1979年、17歳で劇作家・寺山修司氏に見い出されて女優デビュー。その翌年、ドラマ初出演した『ふぞろいの林檎たち』に黒髪ボブカットのミステリアスな美少女役で登場し、その存在を私たちに鮮烈に印象づけた、女優・高橋ひとみさん。女優生活42年目を迎え、常に第一線で活躍する一方、飾らないおおらかな人柄が愛されて、近年はバラエティー番組でも大活躍。

 50歳から激変したという人生に迫るロングインタビュー【後編】では、バラエティーで開花した世界、還暦を前にキラキラ輝く生き方について、恩師・寺山修司さんのこと……など、じっくりと語っていただきました。

*前編『高橋ひとみが語る“50代同士でお互い初婚、ツッコミどころ満載の夫婦生活”』はこちら

高橋ひとみさん(撮影/近藤陽介)

女優人生の一番の転機は、間違いなく50代に入ったときですね。ちょうど50歳になる頃にホリプロに入れていただいて。そのときに、こういうお仕事は嫌だとか、できないとか言うのはやめて、とにかく全部やってみる、NOと言わないことにしようと思ったんです。

 それまで、番宣以外のバラエティーは、しゃべれないし面白いこと言えないからと、お断りしていたんですけど、これからはお話がきたらやってみようと思って。もう新人じゃないし、イメージが崩れるからとか、そういうことを心配する必要もないし。もし崩れても、また女優として頑張れば取り返せる」

 そんな思いでバラエティーの世界に飛び込んだ高橋さんに、想像以上の変化が起きる。

この人たちよりは大丈夫って思えるように

「見てくださる方が増えて、“高橋さんって、面白いのね”って言われたりするようになりました」

「酔っぱらうとやらかす……」というプライベートのチャーミングな武勇伝トークが人気になり、あっという間に、バラエティー番組から引っ張りだこの存在に。

「ただ、『アウト×デラックス』に最初に出させていただいたときは、本物のアウトな、衝撃的な方たちがいっぱいいらして。ちょっとここは私のいるところじゃないって思ったんですね。何かにあてられたというか、少し具合が悪くなって(笑)。

 でもそのうちに、自分よりすごい人がたくさんいるので、私はこの人たちよりは大丈夫って思えるようになって。逆に居心地がよくなってきたんですね(笑)。今ではすごく心安らかにいられる場所になっています」

「40代までの自分とはまったく違う世界が広がった」と語る。

「見てくださる方の私を見る目が違ってきたんですね。親しげに見てくださるようになりました。それまでは、わりとキツイ役とか冷たい役が多かったこともあって、怖い人なんじゃないかって思われていて、笑うと“あら、笑うのね”とか言われることもありましたけど(笑)

 今は、もうまったくそんなふうに思われることはなくなって、地方ロケとかでも親しみを込めて“高橋さ~ん”と声をかけてもらうことが増えましたね。それはうれしいです」

年を取ってきたという感覚がない

8月に還暦を迎えるとは思えない高橋さん(撮影/近藤陽介)

 撮影中、高橋さんの姿勢のよさが印象に残った。若い頃と変わらぬスタイルと美貌を保つ美容法と健康法を伺うと「犬の散歩しかしていない」と明かす。愛犬、ゴールデン・レトリーバーのモモエちゃんとの散歩はけっこう体力を使う作業。

「以前は朝夕に1~2時間歩いていたんですけど、モモエも13歳になってしまったので、今はもうそんなに散歩できないんです。だから、1日1回、車に乗せて近くの公園に行ったりして1時間歩くくらい。でもやっぱり歩くのはいいみたいで、毎年の検査で骨密度が上がっているんですよね。ほんとそれだけです。ジムにも行ったことないですし。通うのがおっくうで(笑)。

 エステも20代の頃は行っていましたけど、今は行ってないですしね。もう、恥ずかしいくらい何もしてないです。お化粧したまま寝ちゃったりすることもあります(笑)。毎朝、白湯を飲むといいって教えてもらって、それなら簡単ですねって言いながら、1回もやっていないですし(笑)

 結婚して2人ともちょっと太ってしまったので、夕食は炭水化物を減らすくらい。主人は毎日体重計に乗っていますけど、私は怖いんです、体重を計るのが(笑)。だから、お腹を触って、“あれ? ちょっと太ったかな?とか、あとはお風呂に入ったときに全身を鏡で見るくらい」

 何もしていないとは、にわかには信じがたいけれど、このおおらかさが若さの秘訣なのかもしれない。8月に還暦を迎える高橋さんだが「50歳から人生のパート2がスタートした感じがしている」という。

