菌やウイルスはバスタブのエプロンや床、壁にも飛散。お風呂を使用後は、ぬるま湯にボディソープを適量溶いて泡立てて掃除する習慣を  

 各地で猛威をふるっている新型コロナウイルス変異株。ワクチン接種もなかなか進まず、家庭内感染は増加の一途だ。清掃責任者として空港の安心を担うプロに、自衛策を聞いた。

羽田空港での感染報告はゼロ

 コロナ禍の拡大で、世界の航空会社は減便、運休を余儀なくされており、空港利用者も一気に減った。

「以前は、1日20万人が羽田空港を利用していたんです。清掃員400人が24時間フル稼働。清潔で快適な場所をご提供していました」

 そう語るのはこの道34年の達人、新津春子さんだ。世界中の空港をあらゆる側面から格付けしているイギリスのSkytrax社が発表している「空港清潔度ランキング」で羽田空港は過去7回1位に。550以上の空港が対象になっており、2000万人以上の旅行者がアンケートに協力した結果という。

「過去に何度も1位をいただいていますが、去年の1位はとても価値のあるものでした。空港はたくさんの人が行き交う場所。コロナ感染を羽田から出してはいけない、ふだんの清掃業務に加え、徹底した感染対策をスタッフに行ってきましたから。

 世界中のどの空港よりも羽田は清潔で安心できると胸を張っていえますね。空港利用者が減っているので、現場の清掃員たちは、空港内のすみずみにまで気を配る余裕もできています」

 IATA(国際航空運送協会)が昨年行った調査によると、世界の航空利用者の8割がコロナ感染への不安を感じているという。また「乗客全員のPCR検査の実施」「空港が定期的に消毒を行うこと」「航空・空港スタッフがマスクなど防護していること」といった対策が期待されているというデータが出た。

「空港の共用部は使う場所にもよりますが、除菌、消毒をしています。作業前には検温、うがい、除菌してからの手袋着用、マスクは交換しながら随時着用。空港は飲食店も多いのですが、今のところ羽田からの感染、発症数はゼロをキープしています

 新津さんは現在、空港内の環境マイスターとハウスクリーニング事業部の作業者という両方の仕事をしている。コロナは「家庭内感染」が急増、同居する家族の感染リスクも高まっている。

主な感染経路は飛沫と接触。家庭内での感染対策がむずかしい理由は、無症状の時期からウイルスが感染を広げてしまうためといわれています。

 家族に誰も症状がないのに、いつのまにか感染していたということですね。ハウスクリーニングのお客様からのリクエストでも除菌をしっかりお願いします、というのはとても多い。もう清掃だけでは不十分。消毒や除菌をセットにして、初めて日々の安心感が得られるという時代なんだと思います」

 ひとりひとりが自分と家族の命を守るために、日常でできるポイントを教わった。

共有部分を重点除菌

 新津さんはご主人とのふたり暮らし。コロナ感染が広まってからの生活は、がらりと変わったという。

感染リスクの高いドアノブ

「自分で思いつく予防策は全部やろうと思って。それも“羽田空港を感染源にしたくないから”です。私自身がもしも感染したら、スタッフにもお客様にも迷惑どころか、命を奪ってしまう可能性すらある。その危機意識は、職場での作業中もそうだし、家に帰ってからの生活でもそう。

 そこまでしなくても、と思うかもしれないけれど、なにかあってからでは遅いです。わが家は1日3回、各自で検温したり寝室も別にしました。幸運にも夫がとても理解してくれているのがありがたいですね」

 例えば、朝起きてからの行動はこうだ。

 目覚めてからすぐに重曹水でうがいをする。口の中を中和して虫歯にならないように気をつけ、不用意に歯科に行かないように心がける。そして部屋中の窓を開けて換気。雨の日は1日中エアコンをつけっぱなしにして空気を滞留させないようにする。

換気はコロナ対策でもっとも大切だと考えています。そして換気場所をきれいにすることも。風の通り道が不潔ならば、意味がない。部屋の換気フィルターは定期的に掃除したり、空気清浄機や扇風機、エアコンもできる範囲できれいにすることを心がけて」

 朝食をふくめ、食事は対面で座らないようにしたり、時間差で食べるようにしている。

「ポイントは飛沫と接触ですから、洗面所など家庭の中で水気がはねるところ、手すりやインターホンなど家族がよく触れるところを確認して、よく拭くようにします。それを確認することで、逆に除菌をしょっちゅうやらなくていいところも見えてくると思うんです。

