東京五輪開催の是非を23区に直撃

 東京五輪の開会まで残り1か月となった。6月20日には東京都の緊急事態宣言が解除され、自粛は緩和された。

 しかし都内では新型コロナウイルスの混乱が収束したとは言い難く、国民からは開催に対して根強い反対論が巻き起こっている。

 そこで週刊女性は6月15日~6月18日の期間、東京23区の区長に対して、五輪開催に「賛成」「反対」または「その他(理由つきで)」を問うアンケート調査を行った。

 五輪の開催については国や都に判断の権限があるため、区長は拒否することができない。しかし、区長には同時に区民の命を守る責務がある。

 地域単位で五輪の開催に表明した取り組みとしては、東京都小金井市の議会が話題となっていた。

 小金井市の議会は6月3日、「東京オリンピック・パラリンピック開催の中止を求める意見書」を賛成多数で可決した。全国の議会で初めて、五輪の中止要請を求めたのだ。

 同じくコロナ禍での開催強行について、開催の中心地である23区の区長たちは、本音ではどう考えているのだろうか……。

 国立感染症研究所は6月15日、コロナ感染に関する試算を公表した。

 試算では、6月に緊急事態宣言を解除することで、7月末~8月に1日1000人規模の感染者の山がくると示している。

死人が出ても仕方ない

 そんな状態でなぜ宣言を解除するのか? 長年、五輪の問題点を指摘している著述家の本間龍さんによると、

今宣言を解除するのは、明らかに五輪の開催に合わせたもの。五輪があることでさまざまな対処が甘くなり、夏以降、また緊急事態宣言を出さなければならなくなるかもしれない。そうすれば、経済的な損失も数兆円規模になるでしょうね

 それだけではなく、

夏は熱中症患者が増えることから、例年、医療機関に負担がかかる。そこにコロナも加わる。政府は、ある程度なら死人が出ても仕方ないと考えているとしか思えません

 会場でのコロナ対策も十分とは言えないという。

「アスリートに対しては厳しくルールを決めているので、ある程度は感染を防げるかもしれません。

 問題は、参加するボランティアです。彼らは希望すれば組織委員会からワクチン接種を受けられますが、対象者は通訳や選手の荷物を持つ人など選手の身の回りの人に限られており、全ての人が打てるわけではない。選手と違って隔離されずに自宅に帰るので、意味がない」

 接種のハードルも高く、

ボランティア向けのワクチン接種は6月18日に始まりましたが、会場は現在のところ、東京に1か所あるだけ。ここに全国のボランティアが2回も打ちに来られるわけがありません

 その他、海外から来たメディアやスポンサー関係者は街を自由に動き回れるうえ、実効性のある規制もないため感染拡大の危険性は高いという。

 ところが政府の危機感は薄く、6月17日の記者会見で菅義偉首相は、会場に観客を入れて開催する意向を表明。

菅義偉首相

 翌日にコロナ分科会の尾身茂会長が「主催者や政府、開催地が一体となって取り組むべき感染対策がほとんど議論されてこなかった」と批判する事態に発展している。

23区の区長が出した答え

 そんな状況下で、東京23区の区長たちはアンケートにどう答えたのか。

 集計したところ、「賛成」したのは7区で、江東区、墨田区、千代田区、目黒区、港区、江戸川区、大田区

「その他」と回答し賛成と明言することは避けたものの、開催に前向きな意見を寄せたのが、杉並区、中央区、北区、世田谷区だ。

 ほかに「(判断は)検討中」「感染状況を見て決める」などという回答をしたのが葛飾区、板橋区、台東区、文京区

「回答する立場にない」と意見を明言しなかったのは中野区、荒川区、足立区だ。

 その中で足立区だけは開催の賛否については語らずも、「小・中学生の会場での観戦など(安全性が)不透明な部分も多く、苦慮しています」と23区で唯一、開催についての危険性を懸念する考えを示した。

 豊島区、新宿区、練馬区、渋谷区、品川区からは回答がなかった。

 そして驚くことに、「反対」を表明した区はゼロだった。

 住民の命が深刻な危険にさらされるという危機感のある首長はいないということなのだろうか……。

 この結果に本間さんは、

「想像どおりの結果ですね。とにかく政府は、やりさえすれば成功と言う。区長たちの回答からは、国や都が責任を取るから自分たちは判断しないという考えが感じられますね」

 賛成した自治体については、

「江東区は五輪会場となる施設が最も多い区です。他の賛成する区も、五輪の会場があるところがほとんど。

 中止になれば本番に向けてさまざまな準備をしてきた予算もムダになるため、批判にさらされてしまう。今さら反対しても仕方がないということでしょう」

 感染拡大が収まらない状況下で強行開催される東京五輪。もはや、自分の命は自分で守るしかないようだ。

開催「反対」の区長はゼロという結果に

賛成
・江東区
現在、国、東京都、組織委員会において、選手・大会関係者の行動管理や健康管理の徹底、地域医療へ影響が生じない医療・検査体制の整備などに取り組んでいる。江東区は、現下の状況においては、まずは感染防止に全力を挙げ、区民にとって安全安心な大会が開催されることが何より大事なことと考えている。

