長寿番組を牽引する2人(左から)黒柳徹子、タモリ

「テレビの時代は終わった」と言われますが、永遠に続いているような気がするおなじみの番組も多いものです。出演者も、やっていることも変わらないのに、時代の波を飄々と乗り越えてきたそれらの番組。いったいなぜ? 多角的な視点から検証してみました。

 1953年にNHK・民放各局で本放送が開始された“テレビ”。この数年でこそネットの波に押されているが、約70年ものあいだお茶の間をにぎわす娯楽として親しまれている。

長寿番組のナゾを分析!

 生き馬の目を抜くテレビ業界で、四半世紀以上も続く“長寿番組”は伝説の存在といってもいい。なかでも、『笑点』(日本テレビ系)は放送開始から55周年を迎えたキングオブご長寿番組。バラエティー番組としては最長を記録している。落語界の名人たちがズラッと並んで大喜利をする姿に、元気をもらった人も多いだろう。

長く続いている番組の特徴のひとつが“おなじみ感”です。『笑点』は、前半は演芸で後半は大喜利という構成をずっと続けている。司会者やメンバーが変わっていてもコンテンツが同じなので、安心して見ていられるんですよね

 そう語るのは、放送作家の野呂エイシロウさん。おなじみ感に加えて、名人たちの安定した笑いも楽しめる『笑点』は、長く続く条件を満たしているという。

 そして、元テレビ局勤務のコラムニスト・逢瀬辰五郎さんも『笑点』の魅力をこう分析する。

「長寿番組は、誰が司会者でも成立するフォーマットができています。『笑点』も最初の司会者は故・立川談志師匠でスタートして、その後も何度か代替わりしながら続いているのが強みだと思います。

 それに、もしも個性が強すぎる談志師匠の降板がなかったら、内容にエッジが効きすぎて長く続かなかったかもしれません。長続きのコツは“面白すぎないこと”でもあると思います

 総合司会の児玉清さんが放つ「アタックチャ〜ンス!」の声が耳から離れないクイズ番組『パネルクイズアタック25』(テレビ朝日系)も、46年選手の番組だ。児玉さんの引退後、朝日放送の浦川泰幸アナウンサーを経て2015年以降は俳優の谷原章介が司会を務めている。

『アタック25』は児玉さんのイメージが強かったけど、今では谷原さんの司会に違和感がないですよね。『笑点』と同じく、番組のフォーマットがしっかりできあがっているので、司会者が変わっても成立している典型例です」(逢瀬さん)

替えのきかない司会者2人

 一方で、司会者の替えがきかない長寿番組も少なくない。その筆頭株が『徹子の部屋』(テレビ朝日系)だ。説明するまでもないが、タレント・黒柳徹子の“部屋”にゲストが訪れるトーク番組。45年の長い歴史の中には、神回と称される徹子とゲストの名勝負(?)も数多く存在する。

「彼女の司会は“しゃべり芸”と言ってもいいほど特徴的。一方で、画面上にはゲストと徹子さんしかいないし、徹子さんの衣装を確認したあとは、テレビを真剣に見なくても聞き慣れた徹子トークが楽しめる。

 視聴者を楽しませる秀でた話芸と、安心感がある『徹子の部屋』は、長寿になるべくしてなった番組かもしれません。番組名にMCの名前が入っているので、徹子さんがお元気なうちは続くはずです」(野呂さん)

 “タモさん”こと森田一義も、長寿番組との相性がいい。最長で38年間放送しているのが、毎度おなじみ流浪の番組『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)だ。

『笑っていいとも!』は2014年に「同一司会者による生放送バラエティー番組の最多エピソード数」と「同一チャンネルによる生放送バラエティー番組の最多エピソード数」でギネス認定された

「タモリさんの場合も、徹子さんと同じく名人芸を魅せてくれる司会者です。彼が持つ幅広い知識とユーモアで、その日のテーマをどう料理するかが見どころですよね」(野呂さん)

 だが、そんなタモさんがお昼の顔として32年間司会を務めていた『笑っていいとも!』(フジテレビ系)は2014年に幕を閉じた。その終焉については「番組のコストが影響しているのでは、という話も聞いたことがあります」と野呂さん。

「近年の傾向ですが『いいとも』のように、出演者が多かったり、大御所に見合ったギャラを支払い続けると予算がかさむため番組はやめざるをえない。特に司会者の名前が大きすぎると、番組そのものを終わらせるしかないんですよ」(野呂さん)

 テレビ業界の現状がうかがえる、なかなかシビアな話だ。さらに野呂さんは「今後、メインの司会者を据える長寿番組は生まれにくくなる」と予想する。

「徹子さんやタモリさん、ビートたけしさんやダウンタウン……今、司会者の名前を冠した25年超えの番組は、テレビ創世記からバブル期に始まっています。司会をする彼らも20代後半から30代前半にブレイクした人々です。しかし現代は、前の世代が詰まっているので、タレントやお笑い芸人たちのブレイクも40代になりつつある。そうなると、これから30年、40年も番組を続けるには体力的に難しいでしょうね」

道具として機能している番組

 番組長生きの秘訣はほかにも。野呂さんは「道具として使われる番組」は、長続きしやすいと話す。

「テレビの娯楽以外の部分を担っている番組です。例えば『おかあさんといっしょ』なんて、自宅にある保育所のような番組だから、なくなったら大勢の親子が困りますよね。同じくNHKの『テレビ体操』『きょうの料理』も、実生活に即した内容を放送しているのが特徴です」

