“ひろゆき”こと西村博之氏(2011年)、フローラン・ダバディ氏(2003年)

「醜いツラだ」
「この醜いツラは、ゲームをプレーするためにいる。恥ずかしくないのだろうか」
「お前らは(技術が)進んでいるんじゃないのか?」
「ひでえ言葉だ」

 嘲笑されながらこのような言葉を投げかけられたら、人はどう思うか……。世界的にも有名なサッカー選手2人による“人種差別”的行動が波紋を呼んでいる。

滞在ホテルの日本人スタッフを揶揄

今回、問題となっているのはウスマン・デンベレ選手とアントワーヌ・グリーズマン選手の2人。ともにフランス代表で、現在開催されているヨーロッパナンバーワンを決める大会『EURO』(ユーロ)にも出場しています。また2人の所属クラブは、メッシも所属するスペインのFCバルセロナです」(サッカーライター)

 “事件”は、バルセロナでの活動中に起こった。

「バルセロナは'19年7月にチームで日本ツアーを行いました。日本で2試合戦ったのですが、その宿泊先のホテルで過ごしているところを撮影した動画が今回、流出したのです。デンベレ選手は日本のサッカーゲーム『ウイニングイレブン』が好きすぎて、チームの練習に遅刻するほど。来日時もホテルのスタッフに頼んで部屋でプレイできるように設定してもらっていたそうで、今回流出したのもその場面の動画でした」(同・サッカーライター)

 動画の中に収められていたのが、デンベレによる冒頭のセリフだ。部屋でゲームの設定を試みているホテルの日本人スタッフに対し、わざわざ顔をズームにするなどしながら「醜い」と言い放ち、設定に時間がかかっていることを揶揄。さらに、顔だけでなく日本語についても笑いながら悪態をついた。フランス代表の“先輩とも言えるグリーズマンも、この若者の差別発言を諌めることはなく、笑いながらそれを眺めていた。

今回流出したデンベレ選手とグリーズマン選手の差別発言動画

「動画が流出して以降、日本だけでなく、母国であるフランスメディアや所属クラブのあるスペインメディアもこの件を批判的に報じました。サッカーの国際連盟であるFIFAやバルセロナが処分を検討していると報じられています」(同・サッカーライター)

 この差別的発言に異を唱える者もいる。フランス人やスペイン人……かと思いきや、日本人だ。

「作家の辻仁成さんと、『2ちゃんねる』創設者であり実業家の“ひろゆき”こと西村博之さんは、彼らを“擁護”しています。2人に共通するのは、共にフランス在住であること。辻さんは動画を検証し、“醜い(顔)”という表現はいわゆるスラングで、醜いやひどいという意味ではあるが、フランス人はよく使うものと説明しました。 “擁護は出来ないけど”としながらも実質的に擁護しています。ひろゆきさんの論調も、基本的に辻さんと同様のものですね」(ウェブライター)

ダバディ氏は「恥ずかしい」と憤り…

 このような“日本人”によるフォローもあったが、日本人としてフランス語を学んだ辻やひろゆきより、はるかにフランス語そしてフランス文化に詳しい“ネイティブ”からの意見もあった。'02年の日韓ワールドカップでトルシエ監督の通訳を務め、その後も日本での活動が目立つフランス人ジャーナリストのフローラン・ダバディ氏だ。彼はツイッターにて次のように答えている。

《私も子供の時にずっとデンベレ選手出身のパリ郊外でサッカーをしてきた。貧しい階級の子供たち(フランス系であろうが、アフリカ系であろうが)はありえない用語でお互いを差別し、それが面白いと信じています。情けないのは親の教育です》(原文ママ、以下同)

《多民族国家の問題でもありますが、同じ町、同じマンションで共存生活を送っているだけに、もう人種差別はないと暗黙に彼らが考えます。とはいえ、彼らのスラング用語の中で人種に言及した言葉が多いのです。いずれも、恥ずかしいです》

フローラン・ダバディ氏(本人のインスタグラムより)

 フランス人が「親の教育が情けない」「恥ずかしい」と憤り、日本人が「普通に使われる言葉」「そこまでひどい意味じゃない」と肩を持つ……。

 当の2選手は共にSNSで、謝罪(?)を行っている。

《最近、インターネットで2019年のプライベートな映像が出回っている。このシーンはたまたま日本での出来事だった。地球上のどこで行なわれていてもおかしくないし、僕は同じ表現を使っただろう。これはどこかのコミュニティをターゲットにしたわけではなく、このような表現は、プライベートでも友人の間では、その出身地にかかわらず使うことがある。

ただ、このビデオは公開されており、この映像に映っている人々を不快にさせる可能性がある。だから、彼らに心からの謝罪を捧げる》(デンベレのインスラグラムのストーリーズより)

《僕はあらゆる形の差別に反対する立場を約束してきた。ここ数日間で、その意思を無視し、僕をそうではない男としようとする人たちがいる。僕に対する非難に対しては断固として反論するとともに、日本人の友人たちを傷つけてしまったのなら謝罪したい》(グリーズマンのツイッターより)

 2人の謝罪についても、ダバディ氏はツイッターでこのようにコメント。

《お二人は「人種差別じゃない、私たちは普段から使ってるスラングだよ。どの人種に対してもさ」と言い訳をするのですが、アメリカだったらこれは全く通じないのです。彼らは間違っている。しっかりと謝って欲しかったです》

スポンサー『楽天』は「許されるものではない」

 '19年にバルセロナが日本ツアーを開催したのは、日本企業である『楽天』がバルセロナのスポンサーになったためだ。現在、楽天は、バルセロナのユニフォームの胸スポンサーを務めている。'17-'18年シーズンからの4年間の契約で、総額にして約284億円の大型契約と報じられている。それほどの大金を払いながら、所属選手が差別発言などたまったものではない。楽天グループ代表の三木谷浩史氏はツイッターでコメントを発表した。

《FCBの選手が差別的発言をした事について、クラブのスポンサーまたツアーの主催者としてとても残念に思います。楽天はバルサの哲学に賛同し当クラブのスポンサーをしてきただけにこのような発言は、どのような環境下でも許されるものではなく、クラブに対して正式に抗議すると共に見解を求めていきます》

 デンベレとグリーズマンの2人を含め、バルセロナが来日時に宿泊したのは都内のヒルトンホテルだという。ヒルトンに今回の差別的発言について見解を求めると、以下の回答があった。

「私どもではお客様のいかなる情報も公開はいたしておりませんため、コメントが出来かねます。ご理解のほどお願い申し上げます」(ヒルトン東京担当者)

 デンベレはブラック・ライブズ・マター(アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけに、アメリカで始まった人種差別抗議運動)に賛同している。しかし、今回の件により、彼のインスタグラムには《差別主義者の定義を知っているか?》などと批判が集まっている。

デンベレ選手のインスタグラムより。ブラック・ライブズ・マターに賛同している

 グリーズマンも6月に就任した『遊☆戯☆王トレーディングカードゲーム』のアンバサダー契約が解除されることが、販売元の株式会社コナミデジタルエンタテインメントより発表された。

 世界中で行われているサッカーは、さまざまな人種の人たちがプレーする。国際大会などでは、試合開始前に両チームのキャプテンによる人種差別撤廃を目指す宣誓が行われることも少なくない。けっして差別があってはならないのだ。