出場停止6場所と6か月間50%の報酬減額の懲戒処分を受けた、大関・朝乃山 撮影/marikatu

 日本相撲協会は11日、大関の朝乃山が、協会の定めた「新型コロナウィルス感染症対応ガイドライン」に違反したとして、出場停止6場所と、6か月間50%の報酬減額の懲戒処分を下した。これに相撲ファンの間で、賛否両論が巻き起こっている。

スポーツニッポンの記者は諭旨解雇処分

 発端は「週刊文春」の記事。緊急事態宣言下、朝乃山とスポーツニッポンの東京本社編集局に務める相撲担当の記者が、東京・神楽坂にある行きつけのキャバクラで深夜まで豪遊。ふたりは4月に5回ほど、また5月の本場所を2日後に控えた7日にも夜10時半すぎにキャバクラを訪れ、店の前で張っていた「週刊文春」のカメラに気づいたために別の店へ。そこでも女性を誘って会食したという。

 その後、キャバクラ通いが発覚すると、スポーツニッポンの相撲記者は口裏を合わせることを提案。朝乃山にトレーナーを紹介し、施術を受けていたことにしようと言い、朝乃山は協会からの「キャバクラに行っていたのか?」という聞き取りに「事実無根」を通していた。

 しかし、隠し通せるわけもなく、事実を認めて5月場所は途中休場。引退届けを提出したものの、協会は受理せず、今後何か問題がまた起こったときに受理するとして、処分を決めた。また、スポーツニッポンの記者は諭旨解雇処分となっている。

 こうした対応には相撲協会が本場所開催にあたって作成していた、コロナ対応のガイドラインが元になっている。そこには「不要不急の外出を自粛する。近隣以外への緊急な外出や必要な外出は、師匠が協会に相談した上で行う」とあり、また番付発表後~本場所終了までは原則として外出禁止という厳しい通達もしていたそうだ。力士たちは昨年の3月から1年以上にわたって、ずいぶんと窮屈な生活を強いられているのが現状だ。

 そして出された朝乃山への厳しい処分に相撲ファンたちは、「ルール違反を犯したのだから仕方ない」「1年後に強くなって戻ってきて」という声をあげる一方で、「厳しすぎるのでは?」という声も多数あがっている。

 たとえばツイッターでは、

《もちろんガイドライン違反は個人の甘さだし個人(取り巻き含め)が悪いんだけど、このまま立場や過去の厳罰基準で続けていくと、界隈も殺伐とするし将来入門する子いなくなるよ。力士の一番、一場所の大切さをもっと考えて最適な形に持っていかないと。 皆元力士なんだから分かるでしょうに…》

 と、相撲界全体を鑑みて、この処分は適当か?と心配する声がある。

 また『おとなの一休さん』(Eテレ)などで活躍するイラストレーターの伊野孝行さんは、破戒僧の一休さんに重ねて、こうツイートをした。

《朝乃山は別にそんなに悪いことしたわけじゃない。どこまでいじめりゃ気がすむのよ。世の中の方がよっぽどクレイジーだよ!》

 正直なところ、朝乃山、そんなに悪いことしたっけ? と思う。朝乃山を責める世間だって、緊急事態宣言に飽きて、みんな町に繰り出してるじゃないか?

大関・朝乃山 撮影/marikatu

阿炎と竜電は3場所の出場停止処分

 それに、朝乃山だけじゃない。

 コロナ禍にあって昨年8月、やはり夜の「接待を伴う店で会食をしていた」幕内力士の阿炎が出場停止3場所、5か月間の50%報酬減額の懲戒処分になった。阿炎は7月場所前や、さらに場所中にも4回店に通い、問題発覚後にコンプライアンス委員会からの調査を受けて「7月24日は行っていない」と嘘をついて、同行していた幕下力士に口裏合わせを自ら働きかけている。

 今年1月の初場所中に雀荘に通うなどしていたことが発覚した時津風親方(当時)は、自ら退職届を出して受理されている。その前にも同親方は、地方にゴルフに出かけ、2階級降格処分を受けていた。

 また、朝乃山と同時期に幕内力士の竜電が、妻以外の交際中の女性と会うために昨年3月から今年1月までの本場所中など外出禁止期間に25回にわたって外出をしていたことが判明。こちらは3場所の出場停止処分になっている。

