友だちとワイワイしていたであろう。おぬしはわらわの保護者ではないのか」と初めてすねるシーンがあった。

『コタローは1人暮らし』でさとうコタロー役を演じる川原瑛都(公式インスタグラムより)

  事実上の主役であるコタローに注目が集まるのは当然だが、「ほぼ無表情で感情を消しているが、時折うれしさや寂しさがにじみ出る」「好きなアニメと同じ殿様語で話す」という難役。

 しかし、川原瑛都は「累計100万部超を誇る人気原作漫画のコタローを見事に実写化できている」と評判であり、業界内の評価も上々と聞いた。

 現在7歳であり、『マルモのおきて』当時の芦田愛菜や鈴木福と同年代。これまで朝ドラ『とと姉ちゃん』(NHK)に出演したほか、『カンナさーん!』(TBS系)では主人公・カンナ(渡辺直美)の息子役を演じた。さらにダンスや歌が得意というだけに、「パプリカ」を歌ったFoorinのようなキッズユニット参加の期待もできそうだ。

 一方の自堕落な生活を送る売れない漫画家・狩野を演じる横山裕も、まさにハマリ役。粗野でテキトーな性格だが、「コタローからゴミだらけの部屋を指摘されてゴミ出しをするようになる」などの素直さを感じさせる人物を体現している。

 10年前を振り返ると阿部サダヲは『マルモのおきて』が民放連ドラ初主演作であり、出世作となった。横山も当作が連ドラ初主演であり、この様子なら早い段階で次のチャンスが訪れるのではないか。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)

ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。