結婚詐欺に遭った後、非婚を誓って10年不倫。居心地のよさを感じた関係は、時の流れとともに変わってしまい……。

結婚詐欺に遭った後、非婚を誓ったという環奈さん(仮名・46歳)

 医者や弁護士、公務員などは婚活市場で女性からの人気の職業だ。高年収で社会的な地位も高く、いわゆるハイスぺ男性はいつの時代でもモテるが、そこにつけ込んだ結婚詐欺被害も後を絶たない。

有名大学病院勤務の医師をかたった男

 13年前に医者を装う巧妙な手口の男性(当時40歳)に騙された環奈さん(仮名・46歳)は、当時のことを振り返る。

「東京で開かれた、出会い系のパーティーで知り合った男性のSNSのプロフィールには、職業が有名大学病院勤務の医師とありました。写真は白衣の後ろ姿で、フォロワーや友達のほとんどが医療関係者。話も医局をはじめとする病院の状況があまりにもリアルだったので、つい信じてしまったんです」

 29歳のときに恋人と別れた環奈さんは、結婚に焦るものの、理想の男性に会えないまま30歳を過ぎてしまった。

「3年付き合って別れた恋人は大手企業のサラリーマン。彼と結婚すると信じていましたが、“君とは家柄が釣り合わない”と別れを切り出され、彼は資産家の親を持つ女性と結婚したんです。ショックでした。だから彼よりも、もっといい男を見つけようと必死になっていたんです」

 医者と偽った男性は、長身でがっちりした体格のスポーツマンタイプ。医者同士でフットサルのチームを作っていると語り、SNSでもフットサルの試合の写真が掲載されていた。

「父親が名古屋で開業医をしているといって、名古屋まで連れていってもらい、ホテルで父親と会食しました。おそらく便利屋にでも依頼して、芝居を打ってもらったんでしょう」

 名古屋から東京に戻ってくると、男性は「新居を契約した」と環奈さんにプロポーズ。新居は郊外で緑に囲まれた、セレブ層が多く居住する瀟洒なマンション。その写真を見せられてうっとりしたという。

「マンションの敷金・礼金を彼が払ったと言いました。大学病院勤務の彼の月収はあまり多くなかったので、彼から月々の家賃は“君のカードで支払うことにしよう”と持ちかけられたんです。“結婚したら金の管理は任せる”と頼りにされて、すっかり信用してしまいました。彼の言うままにクレジットカードを渡すと、現金100万円をキャッシングされたんです」

 男性と連絡が取れなくなった環奈さんは、病院に電話をするが「そのような医師はいません」と交換台の女性にあっさりと言われてパニックになった。やっと気を取り直して警察に通報。まもなく男性は逮捕されたが、金銭だけでなく愛情も信頼も、そして将来の夢もズタズタにされた。

「34歳直前でした。結婚に絶望した私は、非婚を決意したんです」

複数男性との交際の果てに気づいたこと

 そのためには、キャリアアップが必要だと気づいた環奈さん。当時、IT企業の営業職で年収は500万円だったが、さらに高年収を目指して、語学学校に通い始めた。

「平日の夜に2回、土曜に1回のレッスンは、とても楽しかった。レッスンが終わると、同じクラスの人たちと飲みに行くこともありました。そこで仲よくなった5歳上の既婚者と不倫関係になったんです」

 この関係を皮切りに、非婚を決めた環奈さんは、恋愛に対して大胆に。独身、既婚を問わず、複数の男性とデート。中には出会ったその日の夜にホテルに直行したことも。

「そんな生活の中、35歳のときに同窓会に初めて参加しました。すると、隣のクラスだった男性から“結婚を前提に付き合いたい”と言われたんです。彼には感謝していますが、私の気持ちはすでに結婚から離れてしまっていたので、断りました」

 結婚という縛りから解放されたら、恋愛を楽しみたくなったという環奈さん。期待されても困るので、このことをきっかけに付き合う相手を選ぶようにした。

「残ったのが商社マンの彼でした。長身でお笑いコンビ『和牛』の川西賢志郎さんに少し似たルックス。話は面白くて、センスのあるレストランで食事をごちそうしてくれました。海外から帰国するたびに素敵なプレゼントをもらっているうちに、だんだん好きになっていったんです。彼から“一生付き合ってくれ”と頼まれたので、彼の愛人になることにしました」

