コロナの中でデビューしたJO1。ファンの熱量はなぜ高く保たれているのか?(写真:LAPONEエンタテインメント/東洋経済オンライン)

 韓国の人気番組「PRODUCE 101」の日本版である男性アーティスト発掘オーディション「PRODUCE 101 JAPAN」。そこで選ばれたメンバーで結成されたのがJO1だ。

 2020年に鳴り物入りでデビューしたが、その直後、新型コロナウイルスの影響で活動に制限が出てしまった。

 コロナ禍の中、コンサートを中止するアーティストも多いが、発生から1年以上たち、お客さんを会場に呼んで行うコンサートを再開するケースも増えている。しかし、JO1は2020年3月のデビュー以来、まだ一度もファンとの対面イベントやコンサートを開催していない。ところが、ファンの熱量を保つことに成功しており、実際にCDセールスも好調だ。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 JO1が所属する吉本興業と韓国エンタメ大手CJ ENMの合弁会社・LAPONEエンタテインメントの取締役 事業本部長の張赫珍(ジャン・ヒョクジン)氏と、吉本でコンテンツ事業を担当する神夏磯秀氏に、前々回前回記事に続き、ファンの熱量を保つ秘訣について話を聞いた。(取材は5月末に実施)

リアルのコンサートができない中で…

 JO1初のオンラインライブは、結成から約1年が経った、昨年12月に開催された。アメリカ、中国、韓国、インドネシアを中心とした約30カ国・約12万人の視聴者を集めた。2021年冬には初のツアーを開催することが決定しているが、会場や日程はまだ非公開だ。

「たまたま、デビューのタイミングで新型コロナウイルスが流行してしまい、とても歯がゆかったです。会社としても、なるべく早くファンと会わせてあげたかった。メンバーも、直接ファンと触れあえていないので、ちゃんと応援されているのか、どこか不安に思ってしまう部分があるようなんですね。

 ただ、初めてコンサートをする会場は彼らにふさわしい場であってほしいとも考えて、開催場所やタイミングは慎重に議論していました」(ジャン氏)

 グローバルボーイズグループとして活動すべく、LAやパリ、NYでの活動展開まで計画をつめていたそうだが、コロナの影響ですべて白紙になってしまったという。

「(コロナが)収束したら再度プロジェクトを動かしたいです。海外のファンもたくさんいますし、いろんな土地を回りたいですね」(ジャン氏)

どうやってファンの熱をキープしているのか

 コロナの影響で現場でのリアルのふれあいがない中、どうやってファンの熱をキープしているのか。その背景には圧倒的な情報発信があった。

「ファンをどんどん増やしていくことが大事で、プロモーションにもっとも有効なのがSNSです。速報ベースで、メンバーの動きを徹底的に伝えています。また、JO1の記念日、メンバーの誕生日などは必ずメンバーのコメントを出しますし、パフォーマンスとは違う面をどんどん見せていきます」(ジャン氏)

 メディア露出については事前告知があるが、予告なしで突然始まるInstagramのライブ配信も積極的に行う。ある日は、メンバーがランチを食べながらのんびりおしゃべりしていたのだが、配信開始直後に1万9000人を集めていた。動向が気になって「今日配信があるかも?」と、頻繁にJO1のことを考えてしまうファンも多いだろう。

「われわれは、ファンの動向をつねに数字で見ています。JO1の主力ファン層は若いですが、熱量が高い。おそらく、デビューする前の一般人のときからずっとリアルタイムで成長を目撃してきたというところが大きく、ファンの心を深く掴んでいるのでしょう」(ジャン氏)

 これだけ熱心なファンを多数掴んでいるだけに、マーチャンダイズの収益もさぞ大きいのだろう。しかし、尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「ファンが息切れして疲れてしまってはいけないので、経済的な負担をかけないよう、グッズやリリースタイミングも無理ないように調整をしています」(ジャン氏)

 今年はリアルでのコンサート開催が叶わなかったので、ビジネスのメイン収益は、シングル・アルバムの音楽売り上げなのだという。

 CD購入者特典として、「ヨントン」と呼ばれるオンラインお話し会の実施のほか、タワーレコードと組み、限定の配信ライブも開催。リアルイベントの場合は会場のキャパシティの限界があるが、オンラインなら制約がない。実際に、1回のイベントでCD数万枚を売り上げるという。

