左からコブラ、サーバルキャット。現在は個人が新規で飼えないが法改正前から飼育していることもあるので要注意!

 神奈川県横浜市戸塚区のアパートの一室から逃げ出し、一大騒動になった『アミメニシキヘビ』。17日間の大捜索の末、そのアパートの天井裏に潜んでいたところを発見され、無事確保。

 周囲からは歓声とともに安堵の声が聞こえた。

毒ヘビ、カワウソやワニガメも危険

 動物売買に携わる永山秀さん(仮名)はため息をつく。今回のヘビ脱走騒動は氷山の一角にすぎないと言うのだ。

「アミメニシキヘビよりもヤバい生物を逃がしてしまう人もいるんです」

 人に危害を加えるおそれがある動物は『特定動物』に指定されており、騒動のアミメニシキヘビも含まれている。

 では、ほかにどんな危険生物が飼われているのか。

「いちばん危ないのが毒ヘビ。子どもや高齢者が噛まれれば亡くなる可能性もあります。ですが柄や色が美しいので好んで飼う人が少なくないんです」(永山さん、以下同)

 だが、毒ヘビを信じられない飼い方をする人もいる。

「以前、ある爬虫類愛好家の自宅を訪れたときのこと。廊下に毒ヘビの入った袋が無造作に置かれていました。本来ならば頑丈な飼育容器で飼うべきなのにゾッとしましたね」

 万が一、逃げ出せばただ事ではすまない。

「カワウソやワニガメも人気ですが噛まれれば指を食いちぎられて大ケガを負うことも」

 ペットとして飼われている肉食動物が逃げることもある。

 昨年、静岡県でペットのネコ科の肉食動物、サーバルキャットが脱走。アニメで一躍人気になった動物だが、爪は鋭く、手を出されれば非常に危険なのだ。

「過去にはペットのトラが逃げた事件もありました」

 ここまで挙げてきた特定動物ではなくても危害を及ぼす生物はたくさんいる。

野生動物が持っている病原体も危険

 その1つが最も危険な陸上生物と呼ばれているイタチ科の『ラーテル』だ。相手の急所に噛みつき、危機が迫ればライオンにだって反撃する。

 ペットとして飼われていたラーテルが逃亡した、という情報がある。飼い主は探しもせず、ラーテルの所在は不明なままだという。

「噛みつくなど物理的な攻撃だけではなく、野生動物が持っている病原体も危険な場合があります」

 例えばかつてはペットとして人気が高かったプレーリードッグ。ペストや最悪の場合、死に至るおそれもある野兎病などのウイルスを保持していることがわかった。

 しかし騒動のヘビの飼い主のようにアパートの一室で、危険生物は秘密裏に飼われていることもある。

「鳴き声やにおいがなければ隣の家で危険生物を飼っていてもまず気づかない。逃げたとしてもわかりません」

アミメニシキヘビは屋根裏にいた(協力/体感型動物園iZoo)

ずさんな飼い方や多頭飼育をする飼い主も

 なぜ危険生物を飼うのか。その背景には特定動物に限らず、ヘビやトカゲなどの爬虫類や、サルなど希少価値の高い野生動物飼育がブームであることが関係する。

 動物売買関係者によると、昨年はコロナ禍のため海外から動物を持ち込めず、輸入数は落ち込んだ。だが、国内で繁殖していた動物もいたため取引数は過去最高に。値段も高騰している。

「かつてはマニアの世界でしたが今ではSNSなどを通して拡散され、“可愛い”と飼う人が増えた傾向にあります」

 そう話すのは動物愛護団体『PEACE』の東さちこさん。動物を安全に飼うにはケージや水槽などに費用をかけ、環境を整えしっかり対策をしなければいけないが、

「施錠が甘かったり、動物の力で壊せる安価な容器で飼育している人はたくさんいます。十分注意していても逃がしてしまうことはあるのに、ずさんな飼い方をしていれば当然です」(永山さん、以下同)

 動物が逃げる理由は飼育環境の不備だけではない。理由のひとつに多頭飼育がある。

「爬虫類や鳥類では20~30種類、何十匹も飼っている飼い主は少なくない」

 ずさんな飼い方で数を増やしすぎてしまい、管理が行き届かず、生き物がいなくなったことに気づかないという。

「わが子のように育てた生き物の脱走は本当につらい。ただ、中にはいなくなってもまた買えばいい、なんて人もいます。逃がしても通報もしないし、捜しもしない人も。今回の騒動の飼い主は通報もして捜していたのは評価できる」

 特に、摘発を恐れる飼い主は通報も名乗り出もしない。

規制を強めると闇取引や闇飼育が横行

 昨年6月の動物愛護法の改正で愛玩目的での特定動物の飼育が禁止された。個人が新規で飼えなくなったため、無許可なことを知ったうえで売買したり、譲り受けるなどして飼育しているケースがある。

「乱獲され、密輸されて、道中で死んでしまう動物も。希少な動物が絶滅するおそれもあるので水際での摘発が重要です」(東さん)

 法改正前に駆け込みで大量の特定動物が取引されるなど、依然として特定動物は人気で密輸や無許可飼育は横行している。前出の東さんは、

「動物愛護法改正前は特定動物に指定されているライオンやクマ、毒ヘビでも飼育設備の条件をクリアして許可を得れば、誰でも“ペット”として飼育することができました。ですが野生動物の適切な環境をつくることが難しかった。ペットとして野生動物を飼うことは不適切なんです。それに今回の騒動でもわかったように危ない動物たちが周囲にいることで住民は大変な恐怖心を抱きます

 一方の永山さんはこの考えに異論を唱える。

「私は特定動物の愛玩目的での飼育には賛成です。規制を強めたことで逆に闇での取引や飼育が横行しています。規制を緩め、飼育許可を出す際にも十分に調査。違反すればもっと厳しく罰を与え、取り締まるほうがいいと考えます」

 特定動物を無許可で飼育した場合には個人では最大で6か月以下の懲役、100万円以下の罰金が科せられるのだが、これでは甘いという。

ヘビを見つけ報道陣にオッケーマークを作る体感型動物園iZooの白輪剛史園長(5月22日)

 だが、永山さんがもっとも逃亡を恐れているのは、

「しつけがされていない犬です。特に凶暴な犬種は逃げたときのリスクが高い。ずさんな飼い方やしつけで大ケガを負わせたり、死亡事故が起きた事例はいくつもある」

 動物と安全に暮らすためには、周囲に飼っていることを伝えて良好な関係を築くことがカギなのかもしれない。