“新型コロナへの切り札”といわれ世界中で接種が進むワクチン。日本でもかなり接種数が増えてきたがそれに伴い、嘘かまことかわからない副反応などの噂も……。ワクチンの専門家が集まり、新型コロナワクチンに関する情報を開示していくプロジェクト『こびナビ』の副代表・木下喬弘先生が、噂の真偽を解説!

※写真はイメージです

<噂1>
ファイザーのワクチンは脳出血を起こしやすく、死亡者も出た

 日本でワクチン接種後、4日後に基礎疾患のない26歳の女性が脳出血で亡くなったことが報告された。アメリカでも同様の脳出血の報告はあったというが……。

「アメリカでは2億回以上、ファイザーのmRNAワクチンが打たれていますが、脳出血が増えたという報告は一切ありません」

 と、木下先生。

「ワクチンを打ったあとにたまたま脳出血を起こした可能性が高く、因果関係の誤解釈でしょう」(木下先生、以下同)

 だが、死亡者が出たと聞けば不安になるのも当たり前。

「ワクチンを打ったあとに起きた、すべての体調不良を『有害事象』といいます。例えば、ワクチンを打ったあとに交通事故に遭ったことも『有害事象』です。これはワクチンが原因でないことは明らかです。脳出血のケースもこういった『有害事象』のひとつでしょう。一方、ワクチンが原因と考えられるものを『副反応』といいます」

 何かが起きたとき、『有害事象』か『副反応』なのかを見極めることが大切だという。

「アメリカには『有害事象報告システム』というのがあり、体調不良などが自然発生件数より多いかどうかを調べ、チェックしていきます。これは医師だけでなく、患者も報告でき、膨大な報告を基にワクチンと体調不良の因果関係を解明していきます。その結果、今のところ脳出血は『副反応』ではないといえます」

<噂2>
ファイザーワクチンの接種者の呼気や汗で抗原曝露が起こる

 抗原曝露(こうげんばくろ)とは、ワクチン内の抗原(病原性をなくした病原体や、毒素の全部、または一部分のこと)で接種者の周囲の人に感染するというもの。

「これは治験のときのプロトコル(治験実施計画書)にそれらしいことが書いてあり、それが元ネタになっています」

 ワクチン承認前、アメリカではファイザーで4万人、モデルナで3万人ほどが治験に参加した。

「今回のワクチンは、人類史上初めて承認されるタイプの薬。なので、ワクチンの薬液に周囲の人が触れてしまった場合や、接種した人のパートナーが妊娠した場合は、安全性を確認するためファイザーに報告してください、とプロトコルに書いてあるんです」

 こういった文章はお決まりの文言で、新型コロナのワクチンに限ったものではない。

「この噂の原因は、英語で書かれた文章の誤訳です。接種者の汗や呼気で感染することは、もちろんありません。

 薬液に直接触れた人がいたら報告してくださいと書いてあることが、なぜか接種者の周囲の人がワクチンの抗原で無症状感染者になるという話に変わってしまった。誤訳からの伝言ゲームで、どんどん変わってしまったのでは。これは完全にデマです」

<噂3>
アストラゼネカのワクチンは30代女性に血栓ができやすい

 アストラゼネカのワクチンは、今年の4月にヨーロッパで使用を中止したというニュースもあった。

「この噂はデマではありません。そもそも日本でもアストラゼネカのワクチンは承認されましたが、任意接種ということで、医者がよほど望まない限り打たないことになっています」

 そんな薬が承認されたということが驚きだが、木下先生はこう説明する。

「もともとワクチンは副反応がゼロということはありえません。アストラゼネカについては、10万回に1回くらいの確率で血栓症が起きる人がいる、ということがわかっています。パーセンテージでいうと0・001%。

 実際にコロナに感染すると血栓症はもっと高い確率で起こります。コロナで血栓症になるほうがよほど怖い、ということでイギリスでは使い続けています」

 なぜ30代の女性に多いのか、については、

「その理由はまだわかっていません。ヨーロッパで血栓症を確認できた19人のうち13人が女性で、ほとんどが50歳以下。30代が多かったのは事実です。なので、ドイツやイタリアでは60歳以上にしか使用しないことを決めていて、イギリスは40歳以上と定めています。血栓症が起きやすい年代を避ければ、10万分の1よりも確率を減らせますから。ワクチンを打つメリットとデメリットのバランスを考えながら、安全に接種しようということです」

