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 サウナ人気が止まらない。『一般社団法人 日本サウナ・温冷浴総合研究所』による最新の調査では、コロナ禍にもかかわらず「月に1回以上サウナを利用する」サウナ愛好家、いわゆる“サウナー”は国内に推計約1千万人。設備の整った温泉施設が増えてサウナが“レジャー化”したことや、SNSでサウナ好きをアピールする芸能人の影響などで、若い世代や女性のサウナーも目立つようになった。

人気のサウナで気をつけること

 ブームの一端を担ったのが、タナカカツキ原作の漫画『マンガ サ道~マンガで読むサウナ道』(講談社)。2019年に原田泰造主演でドラマ化され、7月から新シリーズ『サ道2021』(テレビ東京系金曜深夜0時52分~)がスタート。サウナ→水風呂→休憩の一連の流れを経て、最後に「ととのった~」と昇天するシーンが印象的だ。

 過熱するブームの一方で、危険な入り方をしているサウナーも目立つ。限界ギリギリまで熱さに耐え、ひたすら我慢するのが正解だと思い込んでいる人も少なくない。

健康効果を高めるためのサウナですが、間違った入り方では逆に危険を招きます」と指摘するのは、日本サウナ学会代表理事で、慶応義塾大学医学部特任助教の加藤容崇医師。ほぼ毎日サウナに入る、筋金入りのサウナーだ。

まず大前提として、サウナを利用してはいけない人もいます。サウナでは一時的に血圧が上昇するため、重度の高血圧や動脈瘤など、心臓血管系の疾患がある人は症状が悪化する可能性があり、危険です。また、糖尿病など腎臓系の疾患の人も、体内の血液量を調整する力が低下しているため、リスクが高くなります。サウナを利用したい場合は、必ず主治医に相談してからにしましょう

 特に危険なこれらの疾患以外でも、持病がある人は必ず主治医に相談すべきと加藤医師は念を押す。また、健康であっても、サウナを利用してはいけない“3つのケース”がある。

まずは風邪をひいているとき。たまに“ひき初めならサウナでよくなる”などの声が聞かれますが、まったくの誤解です。サウナで汗をかくことで身体の脱水が進み、むしろ悪化します。また、風邪をひいた状態では体温を認識するセンサーが鈍くなるので、体温の上昇を感じづらくなり危険です。他人に感染させないためにも、コロナ禍では特に、体調が万全でないときの利用は控えるべき

 2つ目のケースは飲酒後。「サウナで酒が抜ける」という認識を持つ人は多いが……。

サウナでデトックス、などという表現が蔓延していますが、これは間違い。一時的に汗は出ますが老廃物が排出されるわけではないし、もちろん酒も抜けません。アルコールを摂取すると、体内にアルデヒドという毒素が発生し、これを排出するために尿がたくさん出ます。飲酒によって尿の量が増え、ただでさえ身体から水分が失われているのに、サウナで汗をかけばさらに脱水が加速します。危険なので、絶対にやめましょう

 3つ目のケースは、満腹状態でのサウナだ。

食事の後は、消化を促すために胃や腸などの消化器に血流が集中します。しかしサウナに入ると血流が皮膚のほうへ流れるので、満腹の状態では消化不良を起こしてしまいます。サウナ前は、やや空腹ぐらいの状態がベストです

 サウナ後であれば、適度な飲酒や食事はOKだ。

「ただし、サウナの後はカロリーの吸収率が高くなるという論文もあります。肥満防止のためにも、高カロリー食は避けたほうがいいでしょう」

高齢者・女性は注意して!

 健康な大人が、水分補給しながら無理なく利用するのであれば、サウナの危険性はさほど高くない。しかし、高齢者と女性に限っては十分な注意が必要だ。

高齢者は自律神経の機能が低下しており、暑さや寒さへの感度が鈍くなっています。真夏にエアコンのない部屋で、高齢者が倒れるケースは後を絶ちません。身体にそうとうな負担がかかっていても、高齢者はそのつらさを感じることができず、気づかぬうちに限界を超えてしまうのです。サウナでも同様の状態に陥る危険性があります

