札幌市が制作した招致PR動画(YouTube『SapporoPRD』より)

《東京大会を実現するためには、我々はいくつかの犠牲を払う必要がある》
《(緊急事態宣言下でも東京五輪は開催するか?)答えはイエスだ》
《前例のないアルマゲドンに見舞われない限り、東京五輪は計画通りに進むだろう》

 国際オリンピック委員会(IOC)会長のトーマス・バッハほか、委員会の重鎮らが言いたい放題だ。特に最古参のディック・パウンド氏が用いた“アルマゲドン(最終戦争)”は強烈だが、彼らに共通する認識は「東京五輪開催の事実は動かない」ということなのだろう。

 菅義偉首相ら政府は5月28日、9都道府県に発出している緊急事態宣言の再延長を発表。6月20日の解除で調整を進めているようだ。全国紙記者は「バッハ会長の都合では」と首を傾げる。
 
「もともと5月17日に来日予定とされたバッハ会長ですが、第4波に伴う宣言によって延期。一方で5月27日にはオンラインで、約200か国の選手を前に対して“自信を持って東京に来てほしい”と雄弁に語っていたわけですが、では、なぜ自分は来日を延期したのか(苦笑)。

 橋本聖子(東京五輪・パラリンピック組織委員会)会長も、言いたい放題のバッハ会長らに“強い意志の表れが言葉に”、“犠牲発言は誤訳だった”などと擁護する始末。菅首相ともども、そこまでIOCに対して下手に構える理由はなんなのか」

 5月に共同通信が行った世論調査では、東京五輪・パラリンピック開催の可否に約6割が大会そのものを「中止すべき」と回答していたが、現在はさらなる増加も考えられる。ますます国民の“五輪アレルギー”は拡大しそうだ。

2030“札幌五輪”開催を目指している

 この“アレルギー”は10年先にも侵食しようとしている。2020年1月、日本オリンピック委員会(JOC)は2030年の冬季五輪・パラリンピック開催の候補地として札幌市を正式決定。招致活動が叶えば、晴れて“札幌大会”が開催されるのだが、北海道の地に“逆風”が吹き始めている

 4月7日に北海道新聞社が市民を対象にした世論調査で、招致に「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えた人は48%に対し、「反対」「どちらかといえば反対」は50%と賛成派を上回ったことを報じていた。反対の理由として「他にもっと大事な施策がある」「お金がかかる」の多数意見の他に、「新型コロナウイルス対策に力をいれてほしい」などの声も複数あったとしている。

「この1か月後の5月5日、東京五輪の“テスト大会”として位置付けて開催された『北海道・札幌マラソンフィスティバル2021』に、全国から疑問の声が上がりました。すると、その直後に札幌市は『まん延防止等重点措置』を政府に要請し、5月16日には北海道にも緊急事態宣言が発出されることに。

 そして数々のIOC発言です。もしも今、市民への世論調査を行ったとしたら、招致への“反対”票はさらに重ねられるのではないでしょうか」(前出・全国紙記者)

 実際に“五輪アレルギー”は広がっているのだろうか。2030年の冬季五輪・パラリンピックの招致を目指す札幌市スポーツ局招致推進部調整課に、東京五輪向けられている“中止論”の影響について聞くと、

「様々なご意見はいただいております。“招致すべきでない”というご意見から“やはり招致はすべきだ”という両面のご意見をいただいております」

 現在、2030年大会の招致活動は、開催に関心がある各国の都市が対応、調整している段階にあるという。札幌市も同様の立場にある一方で、2020大会の会場都市(マラソン・競歩)でもあることから現在はそちらに尽力しているようだ。

東京五輪を中止にできないわけ

 2019年6月、それまでは原則的に五輪開催地の決定は7年前としていたが、IOCは新たに決定の時期を設けない規定を設けた。これを受けてか、JOCの山下泰裕会長は2020年1月に「早ければ来年(2021年)に決まるかもしれない」として「(札幌大会の)チャンスはあるぞ、と思いました」と言及していた。

「同じく昨年1月には、秋元克弘札幌市長がバッハ会長と会談しています。また2018年にもJOCの竹田恒和会長と町田隆敏副市長が、2030年大会の招致を目標とすることを伝えにバッハ会長に会いにスイスのIOC本部を訪れています。JOCが札幌大会の招致にかなり力を入れていることは明確に伺えますね。

 昨年に大会が延期されたことで、また開催地の決定時期は流動的になったのかもしれませんが、菅首相をはじめとした政府、橋本会長ら組織委員会が頑なに五輪中止を拒む理由は、もしかしたら2030年大会の招致も関係しているのでは、と見てしまいますよ」(前出・全国紙記者)

 バッハ会長は6月中旬、そして7月23日の東京五輪開幕にも合わせて来日すると見られている。その際に、2030年に向けた会談は行われるのだろうか。

「(バッハ会長との面談は)ございません。(会長が札幌に来ることも)予定はございません。来日は2020年のためであって、基本的に2030年のことでこちら(札幌市)にいらっしゃるということは予定もないですし、今後も考えられません」(札幌市スポーツ局招致推進部調整課)

 果たして開催中止の選択肢は存在しているのだろうか。