<噂4>
ワクチンを接種した男性と性交渉をした女性は不妊症になる

「ワクチンを打つと女性が不妊になるという噂は、特に多く流れたデマなんです。この噂はそこから分かれた“変異種”だと思います」

 そのデマの出元はとんでもなかった。

「ファイザー社元副社長のマイケル・イードンという人です。会社を辞めてから“このワクチンの怖さをこっそり教えます”みたいな雰囲気で、動画で暴露したんです」

 ファイザーといえば、世界中で打たれているワクチンの製造元。元幹部が話す内容なら、信憑性が高いと感じてしまうのは当然といえる。

「彼は子宮の中で胎盤を形成するタンパク質と、ワクチンで作らせたコロナウイルスのスパイクタンパク質の構造が似ている、と言ったんです。なので、ワクチンで作られた抗体が胎盤を作るタンパク質も攻撃して壊してしまうので、不妊症になると主張しました」

 スパイクタンパク質とは、ウイルスが人間の細胞に取り入るときに使う部分。ワクチンにはその“設計図”が入っていて、体内で作らせた偽のスパイクタンパク質を免疫で攻撃させることで、抗体を作る仕組みだ。

「タンパク質の構造が似ていれば、免疫が働くことも考えられます。しかし、そこはちゃんと研究されていて、スパイクタンパク質と胎盤のタンパク質は似ている部分もありますが、違う部分のほうが多いんです。

 実際、抗体は胎盤のタンパク質を攻撃しません。まったくのデマです」

<噂5>
mRNAワクチンは人為的に作られたもので、人間のDNAを改変する

 アメリカではこの話を信じた薬剤師がワクチンを容器ごと常温で放置し、効果を失わせ免許停止処分になった。

「簡単にDNAについて説明しますと、細胞の核という部分に入っていて“人のつくり方”が書いてある設計図の本のようなものと思ってください。それをもとにしてタンパク質を組み合わせて、身体のさまざまな部分を作っていきます」

 核とはいわばDNAを守っている金庫のようなもの。その中で皮膚なら皮膚、髪の毛なら髪の毛の設計図の部分をコピーし、そのコピーしたものを使って核の外で作っていく。

「今回のmRNAワクチンは、コロナウイルスのスパイクタンパク質の設計図を細胞に送り、作らせるもの。このmRNAというのは非常に脆くて、体内では長くても半日くらいで壊れてしまいます。

 壊れやすいうえに、DNAは核で守られていて、そこからコピーは出せますが、逆に情報を差し込むことはできません。一方通行なんです」

 作られたスパイクタンパク質も、10日ほどでなくなる。だから、長期にわたっての影響もないという。

「人のDNAを変えるなんて、そんな簡単にできることではありません。可能だとすれば、タバコを吸うこと(笑)。喫煙によってDNAが傷つき、がんなどを引き起こします。そちらのほうを心配してほしいです」

 ワクチン接種が進む中、最終的にワクチンを打つ、打たないは個人が決めること。悩んでいる人に木下先生はこんなメッセージを。

「若い人で重症化する人が少ないというのは事実です。でも感染して長期間の味覚障害などの後遺症が出ることもありますし、高齢のご両親などにうつしてしまい、それが原因で亡くなるという可能性もあります。

 今回のワクチンは非常に有効性が高いです。できる限り多くの人が速やかに接種することが、長引く緊急事態宣言や日本経済の停滞を終わらせるためには必要なことだと思います

木下喬弘(きのした・たかひろ)/救急専門医、外傷専門医、公衆衛生学修士。日本のHPVワクチンに関する医療政策研究で、'20年にハーバード公衆衛生大学院卒業賞を受賞。『こびナビ』の副代表を務める。
☆コロナワクチンのデマや、さまざまな情報についての詳細を『こびナビ』https://covnavi.jpで検索できます

《取材・文/蒔田稔》