 また、女性は男性よりもサウナの影響を受けやすいという。

サウナに入ると交感神経が活性化し、男女ともにホルモンの働きが活発になります。これまでのデータでは女性のほうがホルモン数値の変動が大きく、いい影響も悪い影響も男性より強く受けやすいことがわかっています。実際に、朝晩1日2回、毎日1時間ずつのサウナ利用を1週間続けた女性は、7人中5人が月経不順になるという結果となりました

 これは、サウナ利用で活発に分泌される「プロラクチン」というホルモンの影響による。

「プロラクチンは、出産後の女性が母乳を出すために欠かせないホルモンです。授乳中に月経がないのはプロラクチンのはたらきによるものですが、過度なサウナ利用でも、同じような状態が起きてしまうのです」

 ただし、これを簡単に防ぐ方法がある。

サウナでは、タオルで顔を覆いましょう。人は身体中に熱を感知するセンサーがあり、いちばん敏感に反応するのが顔。そのため、この部分を覆って熱の刺激から守るだけで、ホルモンに対する影響が大幅に抑えられるのです

 サウナへの適応がしづらい高齢者と感度の高い女性は、できるだけ身体へ負担をかけない利用法がおすすめだ。

「サウナには、大きく分けて乾式のドライサウナと、湿式のスチームサウナやミストサウナがあります。乾式はカラカラに乾燥してつらさを感じやすいため、高齢者や女性には湿式をおすすめします。とはいえ、湿式でも室温と湿度が高いほど、身体への負荷も大きくなります。サウナ=ガマンは間違いです。決して無理せず、気持ちいいと感じる程度でとどめましょう」

医師が教える正しいサウナ

 加藤医師は「正しいサウナの入り方を知らない人も多い」と話す。

サウナ→水風呂→休憩で1セットですが、もっとも大切なのは休憩です。実はサウナと水風呂は、休憩で最高のリラックス状態を得るための“前座”でしかないんです

 水風呂が苦手な人も多いが、必ずしも入らなければならないものなのか。

「水風呂がつらいのは、サウナで十分に身体が温まっていないから。サウナ室では下段がもっとも室温が低く、上段にかけて高くなっていきます。無理をせずに自分が快適と感じる段に座り、タオルで顔を覆いましょう。また、あぐらや体育座りで足と身体をなるべく同じ高さにそろえ、均一に温めます。

 意識を背中の真ん中と足先に集中し、この部分が温まったと感じられれば、深部体温が高まった証拠。水風呂も気持ちよく感じられるはずです。それでも冷たさが気になる人は、両手を水風呂から出すとよいでしょう。水風呂で心臓に負担をかけないためには、ゆっくりと息を吐きながら入ることも大切。身体の表面だけが冷えて、芯は温まっている状態がベストなので、水風呂は約1分で出てください」

 サウナと水風呂に正しく入ることができれば、休憩で深いリラックス状態、いわゆる“ととのった状態”を感じられるという。ちなみに、この1セットはトータル10分程度で十分とのこと。これまで、熱いサウナを長時間ガマンし続けてきた人には、目からウロコかもしれない。

サウナは正しく利用すれば、さまざまな健康効果が得られます。世界有数のサウナ大国・フィンランドの調査では、心筋梗塞などの心臓病のリスクが大幅に下がることがわかりました。また、血圧を10~15mmHg程度下げる効果もあります。ただし前述したように、重度の高血圧の人は危険を伴うこともあります。必ず医師に相談しましょう

 フィンランドでは、認知症や呼吸器疾患の発症リスクの低下も報告されている。このほかにも、うつ病や睡眠障害の改善、肌の新陳代謝が促進されることによる美肌効果、肩こりや腰痛の緩和など、じつに多くのメリットがある。

「コロナ禍で健康意識が高まるなか、サウナには免疫力アップの効果があることもわかっています。サウナに入ることで、細胞の損傷を修復するヒートショックプロテインというタンパク質が体内で増加し、免疫細胞を活性化するためです」

 デメリットを理解しつつ、メリットを追い求めることで、サウナは100倍楽しくなる。無理なく活用し、その恩恵にあずかろう。

話を聞いたのは……●加藤容崇(かとう・やすたか)医師●医学博士。慶応義塾大学医学部腫瘍センター特任助教。専門は、がん遺伝子診断。予防医療としてのサウナに着目し『日本サウナ学会』の代表理事としても活動中。

(取材・文/植木淳子)