30歳で結婚詐欺に遭い、その1年後には男に貢がせようとパパ活を再開……。2人の男に振り回された人生の行方とは?

見た目は年齢より若い美優さん(仮名・40歳)。自分の自由を結婚に託そうと始めた婚活が、まさかの結果を招くことに──

 30歳を目前に焦って婚活に走る、恋愛に奥手だった女性たち。それは結婚詐欺の常習犯にしてみれば、いい“カモ”に見えるのかもしれない──。

 東海地方出身の三浦美優さん(仮名・40歳)もそんな1人だ。詐欺に遭ったのは30歳のとき。のちに結婚詐欺師だとわかった男は、ロマンチックなレストランで言葉巧みに美優さんを口説き、雇ったレンタル家族で信じ込ませ、600万円を騙し取った。

 “女難”ならぬ“男難”に襲われた女性はどのように生き抜くべきなのだろう。

独身だと思っていたら、実は妻子持ち

「渋谷のパーティーで出会ったのは、10歳年上でさわやかな体育会系の男性。彼は通販会社の社長の息子を名乗っていました。身なりも清潔で、夜景の見えるレストランなどロマンチックな場所でデート。そんな人が、まさか結婚詐欺の常習犯だったなんて……」

 消え入りそうな声で話す美優さん。今から10年前の出来事が彼女の人生を大きく変えた。

「大学ではビジネス系サークルに入り、大学周辺の地域と連携して町おこしなどのイベントの運営に携わりました。その経験を活かしたくて、卒業後は町おこしを企画運営するベンチャー企業に入社しましたが、激務のため体調不良で4年で退職。その後は医療事務の資格を取得して病院に転職しました。結婚してから好きなことをしたいと思うようになり、婚活に励んだんです」

 ところが参加したお見合いや婚活パーティーは独身証明書の提出がなく、既婚者が複数まじっていた。

「独身だと思って付き合ったら、実は妻子持ち。ひどい話です」

 不倫願望の男性が、独身女性を食い物にしようとしている婚活パーティーに幻滅した美優さん。婚活アプリで出会った男性も、ほとんどが遊び目的だった。そこで友人の誘いで銀座に本社のある交際クラブに入会。27歳になっていた。

「私、何も知らなかったんです。“交際”という言葉で、未婚者がパートナーを探す場だと思っていて……。でも入会してみると、そのクラブも既婚男性ばかり。結婚には程遠い世界でした。それならば貯金目的、と割り切ることにしたんです」

 “交際”とはいわゆる“パパ活”だ。クラブのマネージャーが男性と交渉し、男性と女性の条件がマッチすればそこで会う。

「食事で1回3万円から5万円のデートを月に4~5回ぐらい、多いときは7~8回ぐらいこなしていました。1年間で100万円稼いだこともあります」

友人たちの結婚に焦る
彼女の前に現れたのは

 ところが30歳を越えると、大学の同窓生たちが次々と結婚していったという。

「焦りましたね。恋愛経験も少ないし、私は結婚できるのかしらと不安でした。そんなときに通販会社の御曹司と称する男性Aに交際を申し込まれたんです」

 学生時代はラグビーで鍛えたというマッチョで、はきはきと語る清々しい青年実業家に美優さんは夢中になる。

「知り合ってすぐに両親を紹介されたので、本気で結婚を考えてくれていると有頂天になりました。その直後に“会社の将来のための投資だから”とせがまれ、お金を渡すことが続いたんです。今から思うと本当にバカでした」

 額がエスカレートしていくうちに、だんだんと不信感を募らせた美優さん。ところが男性は「いずれ僕と君の会社になるんだから、今から2人で会社の未来をつくっていこう」と言葉巧みにもちかけてきたという。「もう少し」「もう少し」と言われるままに、1年ほどで貢いだ額は600万円──。

「“もう、貯金はないから”と渋ると、彼と連絡が取れなくなってしまったんです」

 そこで美優さんは、男性から渡された名刺の会社に乗り込んだ。するとそこには男性から紹介された両親とは全く別人の父親と母親の姿が。しかも男の実家は通販会社ではなく、家族で経営している小さな町工場だったのだ。

「私が事情を説明すると、2人は関わりたくないといわんばかりに冷淡でした。すぐに警察に通報すると、彼に結婚詐欺の前科があることがわかったんです。私が紹介されたのはレンタル家族。まんまと騙されました」

 1か月もたたないうちに、結婚詐欺の男が逮捕されたと警察から連絡があったが、貢いだお金は一銭も戻らず。このときに、美優さんは貯金だけでなく、結婚に対する期待も失ってしまったという。

