新国立競技場に掲げられる五輪の輪

「お・も・て・な・し」

 滝沢クリステルのこの言葉で始まった、今回の東京五輪。想定外だった新型コロナウイルスの猛威によって開催自体の是非や開催方法について、開会式まで3週間を切った現在でも揺れている。

「無観客も軸として考えていく必要がある」

 東京都の小池百合子知事が7月2日の会見で語ったように、近々の問題は、五輪の観客をどうするかが大きな争点となっている。有観客か無観客か――。比較対象となる大きなスポーツ大会が、現在ヨーロッパと南米で開催されている。

「サッカーのヨーロッパ選手権『ユーロ2020』が1年遅れで、同じくサッカーの南米選手権『コパ・アメリカ』が現在開催されています。ユーロは11都市に開催地が分かれ、コパ・アメリカは共催する予定だったコロンビアとアルゼンチンが開催を返上し、“コロナは風邪”と公言するブラジルのボルソナロ大統領の判断により同地で開催されています。ユーロは有観客、コパ・アメリカは無観客です」(スポーツ紙記者)

有観客大会の影響が確実に出ている

 有観客と無観客、対照的な開催方式となっているが、やはりそこにはコロナの影響が大きく出ている。

「有観客のユーロは、各地でそれぞれのコロナ対策をとっており、スタジアムの収容人数制限もバラバラです。8都市が収容人数の22%~45%を上限とし1万2000人〜2万2500人、ほか50%となる3万4000人までという制限を設けている都市もあれば、ハンガリーのスタジアムはほぼ満員となる6万人以上を容認しています。

 試合映像を見ると、今の日本の状況からすればビックリしてしまうほどにパンパンの“密”で大盛り上がり。ほとんどの観客はマスクを付けず、それどころか半裸になって叫んでいる人も珍しくない。サッカーへの思い入れが日本とは比較にならないほど“熱い”欧州の日常が戻ってきている様子が見られます。

 しかし、本当の日常が戻ってきているわけではなく、スコットランドではユーロに関係する感染者が累計2000人近くになるなど、やはりその影響は大きく出ています」(同・スポーツ紙記者)

 一方のブラジル開催で無観客にしているコパ・アメリカだが、選手とコーチ陣が集団感染するケースが続出。

「国によっては、試合が成立しないのではと思わせるくらいの感染者数です。元ブラジル代表選手が皮肉を込めて “もうこれはサッカーの大会ではない。1人の感染者も出さなかったチームを勝ちにすればいいのでは”と発言しているほどです」(同・スポーツ紙記者)

 ヨーロッパやブラジルで起きているようなクラスターを見ていると、決して他人事とは思えなくなってくるが、果たして東京で起きないと言えるのか。東京五輪を有観客で行った場合のコロナ感染について、医師に話を聞いた。

「結論から言って、観客を入れてもクラスターは起こらないと思います」

 そう話すのは、新潟大学名誉教授で医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦先生。

「コロナの感染は、ほとんどの場合が飲食を介して感染者の唾液で感染します。席を1つ置きにして間隔を空ける、お酒や食べ物といった水分補給以外の飲食を禁止するといった対策をとることで、会場内で感染することはほぼないと思います。もちろん客席で大声を上げて、顔に唾液がかかるような環境では感染してしまいます。

 そのため、ヨーロッパの観客のように、密集してマスクを付けず、大声を出すようなことはしないという前提です。ただ、この1年、日本人は基本的にはまじめに感染予防を守ってきましたから、会場でそういった振る舞いをすることは少ないのではないかと思います」(岡田先生、以下同)

試合後に大騒ぎするサポーター

 ただ、問題は会場だけではない。

ユーロの試合が行われた後に、会場の外でサポーターが大騒ぎしている映像を見ましたが、そういったことはもちろん、食事や飲み会に行くのも危険です。試合が終わったらまっすぐ帰宅する。クラスターを起こさないためにも、徹底してほしいですね」

 日本はワクチン接種が遅れており、欧米は進んでいると言われる。実際にユーロではマスクをつけない観客が多く、アメリカではマスクなしの音楽ライブなどが開催されだしている。ワクチンを接種していれば“ノーマスクでOK”なのか。

「それは絶対ダメですね。ワクチンそのものが世間で言われているほど“効かない”という調査結果は、世界的に見ると実は多い。有効率95%とうたっていますが、実際にはこれよりもかなり低いと考えます。またワクチンを2回接種したとしても、有効期限はせいぜい3~6か月。日本はゆっくり接種が進んでいますが、2月くらいに接種した人はもう期限が切れているかもしれません。

 ワクチンを摂取しているか、していないかは、感染予防にはあまり影響しないと思います。ヨーロッパの大会で感染者が多くなってしまったのは、もともとの感染者が多いうえに、先ほど話した感染対策がまったくなされていないことが原因でしょう」

 岡田先生は、今取り沙汰されている“有観客か無観客か”よりも、はるかにリスクが高いことがあると指摘する。

「今、日本ではプロ野球やJリーグなどでは観客を入れて開催していますが、感染源にはなっていません。国内の人が動くのであれば、きちんと対策を取っていれば、リスクがないとは言いませんが、それほど問題があるとは思いません。しかし、選手や大会関係者など合わせて海外から9万人が来日すると言われていますよね。その人数が入ってくること自体が恐ろしいですね。

 ニュースでもやっていますが、空港での検疫が心配です。今現在、最も厳しくした対応を見ても、まだ不十分だと私は考えます。外国から来日した人は最低限10日間は隔離するべきです。10日間隔離して症状がなくて、はじめて感染していないという安全性が担保されます。PCR検査の是非も問われていますが、4割ほどは見落としがあると言われています。検査で陰性だったから、すぐ自由に行動していいという話では決してありません

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東京五輪は“変異株の祭典”に

 五輪関係者が万単位で来日することによって、ありとあらゆる変異株が持ち込まれる可能性も……。

ものすごい数の外国人が狭い日本に来ることで“変異株の祭典”になってしまうんじゃないかという恐怖感があります。来日するのは基本的に選手と関係者ですが、9万人もいればユーロの観客のような対策を考えない不埒な人がなかにはいると十分想定できますので」

 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の武藤敏郎事務総長は6月の会見で、選手や関係者、また報道陣を対象に、以下の考えを示した。

「事前に了解を得て、入国の際に持参したスマートフォンのGPS機能をオンにしてもらう。常に監視するためではなく、GPSがオンになっているからきちんと自分の行動が証明できる」

 この対策については……。

GPSがあったとしても、“どこかに行った”とわかった時点で手遅れですので、十分な対策とはいえません」(岡田先生)

このコロナ禍においては、「おもてなし」をしないことが、もっとも双方にとっていいおもてなしなのかも……。