「私の母の時代の50代とは違うから、気持ちはまだ40代みたいな(笑)。60代も、これからいっぱい楽しいことが待っているというか、やれることがまだたくさんあるなって思っています。北大路欣也さん、草笛光子さん……すごく素敵に年を重ねている元気な方々がいらっしゃるので、まだまだ未来があるっていう感じがしていて、まだ自分が年を取ってきたっていう感覚がないんですよね(笑)

 6月4日からは2年ぶりに舞台『水谷千恵子 50周年記念公演』に出演する。

「“緊張しい”なので、毎回、“1万円も払って見ていただいているのに、台詞を噛んじゃったらどうしよう~”とか、心配しちゃって。そういうドキドキはすごくあるんですけど。でも舞台はひとつの作品を1か月かけて作り上げていくっていう、映像とはまた違う作り方で、ひとつの役をすごく掘り下げていくのが楽しいんですよね。

 演出家のケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)の舞台とかは、最終日が終わってからもダメ出しがあって(笑)。それで“千秋楽なのに、なんでダメ出しするんですか?”って聞いたら、“もしかしたら再演があるかもしれないから”っておっしゃって。でも毎日、演技を直されるっていうのは、うれしんですよ。かまってもらっているみたいで。演出してもらえる喜びが舞台にはありますね

寺山修司さんが生きていらしたら

「“あなたはテレビのほうに行きなさい”ってことは、言われていたんです」(撮影/近藤陽介)

 高橋さんの座右の銘は「漂えど沈まず」。パリ市の紋章に描かれたラテン語の標語で、「どんなに揺さぶられ、ふらふら漂っているだけの状態でも、船を沈ませさえしなければまだ復活できる」という意味だ。

沈みそうでも沈まないで、ずっと足をバタつかせながら、急上昇にはならないけど、急降下にもならない、消えないっていう。そういう精神(笑)。ずっと前に、その当時ヘアメイクをしてくださっていた方が、その言葉を教えてくださって。“あ! いいな”と思って、漂えど沈まずの精神でやってきました」

 今までの女優人生で悔いはないか尋ねると──。

47歳で亡くなられた寺山修司さんが、もっと長く生きていらしたら、女優としてどうなっていたのかなというのは、すごく思います。アンダーグランドの舞台の世界のほうに行っていたのかなとか。私がまだ何でもないときに、亡くなってしまったので。

 ただ、“あなたはテレビのほうに行きなさい”ってことは、言われていたんですけど。“この素晴らしいドラマ(『ふぞろいの林檎たち』)に出て、その後やっていけないなら、女優は辞めなさい”って。ドラマが大ヒットして、今に至るんですけどね。寺山さんが開いてくださった女優の道なので、常に“生きていたら、どんなふうに思うかな?”とは思います」

寺山さんとの出会いがなかったら、女優にはなっていないかったですし。天井桟敷の舞台のオーディションで合格したのは、たぶん私がセーラー服だったからだと思うんです(笑)。でもそういうのもね、なんか、すごいご縁だったかなって思います。人生すべてご縁ですよね

(取材・文/井ノ口裕子)

●プロフィール
高橋ひとみ(たかはし・ひとみ)/1961年8月23日、東京都出身。1979年に寺山修司演出の舞台『バルトークの青ひげ公の城』でデビュー。1983年に出演したドラマ『ふぞろいの林檎たち』で注目を集める。現在まで、多くのドラマ・映画・舞台で活躍するほか、バラエティや情報番組に出演するなど幅広く活動。現在、『アウト×デラックス』(フジテレビ系・木曜23時~)レギュラー出演中。『スイッチ!』(東海テレビ)コメンテーターとして隔週金曜に出演。

【ホリプロオフィシャルサイト】https://www.horipro.co.jp/takahashihitomi/
【Instagram】@hitomi_momoe https://www.instagram.com/hitomi_momoe/

●出演情報
水谷千恵子 50周年記念公演
【第1部】お芝居ステージ『ドタバタ笑歌劇 神社にラブソングを』
出演:水谷千恵子
高橋ひとみ、生駒里奈、バッファロー吾郎A
ずん/ハリセンボン/どぶろっく/阿佐ヶ谷姉妹 ※日替わり出演(クワトロキャスト)
YOU/はいだしょうこ ※日替わり出演(ダブルキャスト)
野村将希
武田真治
【第2部】歌のステージ『千恵子オンステージ』
出演:水谷千恵子
八公太郎、倉たけし、六条たかや ※日替わり出演
浜ローズ ※日替わり出演
◎東京公演(明治座):2021年6月4日(金)~13日(日)
〈明治座HP〉https://www.meijiza.co.jp/lineup/2021/06/
◎福岡公演(博多座):2021年6月25日(金)~7月4日(日)
〈博多座HP〉https://www.hakataza.co.jp/lineup/202106/mizutani/