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 女性がお金を支払い、男性から性的サービスを受ける『女性向け風俗』、略して『女風』。2018年に公開された松坂桃李主演の映画『娼年』でも題材にされるなど、近年ひそかに注目を浴びている。

女性向け風俗の客層はさまざま

 ノンフィクションライターの菅野久美子さんは語る。

「一概に女性向け風俗といっても、お店によってサービスは、さまざまです。アロマによる揉みほぐしを売りにしていたり、性感サービスに力を入れていたり、デートプランが豊富だったり……お店ごとに特色が異なります」

 もちろんどのお店も、挿入を伴う性行為はご法度だ。

「お店に所属している男性はキャストやセラピストと呼ばれています」(菅野さん)

 利用者の年齢は20代が主流。だが、最近では40代、50代などにも年齢の幅が広がっているようだ。

「利用の一般的な流れとしては、女性がホテル近くでキャストと落ち合って入室。シャワーの後に、ベッドでオイルでの揉みほぐしなどの施術を受け、希望に応じて指や舌などでの性感サービスを受けます。料金も120分で2万円前後が相場ですが、丸々ひと晩キャストと過ごす『お泊まりコース』を利用する人もいるようです」(同・前出)

 文字どおり“濃厚接触”を行う女風では、コロナ対策は欠かせない。女性用風俗のひとつ、『SPA White』オーナーのあす香さんは語る。

「コロナ禍では、ホテルに入ったあとの手洗いやうがいはもちろんのこと、キャストには日々の検温も徹底させています」

 また、利用場所も窓のないラブホテルではなく、換気のよいシティホテルなどを選ぶようにしているという。

「新型コロナウイルスは、口や肛門まわりからの感染リスクも高いといわれています。ですが、うちのお店のスタンダードなコースでは、性器周辺に触れることや、キスなどの粘膜同士の接触はありません。中にはマスクをしたままでサービスを受ける方もいますよ」(あす香さん)

 また感染者数の多い都心部に来られない人には、「電話などでキャストと話せる通話サービスも好評ですね」とあす香さん。

 男性向け/女性向け問わず「風俗=性欲解消」というイメージもあるが、こと女風に関しては、利用者の層も通う動機も実にさまざまだ。

「利用する女性客も20代から60代、学生から会社員、専業主婦と職種もさまざまです。過去には80歳の方もいらっしゃいましたね」(同・前出)

 いわゆる若いイケメンをはべらせる有閑マダムや性に対して好奇心旺盛な肉食系女子もいるが、それだけではないという。

「純粋に性欲解消が目的というよりも、“イチャイチャして、ぬくもりを感じたい”という人も多いようです。特に昨今のコロナ禍では、外出自粛のストレスや寂しさの解消として、女風に癒しを求める人もいると思います」(前出・菅野さん)

50代の女風デビュー、自分認めるきっかけに

 ここからは、実際に女風を利用してみた女性たちのエピソードを見ていこう。

 神奈川県在住の主婦、成宮絵美子さん(仮名、50代)は、3月に「女風デビュー」を果たした。

「夫は“男は仕事、女は家庭”と疑わない亭主関白タイプ。昔から家事や育児はすべて私に任せきりでした。セックスでも“女は男に尽くすもの”という思い込みが強いようで、“お前は黙って舐めていればいいんだ”と言われたことも。私への愛撫はそこそこで、体位は正常位だけで入れたら終わり。ここ数年は没交渉です」

 経済的には何不自由ない生活を送っているものの、心の満たされなさを抱えていた絵美子さん。ある日、ネットで見かけた女性向け風俗の体験記事が忘れられず、問い合わせてみた。

「実際に利用するまでは、3か月かかりましたよ(笑)。“こんなオバサンが行って笑われないかな”“怖い目にあったらどうしよう”と不安もありました。そんな自分の背中を押すためにも、オーナーさんと相談して、あらかじめ利用料金の3万円をお支払いしたんです」

 料金を先払いすることで、みずから退路を断った、というわけだ。

「万一、知り合いに見られたらまずいので、当日はビジネスホテルに私が先にチェックインしました。キャストの方は40代で、芸能人でいえば西島秀俊さんのような落ち着いた雰囲気。最初は口の中がカラカラになるほど緊張していましたが、カウンセリングや世間話から始まって、徐々に気分もリラックスしていきました」

 アロマオイルで肩や背中、つま先まで丁寧に揉みほぐされ、カラダが芯から温まっていくのを感じたという。

「ベッドではたわいのない会話をしていたのですが、私の話をずっと聞いてくれて……ハグをされたときには、思わず涙が出ました。その日は、性器に触れることはなかったせいか、夫への罪悪感もなかったですね」

 前出のあす香さんは語る。「利用した方からは“まるでエステサロンに行った気分だった”“夫にも優しくなれた”という感想が数多く寄せられています。予約に合わせてネイルサロンや美容院に行ったり、おしゃれをしてくる女性も多いですね」

 彼女たちにとって、女風に行く日は、自分をケアする特別な日になっている。

女性向け風俗を通して、“自分は大切にされていいんだ”“もっと自分のために時間を使っていいんだと思えるようになった”と、内面の変化を聞くと、私たちもうれしくなりますね」(同・前出)

