福岡市早良区城西の事故現場

「外車で商店街の道をとんでもないスピードで突っ走っとったとよ。ときどきクランションば鳴らしながらね。いつか事故るんじゃないかとみんな言うとった」

 福岡市にある山田穣容疑者(57)の自宅近くの住民たちはそう口をそろえた。容疑者が暴走していた道は狭くて人通りも多いため、他の車はみな徐行運転しているというのに……。

「被害者のほうが悪い」と供述した容疑者

 住人らの不吉な予感は現実のものとなってしまう。5月2日午後8時30分ごろ、容疑者宅からおよそ900m離れた福岡市早良区城西の市道交差点で事件は起きた。同市の中学3年生・Aくん(享年15)が車道を自転車で横断していたところを、容疑者の車が自転車もろとも跳ね飛ばしたのだ。すぐさま容疑者は110番通報したが、Aくんは搬送先の病院で死亡が確認された。

「事故直後は自ら通報しているし、逃亡する様子もなかったため、逮捕しなかった」と捜査関係者。だが、事態は一変する。

「かなり悪質なので、逮捕して強制捜査に切りかわりました」(同・捜査関係者)

 当初、容疑者は任意の取り調べに対して、

「スピードは50~60kmしか出していなかった」

「ああいう状況だったら、仕方なかった」

「被害者のほうが悪い」

 などと供述。だが、警察が防犯カメラのチェック、現場検証を行ってみると、容疑者の車は時速100kmほどで走っていたことが判明する。被疑者の供述と大きく乖離していたのだ。

 事故から20日以上経過した24日、容疑者は高速度で前方安全不十分のまま進行したことによる過失運転致死の疑いで逮捕された。

事故を目撃したBくんは自分を責めていて…

「自分が“走る凶器”を操っているんだという認識がまったくないのが腹立たしいです」

 そう憤るのは、被害者Aくんの同級生Bくんの母親だ。事故当日、AくんとBくんはふたりで外出していた。

「家から8kmほど離れた商業施設『マリゾン』に自転車で遊びに行っていました。夜になるとライトアップされて、とてもキレイなんです」(Bくんの母親、以下同)

容疑者が猛スピードで走ってたという商店街の道

 彼らはいつも5、6人の友だちグループで行動していたがその日は、ほかの子たちは部活で忙しかったため、2人きりだった。

 その帰り道で、彼らは事故に巻き込まれてしまう。Bくんの目の前で、Aくんは容疑者の車に引かれて、15mほど跳ね飛ばされた──。警察からの連絡を受けて、Bくんの母親が事故現場に駆け付けると、

「息子はパトカーの中でガタガタと震えていました……。目の前で起きたことが怖かったんだと思います」

 さらにBくんは事故に責任を感じていて、

「Aくんと息子は一緒に車道を横断しようとしたんです。そこに容疑者の車が突っ込んできて、Aくんだけが事故に巻き込まれしまった。だから“僕のせいなんじゃないか”って自分を責めていて……」

 事故現場は、横断歩道のない交差点。AくんとBくんが横断した車道は、確かにスピードが出やすく、見通しも悪い。だが、容疑者の車は、制限速度の2倍、時速100km近くのスピードを出していた。

事故現場の献花

 その後、BくんはPTSD(外傷後ストレス障害)のような症状に陥ってしまう。

「本当に一瞬の出来事だったので、当時の詳しい様子は覚えていないようです。こちらも、あえてそのことは聞かないようにしています。ときどき、修学旅行のときの写真をジーッと見つめています。Aくんのことを思い出したりしているみたい。大きな心の傷にならないか心配で……」

 そんなBくんに母親が「病院へ行こうか?」と声をかけると──、

「“病気扱いするなよ!”と口では強気に振る舞っていますね。だから、その気持ちをくんで様子を見ています。母親としては、きちんとご飯を食べさせて、きちんと寝かせてあげることしかできないんです」(同)

空手道場に通って頑張っていたAくん

 AくんとBくんは、同じクラスになったことはなかったという。

「2年前に引っ越ししてきたんですが、うちの子は引っ込み思案で“友だちができない”と嘆いていたんです。そんなときに声をかけてくれたのが、Aくんでした。とても優しくて、いい子でね。それで息子の友だちの輪が一気に広がった感じでした」(同)

 ほかの同級生たちも、

「Aくんは学校の部活には入っていないけど、空手道場に通っていて、とても頑張っている子でした」

 と評した。

 Aくんの中学校には、

《祝 空手道Aくん 福岡県新人大会 組手 準優勝》

《祝 Aくん 2021年度ジュニア強化選考会 カデット男子組手―63kg級日本代表》

 と書かれた2本のたれ幕が、今も貼られ続けている。学校側に話を聞いた。

「Aくんのご家族と相談した結果、“そのまま貼り続けてほしい”ということになりました。学校の部活での功績ではないのですが、外部の活動であっても彼の栄誉をたたえたいという気持ちで行っています」

被害者の功績をたたえる中学校のたれ幕

 突然、奪われたAくんの命。遺族にとっては、まだまだ受け入れられない現実なのだろう──。Bくんの母親は、

「Aくんのことを思うと不憫でなりません……。彼の葬儀で初めてAくんのご両親とお会いしたのですが、かける言葉が見つかりませんでした」

 Aくんの自宅を訪ねてみると、母親が消え入るような声でこう答えた。

「申し訳ありませんが、まだお話できる状態ではありませんので、すいません」

近所では悪評の高い容疑者

 一方、事故を起こした山田容疑者はどんな人物なのか。

「スキンヘッドで厳つい見た目ですが、彼はイベント関連会社の会社員。家族は自宅でヨガ・スタジオを開いている妻、20歳ぐらいの長男と、被害者と同い年ぐらいの長女の4人暮らしです」(地方メディア記者)

 自宅は、福岡市で人気の一等地に80坪ほどもある豪邸。不動産関係者によれば、土地価格だけでも1億円はくだらないという。趣味は“外車に乗ること”で、

「事故を起こした白いベンツのほか、アウディやBMWも持っていました。スピード狂で、過去にも人身事故、飲酒運転などのような自動車に関する前科があると聞いています」(同)

山田容疑者の自宅

 朝7時ぐらいになると、お気に入りの外車に乗って猛スピードで出かけていた容疑者。

「わざわざ狭い道をスピードを出して走っていた。これ見よがしに外車を見せびらかしとるんじゃなかかね。近所では悪評の高い人ですよ。

 自宅前の道を舗装工事しているときも“音がウルサい”といちゃもんをつけとった、怖い人」(近所の住人)

 前出のBくんの母親は、訴える。

「前途洋々たる子どもの人生を奪ったんです。それだけではなく、その家族や友だちがどれだけ悲しみのどん底に突き落とされているのか……。考えてほしい」

 容疑者はいまだに犯行を否認し続けていて、謝罪の言葉はひとつもない──。