『アタック25』の司会を務める谷原章介

 6月24日朝、「パネルクイズ アタック25」(朝日放送・テレビ朝日系)が今秋で放送終了することが報じられました。現在放送中のクイズ番組で最も長い46年の歴史を持つ長寿番組だけに、Yahoo!ニュースのコメントランキング(エンタメ)で1位になるなど、大きな反響を集めています。

 特筆すべきは、その大半が「残念です」「これはショック」「家族で見られる良質なコンテンツだった」「日曜の楽しみが1つ減りました」「いつか出たいね、なんて話もしてました……」などと番組終了を惜しむ声ばかりだったこと。「完全な愚策」「テレビ局の迷走が止まらない」などの強烈な批判はあっても、番組終了を肯定するような声はほとんど見かけませんでした。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 より視聴率獲得が求められるゴールデン・プライム帯の番組ならともかく、日曜昼すぎの長寿番組にも、打ち切りの波が押し寄せていることに驚いた人も多かったようです。はたして惜しむ声や批判で一色の「アタック25」終了は、テレビ局にとって妥当な策なのでしょうか。

視聴者参加番組は“ほぼ絶滅”へ

「アタック25」は、「4人の解答者がオセロゲーム形式で25枚のパネルを奪い合う」という形式のクイズ番組。正統派の早押しクイズをベースにしながらも、パネルを取る戦略性、アタックチャンスでの逆転劇、豪華旅行をかけた最終問題など、エンタメ度の高さで根強い人気を得続けてきました。

 そのエンタメ度の高さを演出していたのが、視聴者参加型の番組形式。今回のコメントにも「他のクイズ番組と違って一般人のリアルな反応が見られて面白い」とあったように、一般人の一喜一憂する姿が魅力の1つとなっていました。

「アタック25」の歴史を振り返ると、番組スタートは1975年ですが、1970年代から1980年代は視聴者参加型クイズ番組の全盛期。「アップダウンクイズ」(TBS系)、「ベルトクイズQ&Q」(TBS系)、「クイズタイムショック」(テレビ朝日系)、「クイズ100人に聞きました」(TBS系)、「アメリカ横断ウルトラクイズ」(日本テレビ系)などが放送されていました。

 1980年代半ばから芸能人が解答者のクイズ番組が増えて、視聴者参加型のクイズ番組が激減し、1990年以降の「アタック25」は、しばしば“最後の砦”と呼ばれる存在になりました。2017年12月に「99人の壁」(フジテレビ系)が90人超の一般参加者を集める形式でスタートしたものの、現在は大幅にリニューアル。ホームページ上に応募フォームこそありますが、チャレンジャー(センターステージ)は番組側がスカウトするケースが多く、ブロッカー(壁)も各テーマの専門家をそろえるなど、ほとんど視聴者参加型のクイズ番組ではなくなってしまいました。

「アタック25」の終了は単に「放送期間の長いクイズ番組が終わる」というだけでなく、「純粋な視聴者参加クイズ番組が消滅してしまう」ことになるのです。

 このところ関西のローカルタレントを集めた「芸能人大会」ばかりになっていたことから、一部で「コロナ禍の影響で仕方がない」という声も上がっていますが、それは大きな問題ではないでしょう。

 たった4人の出場者なら現状レベルの感染予防対策でも十分収録できるはずですし、システム的にリモート対戦することも可能。また、コロナはいずれ収束へ向かうことが予想されているだけに、「長寿番組を終わらせる」のではなく、「一時休止する」という選択肢も考えられるからです。

むしろ世間でクイズは流行っている

 では、「人々の間でクイズの人気はないのか」と言えば、答えはノー。

「みんなで早押しクイズ」などのクイズアプリが小学生から中高年層までの幅広い層に楽しまれているほか、伊沢拓司さん率いるQuizKnock(クイズノック)はYouTubeチャンネル登録者数163万人・視聴回数12.5億回超など、その人気は絶大。また、松丸亮吾さんを中心にした謎解きや、「東大王」(TBS系)のブーム、クイズイベントの開催やクイズカフェの存在なども含めて、さまざまな面での盛り上がりが見られます。

「アタック25」への応募も多く、筆記テストと面接を突破するのは至難の業で、それどころか「予選会にすら参加できない」という人の声をよく聞きます。またかつて取材したときは、年間数万人の応募者がいるという話も聞きました。まるで番組出演しているように早押しクイズが楽しめるスマホゲームもあることから、番組サイドもその人気を認識できている様子がうかがえます。

