「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
熊田曜子(本人のインスタグラムより)

第57回 熊田曜子

 5月21日の『文春オンライン』が《熊田曜子(39)の経営者夫が妻へのDVで逮捕》と報じました。夫婦喧嘩の際、夫が熊田を平手打ちし、身体を蹴るなどの暴行を働いたそうです。夫は暴行容疑で逮捕。現在は双方が弁護士を立てて、話し合いをしているそうです。

『ノンストップ!』(フジテレビ系)などで夫に対する不満を口にしていた熊田。そこで披露されたエピソードを嘘偽りがないと解釈するのなら、夫婦仲はあまりいいとは言えなさそうな印象がありましたが、まさかこんなヤバいことになっていたとは。どんな理由があろうと、暴力は絶対に許されるものではありません。

夫から転職を知らされず、姑からは説教1時間

 ここで、熊田がテレビやネットで明かしていた“愚痴”を時系列で振り返ってみましょう。

【1】2017年10月13日放送『ノンストップ!』で、「嫁姑イマドキ連絡問題 頻繁LINE憂鬱な嫁」企画に参加した熊田は、「日曜日にちょっとお説教というか……ちょっと言われたことがあったので、それの続きがLINEで来ている」と現在進行形で義母との軋轢があることを明かす。

【2】2018年4月26日放送『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)で、会社員だった夫がいつのまにか脱サラして起業していたことを明かし、「どうしたら給料を教えてくれるのかな?」と発言。

【3】2019年4月29日にインスタグラムのストーリーで《明日一緒に夕飯を食べましょうというお姑さんからのお誘い。予定が入っているし義家族と会う約束は別日にあるからお断りしたらめっちゃ怒られた しかも朝から私の実母に私のダメ出し電話1時間 さらに30行くらいの長文ラインで実母も私も怒られている ふぅ〜 しびれる》と投稿。

【4】2020年5月22日放送『ノンストップ!』では、ステイホーム期間中に手をかけた煮込み料理などを作ったのに、「刺身やサラダなど切っただけの料理が好き」と夫に言われ、手をつけてもらえないと発言。共演者から「不満を持つのなら、もう作らなければ?」と言われた熊田は「お姑さんに胃袋をつかめ! と言われた」と説明。

熊田曜子が夫への“愚痴”を綴ったSNS(本人インスタグラムより)

 夫婦でありながら、転職や年収を教えないというのは理解に苦しみます。また、お義母さんがちょくちょく登場しているのも気になります。それでは、熊田がそんな生活を完全拒否しているかというと、そうでもないようです。

 2018年8月5日に『ジャッキーとたべよう! ふくしまのトマト&桃のフェア』のPRイベントに参加した熊田は「(自身の子ども3人は女の子だけれど)男の子も育ててみたい」「私は頑張りたいんですけど、主人がちょっと……。会社からも、もうやめてくれと(言われている)」と話していました。夫がどうしても男の子が欲しいと言うわけでもない。夫や義母の愚痴を漏らしながらも、なぜ男の子を欲しがるのか。そう考えたときに思い浮かぶのが、“家”という概念なのです。

姑と夫から「嫁である」ことを求められていた

 みなさんの周りで「結婚する」ことを「嫁に行く」と言う人はいませんか? ある程度年配の人が使う表現だと思いますが、「結婚する」と「嫁に行く」では意味するところが若干違います。ざっくり言うと「結婚する」というのは二人で新しい世帯を作ることを指し、「嫁に行く」というのは、「男性(夫)の家の一員になる」ことを指します。嫁は家庭という組織の“新参者”ですから、姑に“指導”を受けるのは当たり前ですし、男の子を生めば、「跡取りができた」「役目を果たした」と喜ばれるでしょう。

 熊田が明らかにしたエピソードから推察するに、熊田のお義母さんは「息子が結婚した」のではなく「嫁が来た」と感じるタイプなのではないでしょうか? 「妻(夫)の役割」というのは家族によって違いますが、多くの場合、子どもは親のやりようを見て「妻(夫)とはこうあるものだ」というイメージを完成させます。もしお義母さんが家庭で「嫁として」役割を果たして来ていたのだとしたら、熊田の夫も自然と熊田に「(妻ではなく)嫁である」ことを求めてしまうのではないでしょうか?