 JO1は、企業とのコラボレーション施策も多数実施。国内大手企業のみならず、ルイ・ヴィトンやイヴ・サンローラン・ボーテなどの世界的高級ブランドとも手を組んでいる。

「大きな企業さんとのコラボについては、日本で長年やってきた吉本興業の力が大きいです。企業も、新人アイドルを広告起用する際には、最初は半信半疑だと思います。

 JO1については10代20代の動画再生回数が多く、結果がすぐついてきました。それ以降も各社に積極的に起用していただいているのではないでしょうか。ありがたいですね」(ジャン氏)

ファンになった人たちの現在

 実際に、JO1を応援するファンにも話を聞いた。「これまでの人生で、初めてオタクになりました」と語るのは、白岩瑠姫さんファンの高田さん(仮名・20代会社員女性)だ。

「私はもともと、『芸能人に会える』という発想がなかったので、コロナで現場がなくても耐性があるのかもしれません。ただ、CD発売のたびにヨントン(オンラインお話し会)に参加し、いつも何をお話ししようか考え抜いて質問しています。参加に必要なCDは、毎回20〜30枚買っていますね」(高田さん)

 さまざまな男性アーティストがいる中で、なぜJO1のファンになったのか。

「K-POPでもジャニーズでもないし、不思議なんですよね。まだ歴史もないから、ファンコミュニティも細かなしきたりがないのも魅力。みんなで一から作り上げて応援していくのが楽しみなんです」(高田さん)

鶴房汐恩さんを推す長山さんの私物(写真:長山さん提供/東洋経済オンライン)

 メインは10代20代のファンだが、「アイドルに興味を持ったことがなかったのに、急にJO1沼にハマりました」と語る30代もいる。オーディションの序盤で、鶴房汐恩さんに心を射抜かれたという長山さん(仮名・会社員女性)の生活は、JO1を中心に回っているのだという。

「JO1は毎日、何かしらの動きがあるんです。TV番組出演やインスタライブ、YouTube公開など、追っていると日々があっという間。地上波出演後には、番組チェックだけでなく『新規ファン、ちゃんと獲得できたかな?』と、SNSでメンバーの名前を検索して、初見の方の感想を眺めることも」(長山さん)

 コロナ禍で友達にも会えず、旅行もできない鬱屈とした毎日のなかで、JO1が光だったという。2020年はコンサートがない中で、約31万円をJO1のCDやグッズに課金したそうだ。

長山さんのグッズの一部(写真:長山さん提供/東洋経済オンライン)

「ちょうど今日は、新グッズの発売日だったんです。受注販売だからいつアクセスしてもいいのに、受付開始直後にサーバーが落ちていました。みんな、課金したくてうずうずしているんだと思います。

 先日、『事務所にダンススタジオができた』とメンバーが喜んでいて。私たちが課金したお金が、彼らにしっかりと還元されているのだと思うととても嬉しいし、無駄遣いじゃないって思えるんです」(長山さん)

ファン同士のLINEも欠かさない

 さらには、メンバーが番組ロケで訪れた店にも聖地巡礼。毎日、推しのよいところを語り合うファン同士のLINEも欠かさないのだという。

「ファン同士でLINEで語り合いたいがために、推している部分もあります。なにか更新されるたびに盛り上がるし、コロナ禍での孤独から救ってもらっていますね」(長山さん)

 もともと、番組が視聴者投票システムだったこともあり、ファン同士で選挙対策本部のような強固なコミュニティがあったのも大きいそうだ。そんな今、ファンが求めることはーー。

「JO1のみんなには、なによりも心身の健康を大切にしてほしいです。できるだけ長く、11人で活動してもらいたい。そして、やっぱり早く会いたいですね。コンサートを待ち望んでいます」(長山さん)


小沢 あや(おざわ あや)Aya Ozawa   ◎コンテンツプランナー 、 編集者
音楽レーベルで営業とPRを経験後、IT企業を経て、2018年に独立。エッセイのほか、女性アイドルやミュージシャン、経営者のインタビューを多数執筆。Engadget日本版にて「ワーママのガジェット育児日記」連載中。豊島区公認の池袋愛好家としても活動している。