若者の間で人気化する「豪快シェア」とは?(写真:筆者提供/東洋経済オンライン)

「インスタ映え」という言葉ができてからもう10年近く経ち、そろそろZ世代の若者たちは背伸びしてオシャレなインスタ映えを狙う生活に食傷気味のようです。

 以前、私は2021年に流行るものの1つとして、「出世サワー」や「炎旨大鶏排(エンシダージーパイ)」などの「インパクト映え」というものを挙げました。

 これらは、従来のインスタ映えに飽きたZ世代の若者たちが、今度は従来のインスタ映えとは真逆の「とにかくでかいもの」をインスタに載せるようになっているし、今後もこの傾向が広がっていくだろう、というものでした。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 今回はその延長線上にあるともいえそうな「豪快シェア」のトレンドについて、現役大学生たちがレポートしてくれます。

 彼らはただデカいもの(量の多いもの)をインスタに載せるだけでは飽き足らず、それを周囲の友だちと「シェア」したくなってきているようです。

広く浅い人間関係×コロナで生まれた流れ

 SNSが生活の一部になっている今の若者世代は、SNS上で関係の浅い知人ともフォロー、フォロワーとして関わりながら、「広く浅い人間関係」に囲まれて暮らしている。さらにコロナの影響で人と直接会う機会が減り、リアルでの友人関係は希薄化している。

今回レポートしてくれるメンバー。写真左上より矢追耕太郎(早稲田大学政治経済学部3年)、河内杏南(早稲田大学文化構想学部3年)、橋本和弥(立教大学社会学部4年)、土井大紀(立教大学文学部2年)/東洋経済オンライン

 こうした中、本当に仲がよい友人の存在をより大切に感じるーーそう感じる若者がにわかに増加している。インスタ映えを目的にお洒落な場所へ一緒に行くような友人関係には、不信感を抱く若者も少なくない。

 一方、外出が気軽にできなくなったことで、SNS上で手ごろに「いいね」を貰える、見栄えのする投稿をする機会が減り、承認欲求を満たせないという問題も発生している。

 そのため、気飾らない、ありのままの日常をSNS上で表現する人も増えている。気のおけない友人がいる、ひとりぼっちではないことをさりげなくアピールしつつ、タコ焼きパーティーやなべパーティーを上回る映え要素によって、着飾らず「いいね」をもらいたいと考える人が増えている。

 そこで、若者たちの間で広がっているのが、「豪快シェア」だ。「豪快シェア」とは筆者らの造語だが、気のおけない友人たちとの食事でインパクトのある食べ方を楽しみ、かつインスタ映えもさせるというものだ(もちろんコロナ感染には注意して)。

 以下、いくつかの事例をもとにレポートしていく。

特徴的な「4つの事例」

(1)ナチョステーブル
(写真:筆者提供/東洋経済オンライン)

 テーブルにアルミホイルを敷き、その上にチーズをたっぷりにかけたナチョスや野菜などを広げ、みんなで突っつくように食べる。

 材料として、トルティーヤチップス、タコスミート、千切りキャベツ、アボカド、サルサソース、溶かしたチーズを用意し、ピザやコーラと共にアメリカのホームパーティーのように楽しむ若者が多く、TikTokやインスタグラムのリールに様子が載せられている。

 おうち時間を楽しめるコンテンツへの需要が高まり、若者たちが好んで行うたこやきパーティーやなべパーティーに変わる、新しい庶民的パーティーとしても人気だ。インスタ映えする美しさはないが、ごちゃごちゃとしつつも、みんなで楽しむ様子が見る人に好意的に受け止められたりする。

(2)ペヤング超超超超超超大盛やきそばペタマックス

(写真:筆者提供/東洋経済オンライン)

通常サイズのペヤングソースやきそばの約7.3倍であり、ペヤング史上最大級のボリューム感マックスな超特大商品である。TikTok上で、10人ほどの高校生がシェアして楽しんでいる動画がバズった。「#jkにしかできないこと」というハッシュタグで拡散され、青春の食べ物として人気になった。

またはじめしゃちょーやHIKAKINなどの有名YouTuberも企画でこの商品を食べており、その企画を真似してYouTuber・インフルエンサー気分を味わっている若者も少なくない。庶民感のある食べ物なので、気のおけない友人と楽しんでいる様子もSNS上でアピールできる。

(3)おうちでペッパーランチ
(写真提供:早稲田大学3年 斎藤龍星さん/東洋経済オンライン)

 ステーキ専門の飲食チェーン「ペッパーランチ」の看板メニュー「ビーフペッパーライス」。これを自宅で作ることが人気だ。

「ビーフペッパーライス」は牛肉、コーン、刻みネギ、ニンニク、バター、塩コショウ、焼肉のタレ、ご飯をアツアツの鉄板の上で焼く料理で、ホットプレートと材料さえあれば家でも簡単に作ることができる。また大量に作れるため、友人と複数人で楽しみながら食べるのにも適している。

友人たちとワイルドに調理しながら盛り上がっている様子をインスタ映えする写真として投稿する若者が増えている。

(4)パリピ酒

(写真提供:早稲田大学3年 斎藤龍星さん/東洋経済オンライン)

 お酒やエナジードリンク、冷凍フルーツなどをバケツに入れ、混ぜて作ったお酒。エナジードリンクとストロング缶で作るのが主流であるが、缶チューハイ同士など混ぜるお酒は自由である。海外のホームパーティーで流行したものがSNSを通じて日本にやって来た。

 日本では地雷系やホスト狂と呼ばれる若者を中心に流行した。その後、コロナによる飲食店の営業時間の短縮で、夜遅くまでお店で飲むことができなくなった大学生がコンビニで材料調達をし、中には公園で作るという大胆な若者まで登場、広く流行するようになった。

 高校生でもジュースを使って真似するケースがあり、実際に作る工程から動画を撮り、インスタやTikTokに投稿。友人との強い友情をアピールする効果も狙える。

 以上、さまざまな「豪快シェア」のトレンドについて取り上げた。

 近年の若者たちは、お洒落な場所や食べ物によってインスタ映えを狙っていた。一方、今の若者はお洒落なコンテンツではなく、多少下品でも豪快に楽しんでいる様子の投稿でインスタ映えを狙う傾向がある。

 ウィズコロナの生活が続く中、引き続き若者から「豪快シェア」を超える、新たなコンテンツが生まれてくるのではないだろうか。

原田の総評:「おひとりさま」と真逆の発想を

 現役大学生の「豪快シェア」のレポートはいかがでしたでしょうか。

 Z世代の彼らは、従来のオシャレなインスタ映えに飽きています。また、SNSによって人間関係が広がったぶん、友人との絆を深めるニーズが強くなっています。そうした彼らのニーズを満たすことができるものとしてこの「豪快シェア」が生まれたと考えられます。

 コロナ禍の中でのこうしたトレンドには批判も多くなると思いますが、コロナ禍により友人と大変会いにくくなったからこそ、今、まさにこうしたニーズが膨らんできている、とも言えるかもしれません。

 日本では今、一人暮らしを指す「単身世帯」が、すべての世帯の中で最も多い「超おひとりさま社会」になってきています。一方、こうしたZ世代の新しいニーズも見逃せません。さまざまな企業はこれらを把握し、彼らが友人と豪快にシェアしたくなる、単身世帯化とは真逆のボリューミーな食べ物・飲み物を彼らに提供する発想を持ってもよいかもしれません。


原田 曜平(はらだ ようへい)Yohei Harada マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』などがある。YouTubeはこちら