いつか自分が介護される側になったとき。シモの世話で少しでも迷惑をかけたくないという理由から中高年のVIO脱毛が増えてきている。医師や現場の介護士に、そのメリットを聞いた。

※写真はイメージです

■VIOとは…
 Vはビキニライン、Iは陰部の両側、Oは肛門周辺のアンダーヘアのこと。VIOすべての毛を脱毛したツルツル状態のことを「ハイジニーナ」と呼ぶ。

いずれ“ツルツル”処理へ

「いわゆる“介護目的のVIO脱毛”をする人は、ここ数年、すごく増えています」

 と話すのは、日本のクリニックで初めて医療脱毛を導入したシロノクリニックの医師、大野由実先生。

「脱毛の形状は、最初はVを残す予定で、進めていくうちに慣れてきて……そのうち、すべての毛をスッキリという方が多い。毛のない状態に慣れるとやはり、とても快適なんでしょうね」

 医療用のレーザー脱毛は毛根のメラニン色素に反応し、破壊するもので、アンダーヘアの白髪には反応しない。

「まったくの無毛にしなくても、介護されるときに、負担を軽減できるという目的なら、多少毛があっても問題ないでしょう。それに年齢が上がれば、毛量自体も減ります」

 よく聞かれるのが、VIOはとにかく「痛い」という話だ。痛みの感じ方に個人差はあるものの、ほかの部位と比べ、VIO周辺は痛みを感じやすい。

「照射すると輪ゴムでパチンとはじかれるような痛みがあります。毛が太い方ですと、最初は赤みが出ることも」

エステ脱毛でやけど、病院に来る患者さんも

 国民生活センターの発表によれば、2012年度以降の5年間で、脱毛の施術で危害が発生した数はエステが680件、医療機関が284件だった。エステ脱毛でO周辺にやけどを負い、完治に1年以上かかるとされた事例も。

「事前に、脱毛のリスク説明がないところは絶対ダメです。エステでは肌の状態が診られないので、マニュアルどおりに照射してしまい、やけどしたという方が結構いらっしゃいます。本来は、その方の肌質をチェックしてレーザーの出力を変える必要があるんです」

 特にアトピーや肌の色が濃い人は設定具合が大事だ。また、VIOの近辺の皮膚には毛嚢(もうのう)炎(毛穴の奥の毛根を包んでいる部分に起こる炎症)がある人もいるので、その場合は照射前に医師に診てもらわないと、のちに皮膚トラブルのもととなる。

■クリニックとエステでの脱毛の違い

【クリニック】医療レーザー脱毛を行える

 医師の診察後に有資格者が施術を行う。高出力のレーザー機器を扱うことを国から許可されており、脱毛効果の高いものなので、数回の施術で永久脱毛が可能。また、肌トラブルが起きた場合も対処が可能。

【エステ】光脱毛・フラッシュ脱毛でお手軽に

 法律上、エステでは一時的な除毛・減毛しか行ってはいけない。光脱毛はパワーが弱く、広範囲に優しく作用するため、個人差もあるが痛みが少ない。施術に資格は不要で、回数は12~18回、期間は2~3年とも。

両親の介護を契機に脱毛する人も

 40代以降のVIO脱毛の希望者には、家族の介護経験者が多いと大野先生は話す。「不潔にすれば尿道炎をおこしたりすることを身をもって感じた」といったきっかけで実際に始める人、もしくは検討する人もいるそう。

 家族の介護を経験し、今も介護福祉士として働く、人気ブロガー「ヘルパーおかん」さんも、そのひとりだ。

「高齢になると自分で便を拭きとれず、きれいにできない方や、認知症などでおむつに手を入れて便をいじってしまう方もいます。実際、毛があるとないとでは、世話の手間が全然違うことがありますね。私自身、この先、脱毛することを考えています」

 都内在住のS・Kさん(52歳)は、49歳のときに半身不随の母の介護をしたことが、きっかけになったと言う。

「おむつを交換する際、毛についた排泄物がなかなかとれないことが何度かあったんです。何度も拭くと母が不快なのではと感じていたし、自分自身もケアしておきたかった。アンダーヘアに2~3本白髪が交じっていたので、早めにしたいと思っていたのですが、いろいろ調べ、かかりつけの皮膚科に相談し、51歳のときに始めました」

 施術者が顔見知りだったので、最初は恥ずかしかったが、2回目以降は少しずつ慣れてきたそう。

「Vは残すつもりでしたが、1回やってみたらあまりに快適だったので、ハイジニーナに変更。衛生的ですし、ムレやニオイも気にならなくなりました」

介護脱毛が増えたのは
料金が下がったという要因も

「レーザー脱毛機が日本に初めて入ってきた27年前は、1回の照射で10万円以上しました。現在、当院でもVIO脱毛は、1回で合計6万円ほど。コースになれば価格は下がります」(大野先生)

 機械の精度も格段に上がっているので施術回数も減っている。個人差はあるものの、前出のS・Kさんの場合、3回施術のコースで8万円ほど、3か月に1回ずつ通って完了したそう。ただ、安くなったとはいえ、数万円単位の出費になる。

「これから老後を見据えたとき、気持ちがラクになる選択肢のひとつとして考えてみては。ただ、基礎疾患がある方、内出血をしやすい方、もともと痛みに弱い方にはおすすめしません」(大野先生)

妻からのすすめで男性も増加中

 40~50代の女性では、スポーツクラブに通いはじめ、水着のために脱毛をする人も。

「近年、運動する男性も、アンダーを含め体毛の処理をし始めています」と話すのは、男性専用の総合美容医療「ゴリラクリニック」の総院長、稲見文彦先生。

「40~50代ですと、奥様やパートナーのすすめで、介護脱毛をする方も増えていますね」

 男女問わず、VIO脱毛への関心は高まるいっぽう。コロナ禍で清潔への意識が高まっていることも後押ししているのかもしれない。

経験者が語る「介護脱毛」

■両親の介護をきっかけに3年前に医療脱毛

 5年前に亡くなった父がノロウイルスにかかったときは、下痢でおむつ交換に追われ、毛についた便がなかなかとれずに大変でした。子どもがいないのでもともと介護する人に迷惑をかけたくないと思っていましたが、脱毛したことでムレなくなって快適。(63歳・女性)

■介護では手がまわりにくいアンダーケアの必要性を痛感

 数年前、祖母に介助が必要となり、私も介護を手伝ったのですが、毎日入浴できないのでVIOまわりは清潔に保ちにくいんだな、と感じました。介護脱毛の話は友人から聞いて、病院をリサーチ。次回は7回目の施術ですが、少し毛はあるものの、生理の経血がつかないのはすごくラクになりました。(38歳・女性)

■こちらも増加、中年男性もアンダーヘアのケアに熱い視線!

 脱毛した40~50代の男性は、股間まわりがムレない、床に落ちたアンダーヘアの掃除が必要なくなった、といった利便性に満足されることが多いです。若い世代は運動のためや、性行為時に衛生的だと考えて脱毛される方、海外への転勤や出張前にされる方も。すでにVIO脱毛ずみの奥様やパートナーにすすめられることも多いようです。(稲見先生)

教えてくれたのは…
大野由実先生◎医師。シロノクリニック恵比寿勤務。日本形成外科学会専門医、国際レーザー学会専門医、日本レーザー学会専門医などの資格を保有。
稲見文彦先生◎男性専門の総合美容クリニック「ゴリラクリニック」総院長。

《取材・文/山田 恵》