・墨田区
現在、国を挙げて安全・安心な大会の実現に向けて取り組んでいますので、開催に反対する考えはありません。

・千代田区
区民や来訪されるすべての皆様、そしてアスリートの皆様の安全・安心に対し、万全の体制を整え大会を迎えるのが私たちの責務と考えています。

・目黒区
コロナ禍の中での開催については、様々な意見があることは承知しております。政府や組織委員会、東京都等では、感染症に関する専門家の意見を踏まえ、大会開催による感染防止策等が検討されており、安全・安心な大会が開催できることと考えております。

・港区
五輪は万全の感染防止対策のもとで行われるべきである。区は、これまで地域とともに、スポーツ振興や文化プログラムの実施、各国の文化紹介などに取り組んできた。五輪開催地の東京や日本の魅力が世界に発信され、各国の情報ももたらされることで、複雑化する世界情勢の中での相互理解や国際交流が深まることを期待する。

・江戸川区
区民の安全・安心が守られることが前提。開催都市としての役割を果たすことが大切であるため。

・大田区
オリンピック・パラリンピックは、国際的な相互理解や友好関係を増進させ、平和・共生社会・環境などに配慮した崇高な理念に基づく世界最大のスポーツの祭典です。大会開催には、安全・安心な環境を整えることが重要です。国や東京都、大会組織委員会は、選手や大会関係者の水際対策の徹底や行動制限、健康管理など、新型コロナウイルスの感染予防策を徹底して行うこととしており、選手等だけでなく国民にも感染が広がらないよう十分配慮した対応がなされると考えています。

その他(実質賛成)
・北区
大会開催に向け、感染症対策について万全を期すよう特別区長会を通じて、国と東京都に求めているところであり、引き続き、感染状況を注視しながら、関係団体と連携を図り、感染症対策の徹底に向けた取組を進めていきます。
理由:新型コロナウイルスの感染防止のために万全の対策を講じることが前提と考えているため。

・中央区
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい国民生活に甚大な影響を与えています。その中で迎える事になる2020大会。人々の安心安全を守るためにあらゆる努力を惜しまず、感染症の災禍を乗り越えて、最大限の安心安全な環境を整える事が第一です。その上で、オリンピック・パラリンピック憲章にある、すべての人々の平和への希求、スポーツをするすべての人々の人権表現である四年に一度の人間の可能性への挑戦を、友情、連帯、フェアプレー精神と共に、コロナに打ち勝つ象徴的事業として、人知を結集して実施すべきと考えます。

・杉並区
中止の判断が出てない以上、粛々と進めていく。
理由:招致に関しては、都議会等で民主主義の原理に基づき決定された内容であるので、杉並区としては、区ができることを行っていく

・世田谷区
区はオリンピックの開催の可否について判断する立場にないが感染防止対策を万全にし、リスクを最小限にすることを最優先に東京2020大会に向けて役割を果たしていきたい。

5区の区長が無回答

その他(検討中)
・葛飾区
五輪開催有無は都が判断する事項であり、どちらに決まっても、区は都と連携して対処していく予定です。もし開催することとなった場合は、本区が関わるパブリックビューイングや聖火リレーなどについては、国、都の動向や感染対策の方法などを見極めた上で、実施可否を判断する予定です。

・板橋区
東京2020大会の開催については、感染の状況やその拡大防止対策などを十分に考慮したうえで、総合的に判断されるものと考えている。

・杉並区
中止の判断が出てない以上、粛々と進めていく。
理由:招致に関しては、都議会等で民主主義の原理に基づき決定された内容であるので、杉並区としては、区ができることを行っていく

・台東区
組織委員会が国と東京都とともに様々な対策を進めており、区として引き続き、情報収集を行って参ります。

・文京区
新型コロナウイルス感染の状況に応じ、決定されるべき
理由:新型コロナ感染症対策を踏まえ、大会組織委員会、国、都などの関係機関の動向を注視しながら、取組を進めていくため。

その他(明言せず)
・荒川区
五輪について、賛成・反対を示す立場にない。五輪の開催については、国や都、また組織委員会において、適切な判断・対応がなされるものと考える。

・中野区
東京オリンピック・パラリンピックの開催に、賛成・反対の考えを示す立場にないと認識している。今は、中野区としてできる新型コロナウイルス感染症拡大防止の取組や円滑なワクチン接種の実施、そして感染症の影響による生活困窮など区民や区内事業者の支援に全力を尽くす思いである。

・足立区
区内の感染者は減少傾向ですが、区民の健康と安全安心 への影響を懸念しています 。 開催については、組織委員会と東京都の判断と認識しており ますが 、 例えば小・中学校 の児童生徒の会場での観戦など不透明な部分も多く、苦慮しています。

無回答
・練馬区、新宿区、豊島区、品川区、渋谷区