「三日三晩泣いて暮らしました。職場の人たちには“結婚する”と言っていたので、やめざるをえなかった。このまま死んでしまいたいと思っていました」

 だが結婚詐欺に遭って自殺するのは、寂しすぎる人生だと気を取り直した美優さんは、3か月後に別の病院に転職した。

「私はもう2度と結婚することはないと思うと、悲しくて仕方がありませんでした。そこで騙されて貢いだお金を取り戻そうと思いました。男に貢いでなくしたなら、今度は男から貢がれるべきだと」

 そこで再び、交際クラブでのパパ活を決意する。ところが30歳を越えた美優さんへの、デートのオファーは激減してしまったのだ。

「女を“ウリ”にする時期が過ぎてしまったと悔しくて仕方ありませんでした。でも交際クラブの担当者から“少し年配になるけど、30歳を過ぎた女性を好む男性もいる”と慰められ、オファーを待っていました。1人、2人とオファーがポツポツと来たころに、詐欺に遭う前にデートしたパパから愛人契約を持ちかけられたんです」

楽なはずの愛人契約に
大切な時間を奪われて

 交際クラブで再会したパパは、従業員150人ほどの特殊な資材を扱う会社の50代の経営者だった。銀座の高級鉄板焼きの店で肉を頬張っていると、月20万円で愛人になってほしいと申し込まれた。

「コンスタントに入ってくるお金が魅力的でした。ゴルフや温泉、海外旅行にも連れて行ってくれるというので、ステータスの高い遊びができると思いました」

 愛人契約を承諾すると、最初は1か月に2回ほどのデート。「1回のデートで10万円なんてラッキー!」と喜んでいた美優さんだったが、だんだん憂うつになってきたという。

「翌月から、1か月に最低3回呼び出されるようになって。ホテルの部屋ですぐに身体を求められ、就寝の前にまた1回、翌朝また1回と、1度のデートで3回のセックスです。しかも相性は最悪。ただただ苦痛でした」

美優さん(仮名)

 50代で性欲の強いパパにうんざりした美優さん。でも愛人契約に縛られ、2月と6月はカジノ好きのパパに同伴してラスベガスやフランスなど海外へ。4泊5日の旅行では、計10回も求められた。パパの絶倫ぶりに、美優さんは心の中で悲鳴を上げていた。

「しかも“ほかの男と会うな”と束縛してきました。スマホをチェックされたこともあります。さらにパパは半年先の予定を組むため、実家の法事など急な予定が入ると不機嫌になってしまうんです。思いやりがないパパにお金で縛られている自分が嫌になって、自己嫌悪に陥ったこともありました」

 ついに3年目、「疲れるから愛人をやめたい」とパパに訴えた。しかし「疲れることなんかしていないでしょう」と開き直られ、さらに「黙って従ってくれればいいんだよ」とスルーされたという。

「あっさりスルーされてから、私自身の気持ちの行き場がなくなってしまいました」

 美優さんは頭を抱えた。パパには有名私立大学に在学中の息子と娘がいた。妻は専業主婦でセックスレスだという。家族愛でつながっている妻とは別れずに夫婦関係をキープしている男にとって、愛人は遊びの相手で、セックスのはけ口だった。美優さんはそれに気づくと絶望したという。

「お金と引き換えに身体だけでなく、30代の貴重な女の時間を差し出してしまったと後悔しました。今度こそ別れようとした矢先、突然パパから別れを切り出されたんです」

愛は簡単に手に入らない

 食道がんになったから、家族のところに戻る。そのため愛人契約を解消すると申し出てきた。

「別れるのはうれしいけど、別れもパパの都合だと思うと悔しくて、診断書を見せてくれと頼みました」

 診断書には間違いなく『食道がん』と記載されていた。愛人契約は4年で終了した。

 ホテルのスイートや高級旅館に宿泊したり、高級飲食店で食事、ゴルフ帰りに温泉旅行、年2回は海外旅行と贅沢な時間を過ごしたにもかかわらず、美優さんにはパパとの思い出がほとんどないという。

「お金ではなく愛情でつながる関係を求めるべきでした」

 と、反省する美優さん。結婚詐欺が教訓にならなかったのは残念だが、男に絶望した女性が安易に愛情を信じられなくなることも理解できる。愛は簡単に手に入らないのだから──。


寄稿/夏目かをる:コラムニスト、作家。2万人のワーキングウーマンの取材をもとに恋愛や婚活、結婚をテーマに執筆活動を行い、自身の難病克服後に医療ライターとしても活躍