男性への苦手意識克服! 婚活に前進

 もちろん女風を利用するのは、既婚女性だけではない。前出の菅野さんは語る。

「最近は、性体験のない中年女性の利用者もいるようです。私の周りにも、女風で男性と初めて2人きりになってスキンシップをした、というアラサー女子がいましたね。彼女は、外見もおしゃれで、経済的にも自立していましたが、こと恋愛となると完全に受け身。それまで男性に触れたことがないのをひそかに悩んでいました」

 国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」によれば、30代女性のうち3人に1人が「性経験なし」と回答している。いわゆる「高齢処女」も珍しい話ではない。

 数多くの女性たちを見てきたあす香さんも、「お客様の中には、キャストと手をつなぐところから始めて、異性への苦手意識を克服して、“婚活を頑張ります!”と巣立っていった例もありました」と語る。

 異性への苦手意識やコンプレックス、人恋しさを解きほぐしてくれる女風だが、ついついキャストに入れ込んでしまう……なんてトラブルにはご用心。

「いわゆる『沼』ですね。最近では、女性客がキャストに過度に依存しないよう、セラピストに接し方を指導するなど、お客さんと適度な距離を保てる配慮をしてくれる女性オーナーのお店もあるようです」(前出・菅野さん)

 性欲の発散だけでなく、性を通じて自分を見つめ直し、生活に潤いや彩りをもたらしてくれる女風。いまや生活への満たされなさや孤独な気持ちを抱えた女性たちの『駆け込み寺』となっている。

 人と思うように触れ合えない時代だからこそ、安全に『密』になれる場所として、今後も静かな『女風ブーム』は続きそうだ。

女風男性キャストが告白!
「肌と心の触れ合いで深い癒しを」

 日々、女性たちを癒す男性キャストは、何を思うのか。SPA White所属の50代キャスト、香(かおる)さんに話を聞いた。

「女性と接していると本当に、ひとりひとり反応も違いますし、実に繊細だなと感じます。日々、学ぶことばかりですね」

50代のキャスト、香さん。物腰が柔らかく、優しい雰囲気のイケおじ。その包容力には安心感も

 優しい笑顔と穏やかな語り口が魅力的な香さん。平日は営業マンとして働いている。キャストの仕事は、いわば副業として始めた。

「きっかけは、女性に恩返しをしたい、という思いからです。昔、僕自身が精神的にも経済的にも追い込まれたとき、周囲の女性から優しく声をかけてもらって、救われた経験があるんです」

 そんな香さんを指名するのは、20代からアラ還の女性までと実に幅広い。

「20代の女性だと、『同年代の男の子は苦手』という方からのご指名が多いですね。また同じ世代なら、“若いころって、こんなドラマがあったよね〜”など、友達感覚で盛り上がりますね」

 女性向け風俗で働く男性というと、百戦錬磨のテクニックの持ち主を思い描いてしまうが、香さんが何より心がけているのは、「会話でどれだけ相手の気持ちを酌み取れるか」だという。

「女風の存在も、徐々に世間で知られるようになってきたとはいえ、まだまだ実際に利用するにはハードルは高い。きっとお客様も勇気を振り絞って、予約をしてくれていると思うんです。もちろん当日も心の中でかなり緊張をしているはず。僕もそんな女性の思いを酌み取るためにも、待ち合わせ場所からホテルに行くまでの段階で、いかに会話でリラックスしてもらえるかを心がけていますね」

 ホテルに入ると、記入してもらったカウンセリングシートをもとに手をつないだり、ハグをしたり……女性の心がほぐれた状態になってから、初めて肌に触れるという。

ひとつひとつの動作に移る前に“手をつないでいいですか?”“ハグしてもいいですか?”ときちんと同意を取ることを最重要視しています。女性がイヤだと思うことをしてしまったり、不注意な言動で傷つけないよう、細心の注意を払っています

 どこまでもこまやかで、ホスピタリティーあふれる香さんだが、過去には性に対する苦い思い出もあるという。

若いころ、セックスの途中でダメになってしまったことがあるんです。その際、相手の女性から激しくダメ出しをされて、深く傷つきましたね(苦笑)。そんなトラウマもあることから、性の悦びを知るのは、セックスだけではないと考えています。お客様の中には、性に対して保守的な方もいらっしゃいますが、気軽に相談に乗れたらいいなとも思います

 直接的な刺激ではなく、会話や肌の触れ合いで、深い癒しを与える香さん。最後に読者にメッセージをくれた。

「今の50代、60代の女性の中には、家事や育児、介護を一手に任されて、つい自分のことは後回しにしてしまう人も多いように思えます。日々、頑張ってガチガチになった心と身体を、限られた時間の中でもほぐしてもらえたらとてもうれしいですね

 人生の酸いも甘いも味わってきた香さん。その抜群の包容力と優しさに癒されたいと願う女性は、続出中だ。

『女風』で心に栄養を補給し、新たな一歩を踏み出したい。

教えてくれたのは……
あす香さん
女性用風俗SPA Whiteグループオーナー。在籍するセラピストに15時間以上の研修を担当する。ほかにも、エステティシャンなどとして店内外で後進の指導や育成にもあたる。

菅野久美子さん
ノンフィクションライター。性や孤独死、生きづらさなどをテーマに執筆。『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)など著書多数。

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(取材・文/アケミン)