家で保育所の役割をしてくれる『おかあさんといっしょ』

 NHK以外でも、競馬の結果を報じる『ウイニング競馬』(テレビ東京系)やスポーツ番組全般も“道具”的な要素が強いという。

「『ウイニング競馬』そのものが楽しみなのではなく、レースの結果を知るのが目的になっている。『ワールドプロレスリング』(テレビ朝日系)も同様に番組の内容ではなくて、視聴者の目的は試合の結果ですよね」(野呂さん)

 一方で、ワイドショーは世間の流れを知る道具的番組ながら「“司会者”が大きなポイントになる」と、逢瀬さんは分析する。

「20年前は、みのもんたさんや、先日22年の歴史に幕を閉じた『とくダネ!』の小倉智昭さんのように、視聴者の目を引く“アクの強い司会者”をあえて起用していました。最近でいえば『ミヤネ屋』(日本テレビ系)の宮根誠司さんに該当しますが、視聴率でいえば裏番組の『ゴゴスマ』(TBS系)に押されています。ゴゴスマの石井亮次アナウンサーは、宮根さんとは正反対の司会者。アクの強い司会者は、宮根さんが最後になるかもしれませんね」

 今後は“出しゃばらない司会者”が好まれるのでは、と逢瀬さん。司会者にもトレンドがあるようだ。

ついつい結果が気になる

 そして、長寿の中の長寿番組が、NHKの『のど自慢』だ。

「『のど自慢』といえば、一般の人が歌声を披露する一般参加型の番組。一般の人が出るので親しみやすさもあるのが特徴です。その点では27年間放送している『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)にも共通するものがありますね。身近にいそうな人たちが主役になると、つい結果が気になってしまうのが、一般参加型番組の魅力です」(野呂さん)

 たしかに、惰性で見始めたのに鑑定団の査定結果が気になっていつの間にか1時間たっていた……という経験をした人も多いはず。

 また、長年テレビの現場に携わっている野呂さんは「長寿番組の存在が当たり前になりすぎて、危うく内容がかぶりそうになったことがある」と、振り返る。

「あるバラエティー番組の企画会議で、プロが価値をつけるというコーナーをみんなで考えていたんです。そのときに僕が『プロの鑑定士が骨董品に、みんなが見ている前で値段をつけるなんてどう?』と提案して、いいね! なんて盛り上がっていると、若いスタッフに『野呂さん、それはなんでも鑑定団です』と言われて大爆笑(笑)。長寿番組は、それだけ自分たちの中に溶け込んでいるのかもしれません」

 無意識のうちに、私たちには長寿番組のDNAが刷り込まれているのかもしれない。

 また、51年続いている『新婚さんいらっしゃい!』(テレビ朝日系)には、さまざまな長寿の理由が。

『新婚さんいらっしゃい!』。クセのある素人さんに対し、桂文枝師匠だからこそ仕切れる司会ぶり

「『新婚さん〜』は、一般人が参加するうえに、桂文枝師匠が新婚夫婦をどう料理するのか、名人芸も見ものです。ノロケ話を聞いてイスからズッコケたり、真っ昼間からキワドい話をしたり、文枝師匠の独壇場。長寿番組の条件がそろっています」(野呂さん)

 長寿番組という観点ではずせないのがアニメだ。中でも『サザエさん』は51年続く定番中の定番。

「アニメに関しては、絶対にキャラクターが年を取らないですよね。『サザエさん』はコンテンツ的にもかなり強くて、子どもからお年寄りまで楽しめるという作品は、なかなか生まれません。

 また、子ども向けというよりは、テレビが娯楽だった中高年以上の視聴者が“古きよき昭和”を懐かしむ要素が強い。『水戸黄門』ばりの時代劇になっているからこそ、今も続いていると考えられます」(野呂さん)

番組が生き残る方法とは

 テレビの全盛期から、放送作家として業界を牽引してきた野呂さんは「今後、テレビは古典になっていくのでは」と予想する。

「僕が若いころに、当時のお年寄りが楽しんでいた『落語』や『歌舞伎』はなくなると思っていました。でも、それらは今でも古典芸能として脈々と受け継がれています。YouTubeやスマホの登場によって、テレビがかつてのような娯楽の中心になるのは難しいかもしれませんが、古典として生き残る可能性がある。

 中でも、ひとつの型が決まっている長寿番組は、古典芸能として長く愛される存在になるかもしれませんね

 昨年から続くコロナ禍で、久々にテレビを見て「まだこの番組やってるんだ!」と、懐かしさを感じた読者も多いだろう。

 目まぐるしく変化する社会情勢の中で私たちに安心感を与えてくれる存在が、長寿番組なのだ。

コメントしてくれたのは……
●野呂エイシロウさん●1967年生まれ。出版社を経て、26歳のとき日本テレビ『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の放送作家予備校の公募にて放送作家に転身。数々の番組をヒットに導いたノウハウを企業広報に生かす戦略的PRコンサルタントとしても活動中。

●逢瀬辰五郎さん●テレビ局勤務を経て、芸能プロダクションでマネージメントの仕事に携わった後、大手WEBサイトでテレビコラムを中心に執筆。