※写真はイメージです

 かつて一世を風靡した「野菜ファースト食事法」。その考案者が11年もの歳月をかけて研究を重ねた最新科学の食べ方が「野菜5分食べ」。「食べる時間」と「食べる時間帯」を変えるだけで血糖値の上昇が抑えられ、気になる病気を予防できるのです!

 食事の最初に野菜を食べることで、血糖値を上げにくくする“野菜ファースト”の食事法。ダイエットに効果があると話題になったけれど、「いまいち効果がわからない」という人はいませんか?

「実は、新たな研究で、食べる順番だけでなく、“どう食べるか”が重要だと判明したのです」

 そう教えてくれたのは、“野菜ファースト”の生みの親、糖尿病専門医の梶山靜夫先生と京都女子大学の今井佐恵子教授。

「例えば、10分で食事をすませる人は20分かける人に比べ、血糖値が最大50%も上昇します。“野菜ファースト”で実際に血糖値が改善しなかった人は、早食い傾向があるのかもしれません」(梶山先生)

 そもそも、血糖値が高いと何が悪いのか。糖尿病を引き起こすだけではない。脳卒中や心筋梗塞などの血管系の病気や、がん、アルツハイマー型認知症の発症リスクも高まる。さらに、高血糖による糖化が体内で起こると、シミや、しわ、くすみの原因になる。高血糖の状態が続くと太りやすい体質にもなる。血糖値を上げない食べ方を習得することは、健康維持の鍵になるだけでなく、ダイエット、美容、アンチエイジングにも役立つのだ。

食事の最初は野菜を5分食べる

 では、具体的にはどんな食べ方をすればよいのか。キーワードは“5分×3”。野菜(食物繊維)→主菜(タンパク質)→主食(糖質)という順番で、それぞれ最低5分ずつかけて食べることで、“野菜ファースト”の効果はグンとアップする。

「野菜に含まれる食物繊維は、糖質を包み込んで吸収スピードをゆるやかにするので、野菜を最初に食べると血糖値の急上昇が防げます。しかし、早食いをしてしまうと、野菜はその“糖質を包み込む働き”をすることができません。つまり、最初に野菜、次に主菜をそれぞれ5分という時間をかけてゆっくり食べれば、確実に食物繊維を糖質より先に小腸へ到着させる“時間稼ぎ”ができるのです」(梶山先生)

 “5分は長い”と思う人は、口に入れたものがなくなってから次のひと口を食べるなど、ゆっくり食べる工夫をしよう。

よく噛まずに飲み込むと、早食いになるので、ひと口の量は多くしないこと。歯ごたえのある食材を選んだり、食材を大きめにカットして、自然と噛む回数を増やすことも大切です。噛む回数が多いと“満腹中枢”が刺激されるので食べすぎも防げます」(今井先生)

早食いの人は血糖値の変動が大きい!

 10分で食べる(早食い)と上下の幅が大きく、20分かけて食べる(ゆっくり食べ)と上昇が抑えられた。つまり時間をかけて食べたほうが血糖コントロールできる、ということ

早食いの人とゆっくり食べの人の血糖値の変動

夜遅い食事は、分食で高血糖リスクを回避

 夕食の時間も大切。同じメニューでも18時ごろより21時を過ぎて食べるほうが、食後の血糖値が上昇する。

「夜遅くに食事をすると、翌朝になっても血糖値が下がりきらず、正常値に戻らないまま朝食で再び血糖値が上がってしまうんです」(梶山先生)

 翌朝まで血糖値が下がりきらないと、空腹をおぼえにくく、朝食を抜く→昼食のドカ食い→食後の血糖値の急上昇につながる。どうしても夕食が遅くなる場合は、“分食”で乗り切るのがよい。

「18時ごろに“ちょい食べ”し、夕食を2回に分ければ、21時ごろに食事をとっても血糖値は大幅に上昇しないことが研究でわかりました」(今井先生)

 分食をする際は、18時ごろに野菜やトマトジュースとサンドイッチやおにぎりなどの炭水化物を少量とり、21時以降は野菜と主菜のみで糖質をとらないのがポイントだ。

 一方、おやつは食後よりも午後3時ごろに食べるのが正解。個人差はあるが、食後3時間ほどで血糖値は下がるので、午後3時半ごろにおやつを食べても血糖値は大きく上がらず、夕食前に正常値に戻すことができる。