 時津風親方の件は別として、阿炎と竜電は共に3場所の出場停止処分。それに比べると6場所=1年というのは非常に重い。前述した相撲ファンの方のツイートにある「力士の一番、一場所の大切さ」を思うと、これは適当なのか?と思ってしまう。

 そもそも、協会は外出禁止のガイドラインを作成しておきながら、それに違反したときのガイドラインは作っていない。朝日新聞大相撲担当者のツイート(6月11日)によれば、

「朝乃山がうそをついたことに対してコンプライアンス委員会は『相撲協会による処分から逃れることばかりに汲々としていた。そこには、潔さといった大関に求められる品格や、責任の重大さに対する自覚がみじんも感じられない』と厳しく指摘しました」

 と書かれていたが、こうした感情的、また「品格」という実体が不明なものによって処分が決められるとしたら、はなはだ疑問だ。同じような規則違反をしていた阿炎や竜電と処分に大きな違いの理由がそれなら、興行の看板である大関という立場を守らないのか? と逆に問いたくなる。

過酷すぎる処分は違法

 では、法律的には問題はないのだろうか? 今回の処分について、弁護士の山口元一さんにお話を伺った。

「日本相撲協会が協会作成の新型コロナウイルス対策のガイドラインに違反した大関朝乃山に下した出場停止6場所の処分は、朝乃山が大関から陥落し、三段目以下となるものです。同時に6か月間50%の報酬減額も下されました。果たしてこれは適法か? です。

 緊急事態宣言中のキャバクラ通いは、誉められた行動ではないし、ガイドラインには違反しているのでしょうが、所詮は私生活上の行状に過ぎません。

 番付の低下による減収もあわせ、これが仮に労働者に対する懲戒処分であれば、協会の調査に対して一度は否定したこと、看板力士として業界の社会的な評価に一定の責任を負っていることをあわせて考えたとしても、あきらかに行為と処分のバランスを失しており、過酷すぎる処分として違法となると思います

 大相撲の力士は労働者として相撲協会に雇用されているのか、その特別な能力をプロとして提供することを委任しているのか、実は契約があいまいなんだそう。ただ、会社で働く労働者と同じように見て懲戒処分を受けるにしても、今回の処分は明らかに重いという。

 また、「雇用か委任か」という面を捉えて考えるには、たとえば日馬富士の事件の際に白鵬や鶴竜まで減給処分になったのは「労働基準法91条が定める制裁制限の幅を超えていました。これは日本相撲協会が力士所属契約について、雇用契約たる性質を否定していることを示しています」と、労働者として雇用されている面を否定していたんだそう。

 法律はなかなか難しい。とはいえ、山口弁護士は言う。

「そこにはやはり、協会の力士に対する指揮・監督を要素とする支配-被支配の実体が見えます。長い歴史を持つ相撲興行の世界において、全面的に労働関係法制が適用され得るか否かはともかく、日本相撲協会の力士に対する懲戒その他の処分が、法律上何らの制約を受けない、協会の“やりたい放題”になっているのは不合理であると見ます」

 と、ここ最近のこうした処分の在り方には、疑問を呈している。

 ただ、相撲協会へひとつ同情したいのは、こうした処分を決めるコンプライアンス委員会ができたのは2018年12月。前年11月の横綱・日馬富士の事件への対応で相撲協会はひどいバッシングを受け、いち相撲ファンの私自身も大いに傷ついていたところ、今度はその被害者であった貴ノ岩が付け人を殴打する事件が起きて、再び大騒ぎに。委員会が設立され、暴力問題以外でもコンプライアンス委員会が処分を決めることになった。

 力士/親方の事件はその後も何度も起こり、その度に身近な存在である大相撲に対してはテレビのワイドショーやSNSを中心に制裁を求める声が巻き起こり、委員会の規定は厳しさを増していったように思う。

 元々大相撲の世界は大らかで、多少のことには目くじら立てない。スポーツ、興行、神事というほかのスポーツ団体とは一線を画す多様さが魅力であるのに、ひたすら正義を追い求める世論に押されてしまったことは感じる。

 そしてコロナ禍という興行的にも非常に厳しい状況にあって、看板力士を自ら窮地に追い込む形になってしまい、相撲界よ、どこへ行く? と、心配にこそなってくる。

 まずやるべきは、肩の力を抜いて、とりあえず深呼吸。大相撲の大らかな文化を今一度思い出すこと、ではないだろうか?