 リーマンショックを無事乗り越えた彼の会社で、彼は出世コースに乗った。デートは月に2~3回ぐらい。2人で都内の飲食店でグルメ巡りをしてから、ホテルへ。また年に2回は国内外に旅行。食事代もホテル代も、旅費もすべて彼が出してくれた。商社マンとの不倫は、まさに非日常の連続で楽しかったという。

不倫相手とのツーショット。“割り切った関係”のまま続いていくと思っていた環奈さんだが、潮目が変わると……

「語学学校に通い続けた私は、TOEICも800点以上になり、英会話も上達しました。40歳前には英語力を生かして、海外法人が顧客の金融系の会社に転職できたので、収入もアップしました」

 “生涯おひとりさま”を念頭に入れて、転職してからは、人が嫌がるような仕事も引き受けた環奈さん。同級生の女性たちは子育てなどが一段落し、第2の人生を楽しもうと模索していた。そんな中、環奈さんはひとりで生きていくために必死だった。

「私のように結婚しない女はマイノリティーかもしれません。でも忙しいことは決して悪いことではないと思いました。結婚詐欺のトラウマもいつの間にか消えていたし、仕事も充実して自分の居場所も見つかりました。そのうえ、彼ともとても楽しく付き合っていましたから」

不倫相手の環境の変化がもたらした“結末”

 充実した日々を送っていた環奈さん。ところが不倫相手が50歳になると、現場から離れて内勤に。すると、暇になった彼から毎日のようにLINEが届くようになった。

「頻繁に食事の誘いがありました。でも私のほうは人事異動で部署が変わり、面倒を見なければならない部下が増えて残業も多くなったので、彼のお誘いも断るようになったんです」

 さらに彼は部内の権力闘争に巻き込まれ、敗北。翌年には社史編纂という閑職の部署に飛ばされてしまった。

「彼はプライドが高いので、異動を話してくれたのはかなり時間がたってからでした。きっかけは70歳以上の高齢男性と、うまくコミュニケーションをとる方法を彼から聞かれたときでした。

 様子が変だったので“どうしたの?”と尋ねると、社史編纂室には、70代の元社長と元会長の2人の長老のほか、60代の男性が在職し、50代の自分が“若手”だと自嘲していたんです。その様子が明るい彼から想像できなくて。慰めていいのかどうかも迷いましたね」

 少しずつ不倫相手の彼との間にすきま風が吹き始めたころに、世の中はコロナ禍になってしまったという。

「私の仕事はPC1台あれば、どこでもできます。また、人材育成も担っているので、在宅でできる育成プログラムの作成などの仕事が増えました。コロナ禍でも忙しかったですね」

 一方の彼もリモートが進み、在宅での仕事が増えたという。子どもたちが大学を卒業し、社会人になり家を出たことで、家の中の雰囲気も変わっていく。妻と家で過ごす時間が長くなるうちに、夫婦仲が悪化していったのだ。このことが環奈さんとの関係にも大きな影響を与えた。

「彼から私と過ごす時間が愛おしいと、毎日のようにLINEが届きます。コロナで飲食店が休業したり時短になったため、デートする機会が少なくなると、私のマンションで、私の手料理を食べたいと言いだすんです。不倫相手の彼を自宅に招きたくないので“奥さんに食事を作ってもらって”と断ると、彼は“今まで君に尽くしてきたのに”と不平不満をLINEで毎日送ってきて……。困っています」

 男性は10年も付き合ってきたのにとグチり、

「そんなひどいことを言うなら付き合った10年を返してくれ」と逆ギレしたり、「妻と別れるから結婚してくれ」とプロポーズするなど、居心地のよかったはずの彼との関係が壊れていくのがわかった。

 どうしたものかとため息をつく環奈さん。非婚を決めて不倫相手と楽しい時間を過ごしてきたが、付き合いが長くなると、相手の人生にも深入りしてしまうことに気づかなかった。愛人関係も長くなると、ドライに割り切れるものではないのだろう。

「不倫相手とも別れて、正真正銘、ひとりで生きていくつもり。彼がすんなりと別れてくれるとは思えないけど」

 コロナが収束するまでの間、彼をなだめようとしているが、「それも面倒」と環奈さん。彼との関係は、彼女の中ではとっくに終わっていた。彼がこの事実に気がつくとき、環奈さんが手にするのは「自由」かそれとも……。


寄稿/夏目かをる:コラムニスト、作家。2万人のワーキングウーマンの取材をもとに恋愛や婚活、結婚をテーマに執筆活動を。自身の難病克服後に医療ライターとしても活躍。