「夕食後にデザートを食べると、食事で上がった血糖値に上乗せする形で血糖値が高くなってしまいます。翌日の朝食後の血糖値にも影響が及ぶので最悪ですね。食べるタイミングさえ気をつければ、基本的には好きなものを食べても大丈夫なので、ぜひ注意してほしい」(梶山先生)

 食べ方と食べる時間さえ押さえれば難しいことはなし。バージョンアップした“野菜ファースト”食事法で効率よく健康を手に入れよう!

夕飯を食べる時間帯によって血糖値の推移は異なる

夕飯を食べる時間帯の違いによる血糖値の推移

 2型糖尿病の人で、朝は8時、昼は13時に食事をし、夕食だけ「18時」と「21時」の2パターンで血糖値の推移を調査。朝食・昼食の血糖値は両者に大きな差はないが、18時以降の様子に大きな変化が。健康な人も同様の結果に。

こんな食事に注意!

1. ミートファーストは要注意

 野菜より先に肉を食べると、「インクレチン」を介しインスリンが多く分泌されるため、インスリンの節約効果は期待できない。インスリンの過剰分泌は、さまざまな病気のリスクに。

2. 糖質制限もおすすめできない

 糖質を控えると肉など動物性脂肪の摂取量が増えやすく、動脈硬化が進む。必要なカロリーが不足すると筋肉量が減り、要介護の手前の「フレイル」に陥りやすくなる。

“5分間野菜ファースト”で最低限守りたい食事のルール

1. 最初に食べる野菜の量はこぶし1つ分

「厚生労働省では、1日に摂取する野菜の目標量を“350g以上”としていますが、わかりやすくすると、毎食およそ握りこぶし1つ分。トマト1個、きゅうり1本分程度です。そのまま食べられる野菜は、用意の手軽さだけでなく、噛みごたえもあるのでいいですね」(梶山先生)。ラタトゥイユやお浸しなどの常備菜を作り置きしておくのもおすすめ。

「食事の30分前にトマトジュースを飲むだけでも食後の血糖値の上昇を抑制できます」(今井先生)

2. お菓子を食べるならカカオ70%以上のチョコ

「おすすめは、ひとかけらごとに個包装されたカカオ70%以上のダークチョコレートを3~4枚、油や塩をまぶしていないナッツ20粒。洋菓子よりも、粒あんを使った和菓子のほうが、豆の食物繊維がとれるのでおすすめ」(今井先生)。とはいえ、“午後3時”のおやつタイムを守れば、基本的に好きなものを食べてOK。

「朝食や昼食を菓子パンだけですませるのはダメですが、おやつならセーフ。どうしても食べたい人は午後3時に」(梶山先生)

※写真はイメージです

3. ポテサラ、マカロニサラダはいちばん最後に

「見落としがちですが、じゃがいも、マカロニ、春雨は糖質。主成分が糖質で、野菜はほんの少しですから、“サラダ”と名前がついていても、ポテトサラダやマカロニサラダは最後に食べる必要があります」(梶山先生)。豆類も大豆だけがタンパク質の仲間で、ほかは炭水化物なので要注意。

「“三角食べ”ではなく、コース料理のように一品ずつ順番に食べるのが基本。最後に食べる料理は自分から遠い場所に配膳しておくといいですよ」(今井先生)

教えてくれたのは……

梶山靜夫先生 ●「梶山内科クリニック」院長。糖尿病専門医・指導医。食べる順番による血糖値の変化に着目し、20年以上研究を継続。糖尿病の食事療法として通称“野菜ファースト”を考案する。

今井佐恵子先生 ●京都女子大学家政学部食物栄養学科教授。食事の摂取時間や方法と血糖変動の関連等を研究。病院での管理栄養士の経験を生かし、梶山氏と糖尿病の食事療法の指導、研究も行う。

 梶山先生と今井先生との最新共著『たった5分!食べ方を少し変えるだけで、「病気にならない!」「好きなものを食べ続ける!」をかなえる本』(主婦と生活社)では、より発展した食事療法を提案。

〈取材・文/河端直子〉