熊田曜子が夫への“愚痴”を綴ったSNS(本人インスタグラムより)

 それでは「嫁である」とはどういうことを指すのでしょうか。嫁姑ドラマの金字塔、橋田壽賀子さん脚本の『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)では、お嫁さんが自分の都合で外出するときに「勝手させていただきます」とあいさつすることがあります。冠婚葬祭だろうとお見舞いだろうと、婚家に直接関係ないことはすべて“勝手”です。

 熊田は現在もグラビアの仕事を続けています。現代的な感覚で言えば、「3人も子どもがいるのに仕事をして、すごい。えらい」と受け止められるでしょうが、渡鬼理論で言うのなら、熊田が自分の仕事を頑張るほど「自分勝手な嫁」「好き放題している」とマイナス方向に評価されてしまうのではないでしょうか。これはどちらがいいとか悪いとかではなく、単なる価値観の違いです。

 自分は仕事も育児も頑張っているのに、認めてもらえない。こんなとき、誰しも愚痴のひとつも言いたくなるもの。夫や義母に対する愚痴を言うのは、テレビでは需要のあるキャラでしょうからアリでしょう。けれど、インスタグラムのストーリー(24時間で投稿が消える)で言うのはナシだと思うのです。誰もが見られるテレビで愚痴を言うのなら、「あれは仕事です、そういうキャラが求められているんです」と申し開きができるでしょう。しかし、SNSの場合、フォロワー全員が純粋なファンとは限らず、流出しないとも限りません。その場合、夫や義母は「人づてに自分の悪口を聞かされる」わけで、関係性がこじれないわけがない。

四角四面な真面目さが時にトラブルを生む

 それでは、堂々と事実を書けばいいかというと、そういうものでもないでしょう。3人のお子さんを産みながら、きっちり体形を戻してグラビアの仕事をするとは、熊田は相当な克己心の持ち主だと思いますが、長所と短所は紙一重です。この四角四面な真面目さがトラブルを生むこともあるのではないでしょうか。

2人の女児を出産した後もスタイルを維持する熊田曜子(2017年)

 2018年11月4日、熊田がオフィシャルブログに都内某所の児童館について書いたことがもとで、炎上したことがあります。雨の日にお子さん3人を児童館に連れていった熊田。しかし、その場所は「大人1人につき子ども2人なので、申し訳ありません」と入室許可が出なかったそうです。熊田は《完全に私のミスです》とし、別の「雨でも濡れない公園」で楽しく遊べたと結んでいます。

 文面から考えるのなら、熊田は誰も責めていません。しかし、熊田はこの児童館がどこか詳しく書いています。「正しく伝えよう」と真面目さを発揮したのかもしれませんが、芸能人が個人や団体を特定することをネットに書くと、面白半分にクレームを入れる人がいないとは言えません。そうなると相手方にも迷惑がかかりますし、「第三者を使って、熊田が突撃させた」「自分が嫌な思いをしたらネットにさらす。やられたらやり返す」熊田を“黒幕”だと見る人もいるでしょう。本人にそんなつもりがなくても確実に問題は大きくなります。

 どういう家庭を作るかはカップルで話し合えばいいと思いますが、ひとつ言えることは誰しも自分が育った家庭の影響を受けているということ。私は婚活中の女性には、結婚を考える相手ができたら、相手の家に遊びに行くことをすすめています。お父さんとお母さんの関係性は未来の姿とも言えますし、熊田が悩んでいた料理問題も、相手がどんなものを食べてきたかを知ることで答えを見つけることができるでしょう。家庭は情報の宝庫なのです。

 小児精神科医・友田明美氏の『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版)によると、親のDVを目撃すると、子どもの脳がダメージを受けることが明らかになっているそうです。3人のお子さんを抱えて、いろいろ難しいことはあるでしょうが、幸い仕事がある。勇気をもって決断してほしいところです。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」