 多くの人が、テレワークや在宅で家の中でも忙しくなっています。ムダなことをやらず、ストレスをためないことも大切です」

家庭の中の共用部は感染リスクがいっぱい

ドアノブ

 ドアノブは感染リスクの高い場所。「ドアノブに限らず壁や手すりなど“胸の高さ”にある箇所は手を触れやすいので意識して拭き上げて」

お風呂場の共用物

 例えばシャンプーやボディソープのボトルも、使うたびに洗浄するのが理想的だという。

トイレのレバー

 トイレのレバーは、使用前、使用後に拭き取ると安心。トイレには共用タオルを置かず、使い捨てのペーパーか家族別のハンドタオルを使うのがおすすめだ。

スマホ、パソコン、水回りは菌の温床化

「触れるところ」といえば、レバーやスイッチ、コンセント、リモコン、カーテン、照明のひも。スマホやパソコンも見逃せない。

スマホは特に、トイレ以上に汚いと思ってください。私は帰宅後すぐに、アクセサリーやカバーをはずし、電源をオフにした状態で除菌シートで丁寧に拭きます」

 スマホは機種によって、市販の除菌シートが使えるものと使えないものがあるという。メーカーのホームページでチェックしよう。

「頻繁に手が触れるパソコンのキーボードやマウスは菌やウイルスの温床。防水加工がされていないので水気には注意しながら、清潔に。テレワークをしている家族がいるならば、そのパソコンのキーボードや画面にもつばが飛散しています。ハンドソープを使ってしっかり絞ったクロスで拭き、こまかいところは綿棒で」

 くしゃみやせきなどをしてパソコンへの飛沫が飛ぶこともあるので、パソコン作業のときはマスクをするのがおすすめ。家族で1台のパソコンを共有使用しているときは、特に注意したい。

除菌に使ったクロスやぞうきんは殺菌効果のある洗剤でしっかり洗い、天日干しをして乾燥させる。菌やウイルスが残ったままのものを使い続けては本末転倒だ

「飛沫と接触」の重要ポイントはなんといっても水まわりだ。トイレはペーパーホルダーをよく触るのでまめに除菌。トイレの手洗いにはタオルを置かず、便座やふたも使った人が毎度除菌するように使い捨てシートを常備する。トイレに本を持ち込んだり、トイレ内で携帯で話をしないことも心がけている。

 そして、見逃せないのがお風呂だ。

「浴槽のお湯は1人ずつ替えています。もったいないから、シャワーとお風呂を交互に使うようにして節約しています。お風呂のお湯には菌がウヨウヨ。浴槽を使ったらサッと掃除して次の人へ。洗浄はバス専用の洗剤がそばにないのであれば、ボディソープでOK。特に浴槽の底のすべり止めの溝や、お湯張りの線の部分は菌がたまりやすいです」

 お風呂のボディタオル、スポンジは使ったら日光に当ててしっかり乾燥させるのがおすすめだ。

菌やウィルスを外から持ち込まない!

トイレのレバーは、使用前、使用後に拭き取ると安心

 家の中でしっかり対策をとっても、日々、菌やウイルスは外から持ち込まれている。要はそれをどれだけ少なくするか、だ。

 宅配便は玄関の外で受け取るようにし、通販商品が入っている段ボールなども玄関で処分。靴の裏側も玄関で除菌してから、が理想的だ。最近、新津さんが気になっているのが「エコバッグ」だという。

「商品自体も、いろんな人の手に触れているかもしれない包装などを取ってから冷蔵庫へ。エコバッグは毎回洗いましょう」

 料理も掃除も片づけも、家事のすべてへの「除菌」意識が今、そしてこれからのニューノーマル。生き抜くために、今日できることを、そしてまずは身近なところから、実践していこう。


搭乗前15分で結果が!新型コロナPCR検査センターが羽田空港にオープン

 羽田空港の第1ターミナルと第2ターミナルに常設の「新型コロナPCR検査センター 羽田空港店」が4月10日に開業した。同センターは、これまでの唾液によるPCR検査(1900円)に加え、約15分で検査結果がわかるクイック検査(1800円)を追加。検査結果書類もその場で発行する(5月25日時点)。

 ただしPCR検査に関しては、結果通知に時間がかかるため出発当日の検査は不可。出発当日の検査はクイック検査もしくは、PCR検査+クイック検査のセットのどちらかを選択する。

 場所は第1ターミナルが4階、第2ターミナルは地下1階(営業時間は、第1・第2ターミナルともに9時~18時)。羽田を利用する際には、ぜひチェックしてほしい。

外出先や職場でも! マメな除菌で命を守ろう

 新津さんには、外出時の7つ道具があるという。飛沫と共有による感染を防ぐための、帽子、マスク、眼鏡、使い捨て手袋、そしてミニ石けん、ゴミ袋に、携帯用の除菌スプレーだ。公共交通機関を使っての移動や、会社にいるときも感染に気を配っている。

「特に職場はお互いの思いやりのためにも、共有物を定期的に除菌していきたいですよね。ドアノブ、机、いす、棚、パソコン、ペン。自分の社員証もけっこう触っちゃうから注意してます」

 共用トイレは使用前、使用後、よく触れるところを除菌しているという。

「便座、レバー、荷物かけ。洗面の蛇口や、消毒液のプッシュレバーなども。トイレの洗面台で数人で歯を磨いたり、おしゃべりしていることもあるけど、今の状況では避けたいですよね」

新津春子さん 

教えてくれたのは……新津春子さん ●1970年中国・瀋陽生まれ。1995年、日本空港技術サービス(現:日本空港テクノ)に入社。'97年に(当時)最年少で全国ビルクリーニング技能競技会1位に輝く。以降、指導者としても活躍し、現在は羽田空港の清掃の実技指導者に加え、同社ただ1人の「環境マイスター」として、羽田空港全体の環境整備に貢献。YouTubeチャンネル「新津春子のやさしいお掃除チャンネル」更新中。

〈撮影/中川まりこ〉