 このようにクイズ熱はむしろ高まっている今、「アタック25」のような視聴者参加型クイズ番組が求められていることは間違いありません。

 今後、特番として放送される可能性はありそうですが、たった4人の出場者で争う「アタック25」の真骨頂は、毎週のレギュラー放送。地上波なら午前中や深夜帯、あるいはBSやCSでの放送、さらにABEMA、YouTube、動画配信サービスでの配信も含め、継続する余地はあったのではないでしょうか。それに、「アタック25」ほどしっかりとしたフォーマットを持つ番組なら、ネット上のライブやリアルイベントのコンテンツとしても活用できそうです。

 番組終了は、視聴率やスポンサー収入の低迷という以前に、現在のクイズ人気を「アタック25」という番組に結び付けられなかったことが大きいのでしょう。

「若者向けの後番組」極端な路線変更

 一部報道に「後番組は若年層をターゲットにした番組になる予定」と書かれていましたが、この方針には特に不満のコメントが飛び交っていました。

 奇しくも今春、同じ日曜13時台の長寿番組「噂の!東京マガジン」(TBS系)が地上波放送を終了し、BS-TBSでの放送に移動。後番組に若年層向けの「それSnow Manにやらせて下さい」「爆笑!ターンテーブル」を選んで物議を醸しただけに、「テレビ朝日も同じことをするのか」と、その編成戦略を疑問視しているのです。

 しかし、多くの人々が指摘しているように、「若年層は日曜13時台には家にいない」「家にいたとしてもネット、ゲーム、アニメ中心で、テレビに引きつけるのは夜以上に難しい」のが現実。どんな番組を放送するにしても、「『アタック25』より数字を取れないのではないか」とみられています。

 そもそもテレビ朝日や系列局の朝日放送は、バラエティなら「ポツンと一軒家」「あいつ今何してる?」「ザワつく!金曜日」など、ドラマなら「相棒」「科捜研の女」「警視庁・捜査一課長」「特捜9」「刑事7人」「遺留捜査」などのように、これまで「世帯視聴率を取るために中高年層向けの番組を量産してきた」という経緯があります。多くの人々がそんなテレビ朝日系列局の姿勢を知っているから、急に若年層向けの番組に切り替えることに違和感を覚えているのでしょう。あまりに極端な戦略変更であり、ビジョンに欠けるきらいは否めないのです。

 また、同じ朝日放送制作の長寿番組で「アタック25」の前に放送している「新婚さんいらっしゃい!」も主に中高年層向けの番組だけに、今後どうしていくのか。こちらも視聴者参加型の番組であり、その去就が注目を集めていくでしょう。

「長寿番組の終了」には説明が必要

 本来、長寿番組は高齢化社会が進む中、テレビ局にとって貴重な財産。中高年層のファンを楽しませられるだけでなく、長年愛された普遍的なフォーマットは、工夫次第で若年層にも訴求できるはずです。

 なかでも「アタック25」は、昭和時代に手掛けたスタッフと初代司会者・児玉清さんによる貴重なレガシー。今回の報道に際して「果たせなかった海外旅行獲得の夢を、子供たちに託していただけに、その夢がついえてしまうことがなんとも残念」というコメントがあったように、祖父母・父母・子供の3代で楽しめる数少ないコンテンツです。

 気がかりなのは、このところ各局で長寿番組を終了させる動きが続いていること。どの局も「レガシーを継承していく」という意識が薄く、それよりも「目の前の数字を取っていかなければやっていけない」という追い込まれた状況にあるのかもしれません。

 前述したようにクイズ熱は若年層にも高く、ほかに視聴者参加型の番組がほとんどない今、「アタック25」は目の前の数字では測れない価値を持っている番組なのです。制作サイドはそんな本当の価値に気づいているのか? 十分な議論を重ねた上での終了なのか? あまりにファンが多く、「日曜昼に放送しているのが当然」と思われている番組だけに、制作サイドからの説明が必要でしょう。

 今回、番組終了を報じる記事のコメント欄やSNSには、「単純だけど奥が深いクイズ番組だった」「パネルを取る戦略性が勝負を決める面白さは単なるクイズ番組の枠を超えている」「『自分もいけるかも』と希望を持たせる絶妙な難易度の問題がよかった」「台本があるような芸能人のクイズ番組はつまらない」「残酷なまでの逆転劇が昭和の番組っぽくていいのに」などと、さまざまな魅力を挙げる人々の声が続出していました。

 これらの反響を見て、「やっぱりレギュラー放送を続けたほうがいいのではないか」という議論が起きる……そんな柔軟性が持てたら、テレビ業界の未来は決して暗くはないような気がするのです。


木村 隆志(きむら たかし)◎コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。