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 プラスチック製の使い捨てスプーンなどの削減や、リサイクルを促す新法「プラスチック資源循環促進法」が今年6月に国会で可決された。2020年7月にスタートしたレジ袋有料化の延長線上にある法律だが、丸1年がたった今、まずはレジ袋有料化の取り組みを振り返ってみよう。

レジ袋有料化の取組みの成果と課題

「今回の施策は環境問題への啓蒙啓発が目的のひとつ。その点では大きな意味があったと思います。身近なレジ袋を通して、すべての人が“環境問題の当事者”になったことがいちばんの成果ですね」

小泉進次郎環境大臣が鳴り物入りで促進したレジ袋有料化。環境負荷の削減というより、環境問題への意識づけが目的というが……

 そう振り返るのは、サステナビリティ・コンサルタントの安藤光展さん。しかし、実際にポリ袋の使用量が減らせたのかについては悲観的だ。

「ゴミ箱の内袋として使ったり、生ゴミを捨てるときに使ったりと、これまで家庭でレジ袋が必要となっていた場面がなくなったわけではありません。最近は“スーパーのレジ袋”といった商品も100円ショップなどで売られていて、スーパー以外で代替のゴミ袋を買う人も増えているのでは」
(安藤さん、以下同)

 たしかに筆者もゴミ捨てにレジ袋を使い回していたが、この1年はゴミ捨て用のポリ袋を新たに購入するようになった。また、エコバッグをなるべく汚さないように、肉や魚を買った際に備え付けのロール状のポリ袋を使う頻度も圧倒的に増えた。結果的にわが家のポリ袋廃棄量は1年前に比べてずいぶん増えている気も……。エコバッグを使って環境にやさしい自分を演じていたが、こうなるとエコではなく単なる自己満足のエゴにほかならない。

「実はどのエコ活動をとっても、環境負荷をかけないものなどひとつもありません。環境問題はトータルで考えることが大切ですが、いろんな側面が絡み合っているのがエコ活動の難しさですね」

「残念なエコ活動」に陥りがちな落とし穴

 普段実践していることのなかにも、実は「残念なエコ活動」になっているものは多そうだ。例えば先ほどのエコバッグの例では、どうすればきちんとした環境対策につなげることができるのだろうか。

「エコバッグは、綿製なら131回、紙製なら3回、ポリプロピレン不織布製なら11回使用してはじめて、レジ袋を使うよりも効果があるという試算があります。家に何枚もエコバッグがあるという人もいますが、エコバッグ自体を製造する際にも環境負荷がかかっていることを忘れてはいけません」

 エコバッグは同じものを何度も繰り返し使うことが何より重要なのだ。雑誌の付録や商品購入のおまけでもらったエコバッグを何枚もため込んでいるわが家のことを考えると耳が痛い。先日も綿製のエコバッグがボロボロになり捨ててしまったが、100回以上使用しただろうか……。

「エコバッグの洗浄ひとつにしても、水を使って、洗剤を使って、洗濯機を回す電力も使いますよね。先ほどの例のようにゴミ捨ての際のリユースなどまでトータルで考えると、綿製のエコバッグを無理して使うよりはレジ袋をスーパーで買ったほうがいいケースも多いです。マイボトルを持ち歩く活動も同様に習慣化が最も重要で、ひとつのボトルを2〜3度使って満足してしまうようでは、環境負荷の軽減にはつながりません

 間違ったエコ活動に陥りがちな落とし穴、ほかにはどんなものがあるのだろうか。

「マイ箸というのは最近はあまり聞かなくなりましたが、例えば、使い捨てのストローやカトラリー。プラスチック製のものではなく紙製のものを使おうといった活動も増えていますが、これも注意が必要です。脱プラスチックという観点では正解かもしれませんが、いちばんいいのは使わないという選択肢。使用することでゴミが増えることには変わりないので、プラか紙かという前に、まずは廃棄物自体を減らそうという発想が大切ですね

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 企業が「ストローを紙製にしました」といった取り組みをすれば、エコな企業だとアピールでき、さらなる消費を増やすことができる。そういったグリーンウォッシュ(環境にやさしいというごまかしの企業アピール)を安易に受け入れる前に、本当に環境にいいのかという視点を消費者として持つことも重要だ。

「最近では環境配慮型製品というものも増えています。省エネ家電のように、使用する段階でエコにつながるというものもあれば、製造から流通、廃棄に至るまでのトータルコストで環境保全に貢献するような製品もあります。こういったものを積極的に選択することはいいのですが、ここでもやはり注意が必要です」

 筆者はちょうどいま冷蔵庫の買い替えを検討中。家電の購入自体がエコにつながるのであれば、なるべく早く、いますぐにでも買い替えたほうがいいと思っていたが……。

「当然ですが“まだ使える家電があるけど省エネにつながるのなら環境配慮型製品に早めに買い替えよう”と新製品を購入するのはあまり意味がありません。製造流通の過程でかかる環境負荷は、どんな製品でもゼロにはなりえません。新しく購入するよりまず、いまあるものを大事に使っていく選択肢も忘れずに検討すべきです

 たしかにわが家の冷蔵庫はまだまだ使える現役選手。消費電力が極端に高くて困っているというわけでもなく、エコを言い訳にしてただ買い替えたかっただけかもしれないと反省した。では、この夏フル稼働予定のエアコンのほうはどうだろうか。

「よく“エアコンは28度に設定しましょう”という省エネ活動の話を聞きますが、これもどこまで環境負荷が減るのかは疑問です。個々の家庭の省エネというのは、意識としてはとても重要ですが、環境全体を考えると微々たる効果しかありません。例えばエアコンを使わずに熱中症になってしまうなど、何かの代償があっては本末転倒です

山を切り開いてまで太陽光発電の疑問

 安藤さんによると、何かの利益を得る一方で何かを毀損してしまうという事例は、サステナビリティ(持続可能性)の問題でよくある話だそう。

「太陽光発電や電気自動車など、クリーンなイメージがあるものについても同様です。先日の熱海の土砂災害は記憶に新しいですが、山を切り開いてまで太陽光を使わないといけないのかという議論も活発化していますよね。ほかにも、日本で回収した服をアジアやアフリカの発展途上国に寄付しようというリサイクル活動もありましたが、その輸送の際のコストや環境負荷を考えると効果がどこまであるのかわかりません」

 たしかに、太陽光パネルの製造にも設置にも過大な環境負荷がかかる。電気自動車も発電自体にかかる負荷を考えれば、どこまでエコといえるのだろうか。

 さらには当たり前のように続けているゴミの分別にさえ不要論がある。

「プラスチックゴミは原料として再利用するよりも、分別せずに可燃ゴミとして燃やしてエネルギーを回収したほうが効率がいいという、サーマル・リサイクルという考え方もあります。

 冒頭でも述べたように、どんなエコ活動でも絶対的に正しいというものは存在せず、どれも一長一短という側面があるので、環境問題は本当に難しいですよね」

 とはいえ、環境について考え続け、ひとつひとつのアクションを積み重ねることは絶対にやめてはいけない。

「環境問題はみんなが被害者であり加害者。間違ったエコにならないためには、思い込みをせず、まずはいろんな情報を集めることが大事です」

お話を伺ったのは……サステナビリティ・コンサルタント 安藤光展さん
一般社団法人CSRコミュニケーション協会・代表理事。専門は、CSR、SDGs、サステナビリティ情報開示。著書に『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。

(取材・文/吉信 武)